「ノルンちゃんは今日も礼拝だっけ?夜ご飯今日も美味しかったよ、アイシャちゃんいつもありがとね」
当然の事でございます旦那様。
「ふふ、いいよ今は堅苦しくしなくて」
そう、ですか?じゃあお言葉に甘えて!
お姉ちゃんがいないからって適当にやってたら、お母さんに怒られちゃうもん!
「ブエナ村にいた頃から頑張ってたもんね」
うん!でもそれ言うならフィッツ兄も頑張ってたでしょ?ゼニス様の診療にもお父さんの狩りにも着いてって、そんなにお姉ちゃんをお嫁さんにしたかったの?
「勿論、ルディは天才だったからね。最低でも、やれる事をやらないとルディに相応しい男にはなれないと思って頑張ったよ」
キャー!そんなに思われてお姉ちゃんは幸せものだね!それに引き換え…ノルン姉ときたら…。
「あんまりそういう事言うの良くないと思うけどなぁ」
言われて当然だよ!ミリスにいた頃から大して頑張ってないのに私にいつも不満バリバリの顔で睨んで来るんだもん!
私だって頑張ってるのに…お婆様に怒られて嫌な気持ちになるのはわかるけど、それを私に当たられても困るし、私だってそもそも嫌味言われてたのに…。そこから頑張るならまだわかるけど、そこから拗ねてまともに頑張らなくなるんだよ!?
「うーん…まぁノルンちゃんはあんまり要領はよく無さそうだもんね。それで隣がすぐになんでも出来ちゃう子かぁ…僕は割りとノルンちゃんの気持ちもわかるよ」
えー!フィッツ兄はノルン姉の肩を持つのー?
「肩を持つとかじゃないけどね、やろうとしても、一生懸命やっても、出来ない子ってのはいるもんなんだよ。それを頑張ってない、って言われたらそのやる気すらなくなっちゃうよ」
むぅ、じゃあノルン姉がダメなのは私のせいって事?
「違う違う!そういう事じゃないよ。ただあんまり見下し過ぎないようにしたほうがいいよ、ってだけ。僕もルディみたいに魔術バンバン使えるように頑張ったけど、ちっちゃい頃のルディにすら追い付いてる気がしないもん。それでもしルディに『フィッツ全然頑張ってないね、本気でやってるの?』なんて言われたら……うっ……想像しただけで心折れそう…た、立ち直れないかも」
うーん、まぁ確かにお姉ちゃんにも「自分が出来る事を全て他人が出来ると思うな」みたいな事は言われたかも…?
「そうそう。人にはそれぞれペースってのがあるからね。アイシャちゃんが一瞬で覚えたところを一年かけないと出来ない人だっていたりするからね」
まぁ、わかったよフィッツ兄。ノルン姉にあんまりそういう事を言うのはやめるよ。
でもノルン姉のお姉ちゃんへの態度は別だと思うよ!こないだ睨まれて突き飛ばされてから怖がってるみたいたけどさ、当たり前だよ!フィッツ兄気付いてる?ノルン姉ね、再会してからお姉ちゃんに一回しか頭下げてないんだよ!それもお父さん達を助けに行くって行ったお姉ちゃんに対して「お願いします!」ってだけ!それから出発するまでまったく挨拶しないでさ!お姉ちゃんにもフィッツ兄にも失礼だよ!新婚の家にお邪魔して、家の事もなーんもしないでさ!信じられないとか喚いていたけど、信じられないのはこっちの台詞だよ!
「あはは、随分溜め込んでるね。アイシャちゃん落ち着いて?沢山思う所はあるみたいだし、僕も気付いたら言うことにするけど、家族なんだから大事にしないと。でもまあ…ルディに対してこれ以上何かするなら僕も何かしら考えるけど…」
うわ、突然空気冷たくなった。フィッツ兄怖っげほっ。
「ルディの為ならなんでも出来るよ。まぁ僕なりの最善を尽くしてからだけどね。ノルンちゃんも環境の変化が多くて大変なんだと思うよ。僕はもう少し様子をみてあげたいなぁ」
フィッツ兄が言うなら…ゲホッ、ゴホッ、仕方ない、かぁ。
ゴホッゴホッ!
「…あれ、大丈夫アイシャちゃん?」
あ、あれ、おかしゴホゴホッ!ゴホッ!お腹、痛…ゴボッ!
ビシャア!
バタン!
「あ、アイシャちゃん!」
―――――――――
…………。
「毎日熱心に祈ってるな」
あ、クリフさん。
「あまり暗くなる前に帰るんだぞ?この辺は治安はいいが、別に絶対的に安全という訳でもない」
…いえ、もう少し…祈らせてください…。
「…ベガリット大陸に最後の家族がいて、ルーディア達が助けにいったからな。もう一月半か…無事を祈っているのだろう?心配だろうな。好きなだけ祈るといい。帰り道は送っていこう」
…違うんです、私は、お父さんとお母さん達の無事だけを祈ってしまってるんです。
「…なに…?」
クリフさん、何故あなたはあの人と友達でいられるんですか?ミリス様の教えからしたらあの人は…。
「…ふむ、どうやら僕が思っているより君達の関係はよくないようだな。少し話でもしよう。僕で良ければ」
…はい、お願いします。
「さて、そうだな、僕としてはルーディアに特に思う所はない」
…そんな!だってあの人!
