『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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パウロと長女、本当の再会

「ん……?」

 

パウロは胸に重みを感じて目を覚ました。

目覚めたばかりでぼやける視界を何度か瞬きをして視線を下に向けると、白髪で左目に眼帯をつけた少女…愛娘ルーディアが自分の左胸に頭を乗せて座った状態で、すぅすぅと安らかな寝息をたてていた。

肩には布がかけてあり、眠った後に誰かが来た事が伺えた。

右目は赤く腫れていて、思わず左手で頬に触れ、親指で目元をなぞった。

擽ったそうに身震いするルーディアに、頬がつり上がり、そして遅れて気付く。

 

「あれ…左手…ある。目も見える…何処も痛く、ねぇ…いや、そもそもなんで俺…生きてんだ…?」

 

その声に反応したのか、ルーディアの瞳がピクリと動き、ゆっくりと開いた。

バチリ、と合った視線に、パウロは気まずいものを感じつつも、手を上げて挨拶をした。

 

「よ、ようルディ、おはよう」

 

『父様!』

 

ガバリと勢いよく起き上がり、パウロの頬に添えられるルーディアの手、肩にかけられていた布がパサリと床に落ちた。

 

『大丈夫?痛いとこない?』

 

顔を近づけ目やら腕やら胸やらに手を伸ばしてまさぐる。

その様子に思わず苦笑してしまう。

 

「おいおい、ルディ…一応父さんな、ちょっと話したいんだけどな…」

 

パウロがそう言うとルーディアは動きをピタリと止め、ばつが悪そうに先程まで座っていた椅子に改めて座った。

 

『…おはようございます』

 

「おう」

 

『ゴホン…あの、ですね。私怒ってます。何故かわかりますか?』

 

「あー…まぁ、沢山、あるよなぁ。改めてごめんなルディ…必死に生きてきたお前にあんな」

 

『そうじゃないです』

 

「え、じゃあえっと、アイシャとノルンを任せちまった事…」

 

『それでもないです』

 

「あーじゃああれか?サキュバスに魅了されちまって、ゼニス助けるまで禁欲してたってのにリーリャを抱いちまったあの」

 

『それでもないです!でもそれはそれで後で話します!』

 

余計な事言っちまった、とパウロが苦い顔をすると、その顔の前にルーディアの人差し指が突きつけられた。

 

『私の為に死のうとした事です!』

 

それに、ああ、とパウロは真剣な顔になる。

 

「ああする他なかっただろ、そうしなきゃ俺の中のビタがお前に何するかわかったもんじゃねぇ。子供の為なら俺は自分の命は惜しくねぇ。それは例えルディに対して負い目がなくても変わらない。それが親ってもんだ」

 

『でも、私は、私の為になんて死んで欲しくなかった…』

 

突きつけた指を下ろし、俯きながら言う。

 

「子供からしたらそうかもな、だがなルディ、お前も親になったならわかる筈だ。もし子供と自分って選択肢が出た時、躊躇う事はあるかもしれないが、自分を犠牲に出来る…子供が一人前でも、それこそお互い老人になっててもな」

 

ルーディアは瞳を潤ませながらも、その言葉に納得してしまった。

そんな時がこない事が一番だけど…自分はアルスやルーシーの為に死ねるだろう、と。

こくりと頷くとパウロは満足そうに笑う。

 

「まぁでも確かに、目の前で自決はやりすぎたな…はは、でもあん時は本当に余裕がなくてな、そこは許してくれ」

 

『わかり、ました』

 

ずび、と鼻を啜る音がする。

 

『一つだけ私のお願いを聞いてくれたら、全部許してあげます』

 

目をこすり、キリ、とした顔でパウロのほうを見据える。

 

「おう、なんでも言ってくれ、土下座でもなんでもするさ」

 

ベッドの上で上半身を起こしながら、パウロは笑った。

 

『今までの事、一回ぜーんぶなかった事にしましょう』

 

「…は?」

 

呆けた声をあげるパウロに、ルーディアが続ける。

 

『私達は今、転移事件から初めて再会したって事にするんです』

 

「いや、それは」

 

『ほら、飛び込みますから、受け止めてください!』

 

「ちょ、うぉ!」

 

言葉もそこそこに、パウロの胸を抱き締めるように飛び込んで抱きついてきたルーディアを、少し体を反らしつつも受け止めた。

 

『会いたかった、父様!無事で良かった!』

 

そう言ってグリグリと胸に頬擦りする娘に、パウロは手を中空に彷徨わせ、躊躇ってしまう。

 

(ああ、くそ、あの時ルディは、本当はこうしたかった…のか)

 

思い返すのはミリシオンで冷たく当たった時の事だ。

あの時の自分をぶん殴ってやりたい、抱き締めてやれと叱咤してやりたい。

…けど、今もう一度抱き締める機会をくれたんだ。

自然とパウロの手は動き始めた。

右手はルーディアの頭に、左手は背中に。

ぎゅうと抱き締めて、ルーディアの頭に頬を乗せた。

 

「ああ…俺も、俺も会いたかった、会いたかったんだよルディ…家族が、全然見つからなくて…辛くて…怖くて…」

 

既にパウロの目には涙がたまり始めていた。

 

「こんな、あんな綺麗だった髪が真っ白になるまで苦労、して…なぁ」

 

右手でルーディアの頭を撫でる。

 

『頑張ったよ父様』

 

パウロの背中に回された手が、服をぎゅうと握り締める。

 

「腕も、足も…目も、声まで失って…!」

 

左手でルーディアの体を抱き寄せる。

 

『痛かったし、熱かったし、辛かった、父様』

 

パウロの胸の服がルーディアの涙で濡れる。

 

「よく、よぐ生ぎで帰っできでくれだなぁっ…!がんばっだなあ…!」

 

ボロボロと涙を流し、鼻水までたらし、ずび、と鼻を啜る音がする。

それでもパウロが鼻声でどうにか言い切った言葉に、ルーディアの心が満たされていく。

 

『父様…父様…もっと、もっとギュッとして…』

 

「ああ、ああ!いぐらでもしてやる…!ごめん、ごめんなルディ!生きててくれて、ありがとうな…!」

 

暫しパウロの泣き声と、ルーディアの嗚咽だけが響く部屋で、二人は強く強く抱き締めあっていた。

 

 

 

二人は、漸く本当の意味で再会を果たしたのだった。

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