『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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一難去って話し合い、『泥沼』の正体

「あー、そんじゃお前ら、状況を整理するぞ」

 

パウロはそう言って周りを見渡す。

宿の食事処で、リーリャ、ロキシー、エリナリーゼ、ギレーヌ、タルハンド、ギース。

誰も彼もが浮かない顔をして座っていた。

ヴェラとシェラはルーディアと共にゼニスの様子を見ていて、ここにはいない。

全員がパウロをチラリと見ると、一斉にタメ息を吐いた。

 

「…気持ちはわかるがなあ。まあ、仕方ねえか」

 

ビタの支配下にいた時、幻術とはいえ心の底で最も望んでいた光景を見せられていたのだ。

ありえない夢だとわかっていても、現実との落差に気分が落ちるのを止められていなかった。

しかもそこは実力は確かながら、一癖二癖もある問題児ばかりのSランク冒険者チーム『黒狼の牙』の元メンバー達。

触れられたくない過去の一つや二つ、という話だ。

とはいえこのまま落ち込んでいられても埒が開かない、とパウロは話を続ける。

 

「俺達はイーストポートでもたついてるタイミングでビタに憑依された。これは共通認識だよな?その辺りから現実がボヤけ始めてたよな?」

 

エリナリーゼとギレーヌを覗く面々が頷く。

 

「となるとやっぱ…ビタを持ってきたのは『泥沼』になるよなぁ…ちっ、あいつ、何が目的でこんな意味わからねぇ事を」

 

パウロが吐き捨てるように言う。

『泥沼』はイーストポートで合流していた。

パウロは嫌がったが、捜索団はほぼ解散してしまっていた現状、戦力はあったほうがいいという判断で行動を共にしていた。

 

「そもそもビタは何の為に儂らに憑依したんじゃ…目的がわからん。儂ら精々が手傷を負った程度で、重傷等パウロの左目くらいじゃった。更に憑依前に定めていた目標であるゼニス救出すら万全にやり通しおってからに…迷宮の宝もほぼほぼ儂らの手にある…」

 

タルハンドは髭を撫で付けながら、疑問が多すぎる現状にむぅ、と考え込むように俯いた。

 

「わっかんねぇな、『泥沼』が転移迷宮を攻略したっていう名誉でも求めてたってのか?それこそ意味不明だ」

 

両手を上にあげてお手上げ、とばかりに背を反らすギース。

そこでギレーヌが腕を組んで口を開いた。

 

「…『泥沼』が裏にいるなら、一連の行動の目的はひとつだ」

 

「む、なんじゃ、心当たりがあるのかギレーヌ」

 

「ああ…『泥沼』はルーディアの命を狙ってる。実際に一度ルーディアは死にかけてる」

 

その言葉にエリナリーゼ以外が顔をしかめた。

 

「なんっだとぉ!?あんの野郎!人の娘殺しかけておいて…!」

 

パウロが思わず立ち上がるが、無理矢理激情を抑え込み、ギリリと奥歯を噛み締めた。

 

「ルディを殺しかけるなんて…!『泥沼』さん…いや『泥沼』への尊敬の気持ちが一気に霧散しました…!」

 

そんなロキシーの言葉にタルハンドが深く頷いた。

 

「全くじゃ、奴のせいで見た夢の後味で未だに胸糞悪いわい」

 

「理由こそわかんねぇけど、目的はルーディアの嬢ちゃんだったとして、だ。その為にここまで手の込んだ事するもんかねぇ?そのまま仲良く操られちまった俺らを人質に、嬢ちゃんとこ行けば良かったんじゃねぇかと思っちまうな」

 

頭の後ろで手を組んだギースが言う。

 

「イーストポートで私達を操り、ここラパンまで移動…迷宮も共に攻略し、奥様も救出…分け前もそこそこに、彼はさっさと立ち去りました。彼だって相当苦労してましたよね?彼の考えがわかりませんね…非合理的です」

 

リーリャは口元に手をあてながら、思考するが、答えは出ない。

 

「…っけ。どうせあいつの事だ。目的であるルディを苦しめたかっただけだろ。…相変わらず趣味のわりい奴だ」

 

