次の日の早朝、ルーディアは日課の為に動きやすい服に着替えて、レオと共に家を出た。
昨夜のフィッツは何も言わず抱き締めてくれて、多少は落ち着いたと思いたいが…この後の改めての話し合いを考えると気が重い。
はぁ、とため息を吐き前を見ると、門の横にルイジェルドが立っていた。
「む、早いな、おはよう」
『おはようございます』
挨拶を交わす二人の間に不穏な空気はない。
「ワン!」
『此方レオといいます。散歩に行くところですけど、一緒に行きませんか?』
「ああ」
ルイジェルドは頷くとルーディアと並び立つ。
そうして二人と一匹はゆっくりと歩きだした。
「…ルーディア、昨日から気になっていたんだが、その脚はどうした?治ったのか?」
その問いにルーディアは首を振る。
『いえ…私の腕と脚はそもそも聖級、王級でも治せるかわからないみたいですから…これは友人達が作り上げてくれた、感覚のある義足です』
「なんだと…?そんなものが作れるのか…」
『自慢の友人達ですよ』
二人の会話は和やかに行われた。
ルイジェルドの旅路の話を聞き、ルーディアも自分の話をする。
ルイジェルド人形の作成の目処を立てつつ、どう販売するか悩んでいる話をすれば、まだ取り組んでくれていたのだな、と嬉しそうに笑っていた。
エリオットに関しては、今ルーディアと家庭を築いていないのは残念ではあるが、それ以外に自分から言える事はない、と苦笑いをしていた。
「力を求める…戦士がかかる病気のようなものだ」
『そういうものですか…』
それはそれとして、ルーディアは後でエリオットとの子であるアルスを抱いてやって欲しい旨を伝える。
『貴方がずっと守ってくれたお蔭で、産まれた命ですから、是非』
「…そう…か、俺が…。わかった」
頷くルイジェルドは、何かを噛み締めているようだった。
途中ペースを早め、駆け足となり、暫し互いの息遣いだけが聞こえる時間が流れる。
やがてレオが満足そうに吠え、散歩は終わり…帰路につく事になる。
ゆったりと歩く道中でルイジェルドが口を開く。
「…昨日の事だが、すまないな。ノルンにはここまでの道中で、ルーディアが苦労してきた事は伝えたつもりだったが…」
『…いえ、あれは今までの事なんて関係なく、今の私が気に食わなかったんだと思います。…ミリス教徒からすれば、あまりよく見られないだろう自覚はありますから』
「あまり自分を責めるな。お前は転移事件から数年、幼い身で苦労しただろう。もう好きに生きていい…俺はそう思う」
『…ありがとうございます』
「それで、今後ノルンとはどうするつもりだ?共に住むのも互いに良くないように思うが…」
『魔法大学には寮がありますから、そちらのほうに住むように…出来れば良かったんですけどねぇ…』
そこでルーディアはオルステッド関係の話をルイジェルドに伝える。
自分がオルステッドの下についた事、ヒトガミの事、守護魔獣レオの事、ノルンの事…悲劇を防ぐためにノルンとは共に住まなければいけない事。
「ふむ…お前がオルステッドを信じるというなら一先ずそこは置いておこう。俄には信じがたい話だが、少なくとも悪神の魔の手から家族を守る為には、守護魔獣であるレオの影響下に置かなければならない…か」
ルイジェルドは難しい顔で腕を組みながら、レオに視線を向けていた。
「…知っての通り俺は頭がそう良くない。お前がそうしなければならない、と言うならそうなのだろう。ただ、ノルンとは…多少時間を置いていい、いつか腹を割って話せ。血の繋がりがあるだけあって、お前達は二人とも抱え込みすぎる」
『…わかりました。覚えておきます』
不服そうに頷くルーディアに、そういう所だ、と呟いた。
そんな話をしてるうちに、あっという間に家の前についてしまった。
『昨日はお風呂入らずに寝てしまったので、お風呂、入ってしまいますね。では、また後で…フィッツ起きてるかな…』
ルーディアはそう言いながら先に家に入っていった。
そんな後ろ姿を眺めながら、ルイジェルドは頭の片隅に引っ掛かりを覚えていた。
