『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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帰還、旅の終わり

「さぁ…帰る準備すんぞ…」

 

帰ると決めた次の日、パウロは何処かげっそりとした表情でそう声をかけた。

 

『どうしたんですか父様、元気ないですよ』

 

ルーディアはロキシーを膝に乗せ、後ろから抱き締めながらパウロに問い掛けた。

心なしかロキシーもげっそりしている。

 

「あー、そりゃな!お前達が昨日ずっと盛ってたせいでな、興奮したリーリャと、何故かギレーヌまでが俺を搾り取ってたからな!」

 

パウロを挟み込むようにしてギレーヌとリーリャは座り込み、何処か満足そうに微笑んでいた。

何故か艶々している。

 

「ったく、てか何でだよギレーヌお前、流された俺も俺だけどよ」

 

「ビタに見せられた夢が大森林で族長となってお前と子作りして、獣の耳が生えたルーディアを産む夢でな、子が欲しくなった。第三夫人でいいぞ」

 

獣族として産まれたルーディアはとても可愛かったぞ、と付け足した。

 

「サウロスの叔父上の仇はどうすんだよ…」

 

パウロと再会してから、ギレーヌは後の心残りはサウロス様の忘れ形見のエリオットの行く末を見届ける事と、仇討ちをする事、と話をしていた。

 

「その後の話だな、あたしもあたしなりに幸せを掴みたいと思った。ルーディアの母親もどきじゃなく、母親になりたいって思い始めていたと気付いたんだ。だから嫁に貰え。結婚するならお前しかいない」

 

「どんだけ上から目線なんだよ…ルディお前どうおも…今まで見たことないくらい目輝かせてやがる…」

 

キラッキラである。

 

『これからはギレーヌをお母さんと呼んでいいんですか?』

 

「勿論だ」

 

ムフーとギレーヌが嬉しそうに鼻息を吐いた。

 

『父様、私は賛成です、ついでに寂しそうにこっち見てるリーリャさんをママと呼ぶ許可を下さい』

 

「ルーディアお嬢様!?」

 

「はぁ…抱いちまった俺の自業自得だけどよ…話進めるのはゼニスが目覚めてからな!リーリャの事は好きに呼べ呼べ、そもそも他人行儀なんだよお前達」

 

『わかりました父様。リーリャさん改めママ』

 

ママと呼ばれなれてないリーリャが貴重な照れ顔を見せたのを境に、皆帰る為の行動に各自入って行った。

 

 

 

 

 

 

帰り道、 なんと行く時に出会った人の良い行商人と偶然出会い、途中まで行動を共にする事となった。

ラパンでの商売は終わったらしい。

余りにもタイミングが良すぎてヒトガミの介入を疑ったものの、話せば話すほど、本当にただ人の良い人物だとわかるだけだった。

これで行商人としてやってけんのか?とギースが護衛の一人に耳打ちすると、苦笑いして「まぁ、やり甲斐はある」と答えていた。

そして、ギースが昨日のうちから目を付けていた魔獣が引く車を購入、アルマジロのような魔獣が二体がかりで引く、かなり大きな高価な物だった。

車の中はルーディアの魔術で快適温度を保ち、食料も万全である。

そして準備万端となった所で、ゼニスが目覚めた。

 

 

 

 

 

ルーディアにとって残念な事に、ゼニスはやはり心を失ってしまっていた。

全てを忘れてしまったような虚ろな様子に、パウロは涙を浮かべたが、荒く拭うと笑みを浮かべ、ゼニスをぎゅうと抱き締めた。

 

「生きててくれて嬉しいぜゼニス。遅くなって悪かったな…何もかも忘れたならまた新しく思い出を作ろう、またお前を惚れさせるのが楽しみだせ」

 

そういって笑うパウロ。

その背中にゼニスの片手が添えられた事は、偶然であるとは思いたくなかった。

わかっていたとはいえ実際に目にするそのショックは、計り知れないものだった。

腰に抱き付いても首を傾げるだけの様子に、寂しさを感じる。

とはいえ帰る準備だけは整っている…ショックではあるが、進まなければ何にもならない。

ゼニスの容態も医者に見せたり、様々な事を確かめなければいけない。

それに…死んだ訳じゃない、失った心も取り戻せないと決まった訳ではない、希望持ってはりきって帰るぞ、とパウロは鼻声で笑った。

 