どすん、と椅子に座り込んで頬杖をつくパウロ。

そんなパウロに全員の視線が集まる。

 

「…ずっと聞きたかったんですけど、パウロ貴方、『泥沼』の顔や名前知ってますの…?やけに訳知り顔ですわよね?わたくしを抱いてる時すら彼、顔隠したままでしたのよ?」

 

「あー…あんま言いたくねぇ、とか言える感じじゃねぇよなぁ…」

 

ポリポリと頭をかくパウロを、ギレーヌの鋭い視線が貫く。

 

「わかってるわかってるって!こうなっちまったら身内の恥とかんな事言ってらんねぇもんな」

 

「身内だと…?まさかお前、どっかの女に産ませた隠し子で…捨てた親父への復讐…だとでも言うんじゃないだろうな…?」

 

「んなもんいねえ!…とは言い切れないけどよ、あいつはちげえよ。流石に歳が合わねぇだろ、俺らが冒険者やってた頃あいつも同じくらいで冒険者やってたっての」

 

やれやれ、と肩を竦めるパウロに、リーリャが声をかける。

 

「でしたら、『泥沼』とは何者なのですか?」

 

「ああ…あいつは…」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「おや、ビタさん。お疲れ様でした」

 

「ああ…泥沼さん、申し訳ありません、貴方があれだけお膳立てして下さったのに…」

 

「いえいえ、お気になさらず。ゆっくりお休みください。」

 

オルステッドが来たら仕方ないよ、惜しかったねビタ。

 

「ヒトガミ様、申し訳ありませんでした。貴方への恩を、返せず、滅びる、私を、おゆ、るし…」

 

…やれやれ、オルステッドは天大陸にいると思ってたんだけどね。

 

「おやおや、貴方の為に殉じたビタさんに一言くらいないんですか?」

 

惜しかったね、って言ってあげたろ?

 

「…まぁ、それを言われるだけマシなほうですか。しかしまぁ、誰も死なないとは…ビタさんの置き土産で苦しんでるのも二人だけですか?流石熟練の冒険者の皆さんです。ビタさんの分体の死体の危険度を理解して、それぞれしっかりと吐き出したようですね」

 

正直これはかなり上手く行ったと思ったんだけどなー。

負の感情を持ちやすいようにした姉妹を送りつけてやれば、住み処から飛び出すと思ったんだよね。

でもまたオルステッドだよ!

 

「本当に惜しかったですねぇ。やはり詰めまで僕がいれば良かったのでは?」

 

それはそれで敵対心と警戒心持たれるだろう?君は君の事をしてなよ、そろそろ君を見るのをやめるし。

 

「…成る程、では僕は準備に向かいますかぁ。はぁ、ここから大変ですねぇ。どうかお手柔らかに…」

 

…やめてくれって言わないんだ?

 

「元々彼女をどうにか出来たらって話でしたからね、失敗した身では何も言えませんよ」

 

本当に君はどっかイカれてるね…。

まぁ、今から君の目的の邪魔をする身で言う事じゃないけど、頑張ってね。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「おい!起きろ魔術師!」

 

道を進む行商の荷台で、鼠色のローブの男が寝息をたてていた所、浅黒い肌の女が声をかけた。

 

「…おや、すみません、転た寝していたようです、交代の時間ですか?」

 

目を覚ました男はあついなー、とフードとマフラーを取り払い、ふぅ、と一息つく。

茶色の髪が露になり、後ろでひとつに纏められた部分がふわりと揺れた。

浅黒い肌の女はこくりと頷く。

 

「そう。早く代わる」

 

「了解しましたボンクラさん」

 

「カルメリタ呼べ!」

 

ひょいと荷台から飛び降りると、日差しの強さに思わず片目を閉じながら空を見上げた。

快晴の空、強い日差しに照らされる童顔で穏やかそうな顔立ちに、左の目元の泣きぼくろ。

そんな顔を邪悪に歪め、男は嘲笑った。

 

「さて、姪っ子達はビタさんの置き土産に耐えられますかね?」

 

男はそう言うと再度フードとマフラーを身に付け、行商の護衛に加わるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「ルーデウス・ノトス・グレイラット」

 

「俺の実の弟だ」

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