「ふぅ…」
後始末を終えた俺は、酒場で小さく息を吐いた。
あの後、酒場の壊れたテーブル、壊れかけの椅子を片付け、それらの弁償の交渉。
団員の状態の確認をして、泣き疲れ眠そうにしているノルンを寝かしつけ、なんだかんだと全てが終わったのはもうすぐ夜、なんていう時間になった頃だった。
気分としては酒に溺れたかったが、ここでそんな事したら本当に終わる予感がした。
だがこのまま休む気も起きず、ヴェラではない女性の団員にノルンを任せ、酒場の端で水をあおっていた。
団員は減り、段々と酒を飲む客が増えだした頃に、ちゃんと肌を隠す普段着に着替えたヴェラが声をかけてきた。
「パウロ団長…」
「シェラは大丈夫か?」
「はい、ノルンちゃんみたいに疲れて寝ちゃってます」
「ははは、子供とおんなじか、可愛い奴だな」
「ふふ、そうですね、妹ながら可愛いです」
意外な程和やかに話は進む。
意識して軽い雰囲気にしないとすぐに沈みこんでしまいそうだから。
「それで…娘さんの事ですが」
「ああ…明日の朝に、泊まってるという宿に会いに行こうと思ってる」
「そうですか…お供しましょうか?」
「いらねぇよ、俺はガキか?」
「そうですか?子供みたいに泣いてたと思いますが」
「おい!そこは見ないふりしとくもんだろ!」
はははは、と笑い声が響く。
…自分が空元気であるのは自覚してたが、ヴェラもあまりいい状態じゃないみたいだ。
声に力がないし、顔色も悪い。
「…わかったらお前も休んどけ、明日からはまた捜索再開するからな」
「あ、いや…いえ、そうですね、今日は休ませて貰いますね」
「おーそうしろそうしろ、シェラについててやれ」
ヒラヒラと手を振って見送ってやる。
何が言いたげであったが、自分の不調もわかってるんだろう、大人しく酒場を去っていった。
何せ俺らは体力が基本だからな、奴隷解放の為に向かって不調でまとめて捕まりましたー、なんて笑い話にもならん。
…奴隷、か、
「はぁ、畜生…」
力のない声で悪態をつき、コップの水を飲み干す。
わかっていた事、何度も見てきた事だ。
団員にもそれ以外にも男にトラウマを抱えちまった女はいたし、それらの傷が少しでもマシになるように気も使ってたつもりだ。
だが…俺の家族がそうなるっていう覚悟が、なるかもしれないっていう想像が足りてなかった。
しょうがねぇじゃねぇか、ルーディアはそんな事言ってなかったんだから…なんて言い訳でしかないな。
俺と視線を合わせようとしなかったり、縮こまっていたり、そもそも身体つきがまったく見えないローブと、顔を隠す仮面をつけてた辺りで何かはあったと想像出来た筈だ。
更にはエリオットを家族の元に帰す為に、気をはって見栄をはって頑張ってた筈だ、自分の庇護下に誰かいると張り切る奴だからな、ルディは。
助けてくれた魔族がいたにしろ、俺の考えつかない苦労もいくらでもあったろう。
その恩人を憶測で罵ったのも最悪だ、そいつがいなきゃルディも生きてなかったかもしれないってのに。
大きく肩を落としてため息をはく。
「本当…父親失格だ」
「お前がパウロ・グレイラットか?」
そんな声が聞こえ、ゆるゆるとそちらに目を向けた。
スキンヘッドの…えらく強そうな男が此方を見ていた。
殺意や敵意は感じないが、瞳は鋭く立ち振舞いに隙はない。
見た目若く見えるが、魔族だと見た目は参考にならん。
「そうだが…アンタは?」
…警戒するに越したことはないか。
すぐに動けるように姿勢を正し、その男に向き直る。
すると男は少しだけ口元を吊り上げ、笑ったようだった。
「…酒でも飲んでいたら一発殴ってやろうと思っていたが、杞憂に終わって良かった。俺はルイジェルド。ルーディアとエリオットとともに魔大陸を旅してきたものだ」