 

 

 

 

道中に問題はなく、盗賊のでやすい所もしっかりと迂回するルートを通る。

行きと比べて戦力が倍以上になっているのだから、魔物相手も鎧袖一触である。

戦闘中のパウロが隙を見てはチラチラとルーディアを振り返っていて、エリナリーゼに盾で頭をぶん殴られていたが、そんな様子も微笑ましかった。

ひらひらと手を振れば、にぃ、と笑って敵を殲滅するスピードが上がるのだから単純である。

ロキシーも張り切っていて、前に出すぎてエリナリーゼに苦言を呈されている。

離れた所から見ていると、エリナリーゼのまとめ役としての能力の高さに舌を巻く。

改めて自分の義祖母に尊敬の念を深めつつ、襲撃をしかけてきた数匹のグリフォンを凍結させて撃墜し、生き残った二匹の特攻を、生成した氷のショートソードで地面に受け流して絶命させた。

 

『行きより魔物が多いですね。車が大きくて目立つからでしょうか?』

 

「そうかもしれませんわね。しかし相変わらず凄まじい魔術です事…」

 

役目を終えたショートソードが弾け、日を受けてキラキラと光る。

休憩をしていたパウロとロキシーがすごい顔をしていたが、ルーディアはそれに気付いていなかった。

ゼニスがそんな二人を虚ろな瞳でじーっと見ていた。

 

 

 

 

 

やがて転移魔法陣最寄りのバザールへと辿り着き、行商人とも別れる事となる。

凍らせたグリフォンの素材が非常に高く売れそうで嬉しい、と道案内の報酬を払う筈がまた貰ってしまった。

護衛に小突かれながらも笑顔で去っていくその行商人に幸あれと、一行は別れを告げた。

このバザールで一夜過ごし、あとは転移魔法陣まで真っ直ぐだ。

ラパンでもある程度仕入れていたものの、ここでも軽く土産を購入するルーディア。

様々なガラス細工に米…前世では米が主食だった。

もしも栽培出来たならナナホシは喜ぶかもしれないなぁと思った。

そうして何事もなくバザールでの一夜も終え、日が昇ったら早速出発。

行きと逆の道のりを行く。

戦闘員が倍になったのもあるが、索敵のパターンが多く、魔物に奇襲される事は皆無であり、警戒を解くことこそないが、非常に楽に進んでいけている。

ギレーヌが鼻を抑えて転がった時はサキュバスがいるので、その時点で男性陣は氷付けにされ、終われば解毒後解放されるという事が三回程起きたが、他は危げなく、砂嵐の結界を越え、転移魔法陣がある遺跡へとたどり着いた。

車を置き去りに、持てるだけの荷物と、ついでにアルマジロ型の魔獣二匹もひき連れ、遺跡に入る。

転移魔法陣の事は全員が把握してしまう。

一応の口止めはするものの、ギース辺りが怪しいが、背に腹は代えられない。

そうして一行はベガリット大陸を後にした。




パウロの見た夢
転移事件が起きずに平和にブエナ村で暮らし、ルーディアとフィッツの子供をこの手に抱く夢。

リーリャの見た夢
自分を犯したパウロが責任を取ると貴族籍を取り戻し、水神流を本気で学び、水帝となってノトス家の当主となる夢。更にはゼニスも嫁に貰い、その娘のルーディアにママと呼ばせていた。自分の浅ましさを感じてしまいダメージがでかい。

タルハンドの見た夢
故郷が自分を全面的に認めてくれて、想い人も自分を受け入れてくれた夢。目覚めた時の現実とのギャップで非常に胸糞が悪い。

シェラ、ヴェラの見た夢
冒険者を続け、何処かパウロに似た男に恋をし、楽しく生きている夢。そんな平凡が一番欲しいものだった。

ロキシーの見た夢
自分に憧れて迷宮探索者となったルーディアを間一髪でかっこ良く救い、告白されてコンビの冒険者として迷宮攻略に勤しむ日々な夢。迷宮を二人で攻略してみたいとはまだ思っている。

エリナリーゼの見た夢
自分が目覚めてから初めて愛した男と平和に過ごす日々。クリフへの罪悪感で死にそうになっていた。

ギレーヌの見た夢
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