『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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ベガリットの旅路、迷宮都市ラパン

転移魔法陣は正しく機能した。

ギレーヌが一度戻ってみたりして、タイムラグはあれど問題なく行き来が出来る事を確認し、本格的な旅の始まりとなった。

始まりとなったのだが…想定外の事が起きた。

 

『あ…暑い…』

 

ルーディアの暑さ耐性が低すぎて、すぐに足が止まってしまった。

ひとまず魔術で即席のシェルターを作り、この砂漠を効率良くいく為の魔術の出力を模索する事になった。

 

「ふ…『一日くらいギレーヌに頼らなくても平気ですよ、私だって一人前の冒険者なんですから』…か?」

 

『…言わないで下さい』

 

(よく言いますわ、砂漠に出た時にルーディアがバランス崩した姿をみて背負ってやろうか、と言い出した人が言えたセリフじゃないですわ)

 

そんな二人のやり取りを、なんとも言えない顔で眺めるエリナリーゼだった。

ルーディアは自分がよく氷を使う事や、寒さの厳しい北方にいた事で寒さにはかなり強いのだが、暑さへの耐性がどうも昔より下がっているように感じていた。

 

『…うん。うん、こんな感じですかね』

 

そんな呟きの後、即席のシェルター内の温度がスーっと下がっていった。

暑さは感じるが、精々初夏程度、このくらいの気温であれば何も問題なく行動出来るだろう。

 

「魔術で涼しくするのは結構ですが、魔物との戦闘に魔力は必要になりますのよ?大丈夫ですの?」

 

『はい、このくらいならまだ、魔力の回復とトントンくらいになると思います…かなり効率良く組み立てられたので』

 

赤い顔で額に氷をあてながら涼み、平然とそんな事を言ってのけるルーディアに、エリナリーゼは戦慄する。

 

「とんでもない魔力量ですわね…恐ろしいですわ」

 

「ルーディアはすごいだろう?」

 

腕を組んでふふん、と笑うギレーヌに、エリナリーゼは思わず苦笑した。

 

「何故貴方が誇らしげなんですの」

 

『とりあえず、もう少ししたら大丈夫だと思います…すみません開始早々…』

 

「貴方に無理させて何かあったら、わたくしが孫に顔向け出来ませんわ。それに貴方の力は間違いなく優秀ですもの。万全に発揮して貰わなければいけませんわ」

 

「そうだ、あたし達は無駄に経験だけはあるからな、特にエリナリーゼは。存分に頼れ、本当にダメならあたしが背負って走る」

 

「特に…?」

 

『ふふ、ありがとうございます、先輩方。御指導御鞭撻のほう、どうぞよろしくお願いします』

 

ルーディアのわざとらしい畏まった言い方に、二人が思わず吹き出した。

そんな和やかな雰囲気で旅を再開させる事となった。

 

 

 

 

 

様々な魔物との戦い。

途中ギレーヌが突然「臭い!」と叫んで鼻を抑えて踞る時があったが、少し離れた所でコウモリが飛んでいたくらいで襲撃は起きなかった。

 

「恐らくサキュバスですわ、女にとっては鼻が曲がるほどの臭さを振り撒き、男にとっては芳しい甘い匂いをばら蒔く魔物ですわ。わたくし達は女しかいないので大丈夫でしたが、もし臭い匂いがして近くに男がいたら、解毒魔術をぶちこんでさしあげなさい」

 

『サキュバス…そんなのがいるんですね…わかりました』

 

とはいえ三人の索敵を潜り抜けて不意打ち出来る魔物等はいなかった。

流石に道中は警戒心を露にして、歩きづらい砂漠を歩かねばならないので朗らかにとはいかなかったものの、危なげなく旅を続けていく。

巨大な魔物や砂漠特有の魔物、強さとしては魔大陸のほうが手強いのは確か、とは思ったものの、土地特有の強さを持つ魔物達は油断出来る相手ではなかった。

やがて、道中不自然な砂嵐等をこえつつ、一番近いバザールへと辿り着いた。

ここでは情報収集と移動手段の模索をする予定である。

有力なのはラパンへと向かう行商等に護衛として同行する手段である。

エリナリーゼが男漁りに向かうのを見送り、夜を過ごす。

魔道具で緩和されようともここからラパンまで一ヶ月はかかる。

少し怪しい期間の為にここで一度発散するつもりであった。

次の日、丁度ラパンに向かう行商がいたようでそこに相乗りさせて貰う事になった。

護衛は足りてる、という話なので此方がお願いする形となったが、主人が割りと温厚な人だったようでタダで軽く護衛してくれればいいよ、と許可してくれた。

その旅路も夜の警戒にたまに駆り出されたり、魔物を数匹担当する程度で楽なものだった。

盗賊がいるルートも、本気で索敵したギレーヌがいればまずわかる。

特に問題もなく盗賊が潜んでいると言われているルートを抜けて、途中補給等もしつつも、そのまま一行は迷宮都市ラパンへと辿り着いた。

 

 

 

 

 

行商人は索敵が正確で全員優秀でかなり助かった、とタダだった筈なのに少し報酬を支払っていった。

ニコニコと礼を言って去っていく行商人に、複数の護衛がやれやれと言った感じで着いていくのを見て、きっと彼らは強い絆で繋がっているのだろうな、と朧気に思った。

そんな彼らに頭を下げ、三人は迷宮都市ラパンへ足を進めた。

 

「ふむ、すごいな」

 

想像以上の活気にギレーヌが思わず口に出す。

迷宮から産出される様々な物品、迷宮を攻略する為の道具やら武器防具、そしてそれら商人や冒険者を支える美味い飯。

市場で色んな場所から聞こえる誘い文句に、ついつい視線が動く。

 

『こんなに活気があるんですね…』

 

「世界中から商人と冒険者が集まっているというのも頷けますわね」

 

よく見れば道行く人々は様々な格好をしていた。

日差し避けに厚着しているよく見る姿は勿論、薄着だったりよく見る冒険者風だったり、メイド服だったり。

 

『…あれ、メイド服?』

 

視界の端に映った、あまりにも似つかわしくないその服に、ルーディアの視線がそれを着た者の顔へと向く。

そこに居たのは赤毛に眼鏡をした懐かしい女性…。

 

『リーリャさん…!?』

 

「…ルーディア様!?」

 

何やら沢山の荷物を抱えた懐かしのメイド、リーリャ・グレイラットに、ルーディアは思わず駆け寄った。

 

「どうしてここに…」

 

『私も母様を助けにきたんです!皆さんの所に案内して貰えますか?』

 

そう言うとリーリャは一瞬気まずそうに言葉を詰まらせた。

その様子にまさか、と嫌な想像が頭を駆け巡るが、それはいい意味で裏切られた。

 

「その…ルーディア様…実はつい先日、皆様の奮闘もあり、奥様の救助に成功したのです」

 

此方に気を遣いつつも隠しきれない喜びに微笑むリーリャ。

その言葉にルーディア、ギレーヌ、エリナリーゼは瞳を丸くして言葉を失ったのだった。

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