「そこは視点の違いだな、僕が知るルーディアは抱かれた男に逃げられ、赤子を抱いた、左半身が不自由な女性だ。その女性が幼馴染みの男と再会し、愛し合って結婚。僕は祝福こそすれ、不愉快に思う点はない。教えの教科書にでも載りそうな話だ」
けどあの人は捨てた人が戻ってきたら受け入れるとか言ってて…そんなの不潔ですよね?
「エリオットの事か、彼には面識があるよ。話を聞けばまぁ、真っ直ぐな男だった。言い訳もせずに折檻を受けていたし、理由もあった。抱いた女性を置いて行った事には苦言を呈したが、彼とルーディアが結ばれていたのなら、僕も納得しただろうな」
そうじゃなくて…!
「ああ、男を二人受け入れるという選択には確かに思う所がいくらでもある。仮に結婚した、するとなれば小言をいくつもルーディアに言うだろう」
それなら。
「けど別に彼女はミリス教徒じゃない」
…!
「ミリス教徒として思う所がある事と、ミリス教徒でない者にミリス様の教えを強制するのはまったく違う話だ」
けど…あの人は、お父さんが頑張ってた時に子供なんて作って…!
お父さんは転移災害の被災者の為にずーっと頑張ってきたのに。
そもそもあの人はミリシオンでお父さんに暴力を振るったんですよ!
「なんだ、あんな状態の彼女にまだ苦労しろと君は言うのか?四肢の全てを喪えば君も納得するかい?」
そ、そういう事じゃないです!
「ああ、すまない、意地悪な事を言ったな。だが、結局の所君は、父親が苦労してる中でルーディアが幸せになるのが気に食わない、と言ってるようにしか聞こえない。見ればわかるだろう?彼女が負った苦労を。そんな彼女を色んな人が助け起こして彼女の笑顔があるんだ」
…何言ってるんですか、あの人笑えないじゃないですか。
「む?なんだ気付いていないのか、彼女、嬉しい時少しだけ口角が上がるんだぞ?披露宴の時なんて終始ニコニコしていたぞ」
…え…。
「ふむ…あまり顔もろくに見ていなかったんだな…」
……。
「ルーディアが出発前に君の事を僕に相談していたよ。君を、ノルンを、家族として見れない、姉と呼ばれて思わず突き飛ばしてしまったと、泣いていたよ」
…泣いて…?
「彼女も驚いていたな。血の繋がった者に対して、してしまった仕打ちに思わず涙が出たんじゃないかと僕は思ったよ」
……。
「彼女も、本当なら君と歩み寄りたかったのだろうさ…。ただ、それはそれとして僕は君に言わなければいけない事がある」
…なんですか…?
「ルーディアに、君が頭を下げていないというのは本当かい?」
…!そう、です…あんな人にお願いするのが、嫌で…。
「君はミリス様の教えを忘れたのかい?汝、礼を…?」
あ…汝、礼を失することなかれ、恩を忘れることなかれ…。
「君のその行いは、その教えに相応しいかな?」
…いいえ…。
「一つの教えに固執しすぎて、他の教えが見えなくなっていたんだな君は」
私は…なんて浅ましい事を…。
「君は今、新婚の家に居候している身だ、過程がどうあれ、その事実は変わらない。ならば礼を失するな、恩を忘れるな。ミリス教徒として胸を張れる生き方をするんだ」
はい…。
「ルーディアは彼女自身が思ってる程、君をどうしようもなく嫌ってる訳ではない。そうじゃなきゃ、君の事を相談なんてしないだろう?無意識に姉として振る舞おうとしているのさ」
そう…なんでしょうか…?
「ああ、そしてそれは君にも言える。君はただ、意地を張っているだけだと思う。君が素直に、腹を割って話せばルーディアはきっと応えてくれる。僕はそう思うよ」
…。
「…それは?」
…火傷にきくっていう薬…です。でも、あんな時間が経った傷に効く訳ないって…でも、どうしても捨てられなくて…。
「ふ、なんだ君も、やっぱり本当は歩み寄りたかったんじゃないか。君達は不器用だな…帰ってきたら、ちゃんと話をするんだよ?」
…はい…あの、もう一度、家族の為に祈らせて貰っても…いいですか?
今度は…姉の分も。
「ああ、存分に祈るといい。ミリス様は見てくださっている」
……ゴホッ、ゴホッ。
「む。風邪かい?大丈…」
ゴボッコポッ!!
ビシャシャ!
「なっ…!治癒…!解毒…!バカな、どちらも効かない…!?なんなんだこれは!!」