『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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危篤の姉妹、ルーディアの覚悟

家に辿り着いた時に待っていたのは、ノルンとアイシャ、その二人ともが死にかけているという最悪の一歩手前の状況だった。

 

「…一月半前くらいか、彼女は礼拝の際に祈っていた時に突然血を吐いて倒れた。治癒も解毒も効かない、いや、治癒はかろうじて効いているが、治したそばからダメになっていく…ここまで無力さを感じたのは初めてだ!こうならない為に今まで努力してきたというのに、僕は今まで何をしてきたんだ!」

 

「クリフ…貴方もう限界ですわ…少しお休みなさいな…」

 

頭をかきむしって吠えるクリフに、エリナリーゼが後ろから抱き締めて頬を撫でる。

 

「ああ…すまない…ルーディア…君の妹達を救えない僕を許してくれ…………少しだけ、休ませて貰う」

 

ふらふらと立ち上がるクリフに付き添い、エリナリーゼが体を支えながら部屋を出る。

ノルンとアイシャ、二人並んでそれぞれベッドに寝かせられている部屋で、ルーディアは座り込んで二人をじぃっと見つめていた。

 

「ああ、糞、案の定かよ…頑張れノルン、アイシャ…!お父さんはここにいるぞ…!」

 

「アイシャ…!しっかりなさい…!」

 

二人の手を取り、パウロは必死に声をかけ、リーリャはアイシャに声をかける。

二人とも目には涙が溜まり、辛そうに歪んでいる。

 

「…ギレーヌ、見えますか?」

 

「…ああ、間違いないな」

 

眼帯を外したギレーヌと視線を交わし、頷きあう。

二人の目にはノルンとアイシャを蝕み続けている淀んだ魔力、ビタの分体が見えていた。

 

 

 

ノルンとアイシャの状態はひどいものだった。

頬はこけ、顔色は悪く、魔力もビタの分体に影響されてか淀んでいる。

体温も常に高く、意識も朦朧としている。

治癒魔術を集中してかける事で一時的に症状の緩和が見られていたが、それも段々と悪化する間隔が短くなっていた。

いつ力尽きても可笑しくない、それを治癒魔術で無理矢理繋ぎ止めている、そんな状態だった。

一月半もの間その幼さで耐えただけ、奇跡的なのかもしれない。

今もフィッツが魔力を振り絞り、二人の治癒に当たっている。

それで少しだけ二人の顔色と呼吸に穏やかさが戻るものの、数時間後にはまた苦しみ出す、という事だ。

何か悪いものでも体内にあるのかと吐かせたり、下剤を投与したり等をしたものの、一向に良くならなかった。

 

「…原因が全然わからなくて、良くならなくて…ご飯を食べるのも辛そうで、どうにか果物とか磨り潰してあげてるけど、それも…もう…」

 

『…ありがとう、フィッツ…フィッツも休んで』

 

「うん…ごめんね…」

 

魔力枯渇で震える体を必死で隠し、フィッツが退室していく。

リーリャはノルンとアイシャの額を拭い、冷たい水を染み込ませた布を改めて置いた。

パウロは何か方法はないかと探しに向かった。

他の面々もそうだ、ヴェラとシェラにはこの家でゼニスと共にいて貰ってるが、ギースやタルハンドもそれぞれ自分なりに探している。

だが…一月半も何も見つからなかった解決法が早々見つかると思えない。

それに、ルーディアの瞳には、腐った分体が二人の体内に染み付いてしまっている事が見えてしまっていた。

こんなものを、どうやって取るというのか。

先に二人の体力が尽きる…いや、もう尽きかけているのかもしれない。

ルーディアは現状のどうしようも無さに歯噛みした。

リーリャが口元を抑えて涙を流しながら部屋を後にし、部屋にはルーディアとノルンとアイシャ…姉妹だけとなっていた。

 

『…』

 

ルーディアは二人のベッドの間に立つ。

そしてアイシャを見下ろした。

 

『…アイシャ』

 

可愛らしく元気な笑顔を振り撒いていた姿が夢だったかのように、ベッドから動かず苦しそうに呼吸を繰り返している。

 

「…ちゃん………ないで」

 

『…アイシャ?』

 

するとアイシャが目を薄く開いている事に気付いた。

ただ焦点はあっておらず、ルーディアは右手をベッドにつき、アイシャの顔を覗き込んだ。

そのルーディアの手を震える手で掴んだアイシャは絞り出すように言葉を譫言を紡ぐ。

 

「おねえちゃん…すてないで…」

 

「おねえちゃんにまで…すてられたら」

 

「わたしなんにもなくなっちゃう…」

 

「くるしいよぉ…すてないで…おかあさん…」

 

「なんでもするから…すてないで…」

 

「たすけて…」

 

「くるしい…すてないで…」

 

『……』

 

ルーディアの手を握る手が、緩やかに力なくほどかれる。

アイシャの目は閉じられ、雫が頬を伝った。

 

「おねえちゃん」

 

するとその声で起きたのか、ノルンが目を開いてルーディアを見つめていた。

 

『ノルン…』

 

ノルンは震える手でベッドの横に置いてあった、何かの瓶のようなものを手に取る。

無理に動いた為、額の布がべしゃりとベッドに落ちた。

 

『ノルン、無理に動いちゃ…』

 

「おねえちゃんだ…これ、あげる…」

 

その瓶をノルンはルーディアへと差し出した。

思わず受けとると、ノルンはにへらと笑った。

初めて見るノルンの笑顔に、ルーディアの動きが止まる。

 

「それ…やけどにきくぬりぐすりだって…」

 

「おねえちゃんのやけど…」

 

「よくなるかな…きれいになるかな…」

 

「おねえちゃんに…いっぱい…ひどいこといって…ごめんなさい」

 

「これから、なか、よく…」

 

そこまで言って力尽きたのか、ノルンは顔をしかめて涙を溢れさせ、呼吸を荒げはじめた。

思わず手を握り返し、ルーディアは治癒魔術を行使する。

使っても使っても抜けていくような感覚に、目を細めた。

やがてノルンの呼吸が少し落ち着いたのを見て手を離し、ノルンの体制を整えてやる。

そして濡れた布を額に乗せてやり、そのままノルンの頭を撫でた。

振り返りアイシャも同様に頭を撫でてやり、ルーディアはゆっくりと体を起こす。

一つ大きく空気を吸い込み、二人を睨み付ける。

正しくは、二人の中で未だにこびりつく忌々しいビタの分体を。

 

『…二人とも…お姉ちゃんが、絶対に助けるからね』

 

ルーディアは一つだけ出来るかもしれない可能性を感じていた。

だが今までやった事も、前例もない。

けど、今ならやれると思い込んだ。

家族の為なら、やれる。

ノルンに貰った瓶の蓋を外し、左頬に塗りたくる。

ルーディアはその考えを皆に伝え、実行する為に部屋を後にした。

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