そりゃある訳ないですよね、とりあえず一言欄最低0で設置しました。
良ければお願いします。
「成る程、わかりました」
状況の端的な説明、ゼニスとルーディアの話が終わった。
カップをソーサーに戻したクレアはパウロを見詰めて口を開いた。
「改めて、長旅ご苦労様でした。ゼニスに関しては先程も言いましたが、此方の方で医者に診て貰おうと思います。ルーディアと言いましたか、貴方も一緒に診て貰いなさい。魔石病の件については、答えが出るまで暫くの時間がかかるでしょう。それまではこの屋敷に滞在する事を許可します」
明らかな上から目線であるが、世話になる立場だ、パウロは軽く頭を下げた。
そして次にクレアはフィッツに視線を合わせた。
「次にフィッツさん、第二王女の護衛という立場でありながら、長旅の間私の孫を支えて下さった事、深く感謝致します。アリエル殿下にも感謝の文を後程したためさせて頂きますので、どうかよろしくお伝えください」
実際の足取りを説明すると転移魔法陣の事を説明しなければいけなくなるので、クレアにはラパンにルーディアと共にフィッツが助けに行き、そのままミリシオンに来た、という話になっている。
つまり、数年第二王女の護衛を手放させている現状と言える為に、クレアとしては気が気ではなかった。
「はい、確かにお伝えします」
半分程嘘で固められた状態にも関わらず、顔色一つ変えずに胸を張って答えるフィッツ。
そんなフィッツの手をルーディアはぎゅうと握った。
「それと、失礼ですが家名がグレイラットという事は婿に入った、という事でよろしいのですか?」
「いいえ、僕には家名がありませんので、妻の家名を名乗らせて貰っています。ラノアには僕が購入した自宅もあります」
「ほう、既に自宅まで…。家名もなくその若さで第二王女直属の護衛ですか。苦労も多かったでしょう」
「いえ、日々軋轢に苦しんでいたアリエル様を思えば、僕の苦労など些事です。それにそのお陰で今は、美人で素敵な妻を迎えられましたから。…改めて僕からも、ルーディアの事、どうかお願いします」
「その若さにしてその心意気は立派なものです。ご家族も喜ばれている事でしょう。ラトレイア家の名誉にかけ、尽力致します」
深く頭を下げたフィッツに、クレアもまた敬意を表し深く下げた。
そんなやり取りに、隣に座るルーディアは思わず赤面していた。
「失礼します、皆様。部屋を三部屋用意しました。二人で一部屋お使いください。また食事は毎食同じ時間にお出ししますので、もし外出等で用意が必要でない場合は、すぐ近くの使用人にお声がけ下さい。また何かご用がありましてもお近くの使用人になんなりとお申し付けください」
そこで執事が部屋に現れ、頭を下げながら説明した。
それを良いタイミングと思ったのか、クレアは流麗な動作で立ち上がる。
「それでは私はここで失礼します。直ぐに働きかけを始めましょう。皆様をこれから、ラトレイア家で客人としておもてなしさせていただきます」
最初のように上品に礼をしたクレアは、そのまま踵を返して応接室を去っていった。
そんな後ろ姿を見て、パウロはポツリと溢した。
「…なんかフィッツ君と俺とで対応違くねぇか…?」
「旦那様は只今無職でございますから…」
「むしょっ…」
「一方フィッツ様は将来有望ですから…若いにも関わらず、礼儀もしっかりしております…残念ながら当然でございます旦那様」
そんなリーリャの言葉にパウロが撃沈し、ソファーに力なく項垂れた。
『お婆様、母様に会えて嬉しそうでしたね』
まだ目の見えていないルーディアはぽつりとそう言った。
その言葉に、その場の全員の視線が集まる。
先程まで毅然とした態度で受け答えしていたフィッツも、え、と呆気に取られていた。
『どんなお顔をしていたんでしょうか、笑ってましたか?』
クレアが見せた表情の変化は微々たるものであった。
しかし間違いなく笑顔には程遠いものであった為に、皆は答えに困っていた。
『…あれ?』
「ルーディア」
『はいお婆様』
ゼニスが医者に見て貰うタイミングで、ルーディアはクレアと二人きりになるタイミングがあった。
パウロとフィッツはクリフと話の進み具合の擦り合わせに、リーリャとギレーヌはゼニスの傍にいる。
「ノルンとアイシャはラノア王国に向かった…との話でしたが、二人の様子はどうでしたか?ノルンはあまり出来が良いとは言えませんでしたし、アイシャは妾の子にも関わらずノルンを事ある事に見下して…傲慢さが目立ちました」
『…そうですね、私としてはノルンはこれからだと思ってますよ。ノルンは真面目過ぎて、何も出来ない自分に失望してしまっていたんだと思います。自分のペースでやるようにと告げましたから、きっと頑張っていますよ』
「真面目過ぎた…ですか。真面目な子が勉強を放り出しますか?」
『あくまで私の私見ですから…アイシャは優秀かつ臆病な子なので、人を見下さないようにと言い付けつつ、愛をあげて甘やかしてあげたいと思っています』
「臆病…ノルンとアイシャの二人とも、私が思いもしなかった言葉が飛び出しましたね」
『重ねて言いますけど、私の考えですから。でも…二人とも幸せになって貰いたいですね』
そう言って口元を少しだけ吊り上げて笑った孫に対して、クレアが何も返せないうちに、ルーディアは医者に呼ばれて去っていった。
幸せになるなら私の教育を受ければ良い、と喉まで出かかった言葉が出なかった。
何故、言葉が出なかったのか、ゼニスの例で自分に自信を失ってしまっているのか。
自分の事であるのに、クレアはよくわからなかった。
入れ替わりに入ってきたゼニスがクレアに近寄り、じいっとクレアを見詰めていた。
そして、その診察中にルーディアは倒れた。
ルーディアの魔石病が発症し、高熱と共に意識が朦朧とし、自力ではベッドから立ち上がれなくなってしまっていた。
その状態になったルーディアをミリス教団本部へと慎重に運び、改めて神級解毒魔術の使用を懇願したのだが、答えは否であった。
「それが魔石病であると決まった訳ではないだろう」
「原因不明の高熱などいくらでもある、もう少し様子を見るといい」
「易々とミリス神聖国の住人ですらない人間に、国宝を使う訳にはいかない」
遠回しに、そもそも死にかけに労力を払っていられない、等と言われる一幕もあった。
今ここで問題は起こせない、と悔しさに歯を噛み締め、ルーディアを連れ帰る面々。
馬車の中でクレアが、力が及ばなかった事を謝罪する一幕がある程、その空気はひどく重いものだった。
ルーディアの荒い息遣いしか聞こえないまま、馬車はラトレイア家へとたどり着く。
その日から毎日ミリス教団へと訴える日々が始まるものの、毎回門前払いであった。
クリフのほうも成果がなく、暗い雰囲気のまま過ごしていた。
そして遂に、ルーディアの右足の結晶化が始まってしまった。