話していた、ルーディアを殺しかけた悪神ヒトガミの手先『泥沼』の特徴…鼠色のローブ、顔を隠すフードとマフラー。
「…パウロ達の中にそんな特徴の者がいたような気がするな…後で伝えておこう」
ルイジェルドはそう呟くと自分も家に入っていくのだった。
フィッツとの朝風呂を終えたルーディアは朝食の用意に取り掛かる。
アイシャが妙に張り切り手伝ってくれた為に、そう苦労する事もなく終わり、配膳をアイシャに任せルーディアはルーシーの朝御飯に向かうのだった。
食事の時間を特に会話もなく終え、話し合いへと移る。
この時ルーディアは少しノルンに謝る事を期待したが、気まずそうに押し黙るだけだった。
『…貴方達が今後どうするか、という話ですね。手紙には学校に通わせる…という話でしたが…」
「あ、そうそうこれ、お父さんからお姉様に渡すように言われてた物…です」
話し始めのうちに、とアイシャが四角いトランクをルーディアへ向けて置く。
そそくさと鍵を外し、鍵束ごとルーディアへと渡した。
そこにはミリス王札と貴金属…二人の妹の当面の資金、という名目の大金が入っていた。
ルーディアはトランクの内側に二通手紙が挟んであった事に気付き、それも手に取りざっと確認する。
片方はパウロからの自分にも届いた手紙、もう片方はリーリャからの手紙であった。
二人の近況がわかりやすく、簡潔にかかれている。
アイシャは優秀で失敗もしないが、少々テング気味なので厳しく接するべし。
ノルンは一般的だが、ミリスの学校でよくアイシャと比べられた事で、少々腐ってしまっているらしい。
扱いに注意するべし、とかかれている。
それを軽く読み込んで成る程、とルーディアは頷き、二人に改めて向き直る。
『学校に通うのは悪いことではないと思うので、魔法大学に入る前提で話を進めたいのですけども…二人は何か希望ありますか?』
「はい!」
アイシャが元気よく手を上げた。
「お姉様にお仕えしたいです!家事とかなんでもします!その為に勉強も頑張ってきました!学校に行かなくても大丈夫です!」
『成る程…わかりました。ノルンは何かありますか?』
俯いたままのノルンはやや間を置き、ルイジェルドのほうを見る。
「…私は、ルイジェルドさんといたいです」
そのすがるような目に視線を合わせつつも、ルイジェルドは首を横に振る。
「俺は間もなくここから旅立つ…その旅路に連れていく事は出来ない」
「…!そんな…!」
「安全な場所で暮らせるように、送り届けて欲しい。それがお前の父親の頼みだ」
「っ…わかり、ました」
顔をしかめるノルン。
傍目から納得していないのがまるわかりではあるが、ルーディアは話を続ける。
『…ないようなので、結論を。二人には一先ずラノア魔法大学の試験を受けて貰います。アイシャ、通うかどうかはその結果如何で判断します。どうですか?』
「むー…仕方ない、わかりました!」
「…試験…受からなかったら、どうなるんですか?」
『別に何も。ラノア魔法大学はそもそもお金さえ払えば誰でも入れます。試験で好成績をおさめればそのかかるお金が減るかもしれませんが、そもそも二人がそのまま余裕で入れるくらいのお金は今受けとりましたから、心配しないでください』
その言葉にノルンが反応しかけるが、ルーディアは気にせず続ける。
『その後の事ですが、少なくともベガリットから家族が此方に来るまではこの家に住んで貰います。学校に行く場合はこの家から通ってください。必要な物があればなんでも言ってください。…ここまでで何か、ありますか?』
そこまで言って二人の顔を見回した。
アイシャは大きく首を横に振り、ノルンは意気消沈し、小さく横に振った。
そこでフィッツが努めて明るく振る舞い、口を開く。
「まあ、二人ともここを自分の家だと思っていいからね。赤ちゃんがいるから泣き声とかでちょっと五月蝿いかもしれないけど、そこはごめんね。まあ改めて、二人とも長旅お疲れ様、これから宜しくね」
「はい!」
「…はい…」
対照的な二人の態度に、どうしたもんかなぁ、とフィッツは耳の後ろをかいた。