『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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感想一覧見るとやはり起承転結の承に当たる部分は減ってまして、ここを上手くやってる物語は総じて面白いんですよね。
自分それを面白く描いてるオススメあるんですよ、『無職転生』って言うんですけど。


襲撃、魔王見参

その日は初めて門前払いはされなかった。

通された中心にベッド…というよりはただの台がある部屋。

その台にルーディアは寝かされ、紫の結晶と化した右足を幾人かの者達が代わる代わるそれを眺めていく。

おぉ、ほお、成る程、等、まるで見世物になっているような状況にらパウロの目が据わり始める。

その時、ゴホン、とわざとらしい咳払いが部屋に響いた。

 

「お歴々、珍しく思うでしょうが、我が孫の処遇を決めていただけないでしょうか?」

 

そう声をかけたのは白い髭を生やし、青い鎧を着込んだ初老の男、クレアの夫であるカーライル・ラトレイアであった。

穏やかな言葉遣いにも関わらず、その声と眼光には有無を言わせぬものがある。

 

「魔石病はこのままでは我が孫を殺すでしょう、私としては手早く治療して貰えると憂いもなくなるのですが」

 

今この部屋には教皇と枢機卿、ミリス教団のツートップがいる、

その二人にカーライルは視線をむけた。

 

「しかし、前例のない事です」

 

「だがこの症状は間違いなく魔石病でしょう、この子を見捨てると?」

 

「我らを騙す目的やも」

 

「その為に肉体をわざわざ結晶化させたとでも?馬鹿馬鹿しい」

 

周囲の者達がざわざわと話し合いを始める。

救いたいという思いは見てとれるものの、何処か尻込みをしているようだ。

どちらかと言えば、前例のない事に踏み込む事を躊躇しているという所だろうか。

教皇と枢機卿も揃って何も言わず、ルーディアを眺め、互いに牽制しあっているように見える。

互いに負い目を作りたくないのだろう。

そんな釈然としない現状に、すぐ近くにルーディアを救う手立てがあるというのに、と歯噛みした時。

 

「で、伝令!」

 

部屋に血相を変えて人が飛び込んできた。

 

「どうしたのですか?」

 

「か、各魔術塔に、襲撃です!」

 

「なんだと!」

 

鎧を纏った、護衛として同行していたであろう騎士達が色めき立つ。

 

「黒い鎧を纏った集団が突如現れ、魔術塔に攻撃を始めています!既に聖堂騎士団が対応を始め、一部の冒険者にも対応を依頼しています!神殿騎士団の皆様にもどうか対処を!」

 

「わかりました、最低限の人員を残し、各魔術塔の防衛に回ってください」

 

教皇のその言葉に青い鎧を着込んだ騎士達は一斉に声をあげ、カーライルも含めて部屋を後にした。

一気にガランとした部屋と、静けさに包まれる中、ルーディアの荒い息遣いが妙に響く。

突如として起きた国への襲撃という異常事態に、ルーディアを治療する所の話ではなくなっている状況。

その部屋にいる者達は既にルーディアには見向きもしない。

クリフが教皇を説得しようとしているものの、軽くあしらわれてしまっていた。

 

「彼女の容態は今すぐどうこうなるものではありません。ですが国の要である魔術塔が襲撃されている現状は、すぐに対応しなければいけないません。彼女には気の毒ですが、もう少し待ってもらう他ありません」

 

先程までカーライルの傍にいたクレアは姿勢を変えず、じっとルーディアの顔を見つめていた。

やがて窓から青い鎧の集団が各地に散らばるのが見えた。

複数の襲撃が起きている為に、それぞれ散らばっていったようだ。

パウロやフィッツは何度か抗議や懇願をしたものの答えは芳しくなく、何もできずに時間が暫し流れた。

そんな時だった。

何処か違和感、耳鳴りのようなものを感じた次の瞬間。

 

ドガァアアアアン!

 

轟音とともに建物が大きく揺れ、ガシャンガシャンとガラスが次々と割れた。

悲鳴が建物のあちこちから響く中、明らかに人為的な破砕音がこの教団本部内で発生していく。

それに思わずパウロとギレーヌは腰に手をやるが、本部に入る前に預けていた事を思いだし歯噛みした。

 

「皆様。緊急事態です、武器の携帯を許可します。現在最低限の騎士しか残していない今、戦力に不安が残る為、出来れば事態解決にご協力下さい、『黒狼の牙』のお二人」

 

教皇はパウロとギレーヌに視線を向け、そう言い、顎を引くだけの礼をした。

 

「虫のいい話だな、おい。…ルーディアを治療すると約束出来るか?」

 

「前向きに検討しましょう」

 

「けっ…狸ジジイが…」

 

自分達の素性までしっかり知られている事、教皇の強かさを感じ、パウロは悪態をついた。

 

「フィッツ君…いやフィッツ、お前も来てくれ。教団本部に襲撃かますなんて、並大抵の相手じゃねぇ、援護を頼む」

 

「勿論です。皆さん、せめて妻の、ルーディアの保護だけはお願いします!」

 

フィッツが部屋にいる人々に頭を深く下げる。

先程どちらかと言えば好意的な反応をしていた人達がルーディアの周りに集まり、力強く頷いた。

その人達に再度礼を返し、フィッツはパウロに向き直った。

自分達の武器を受け取り、パウロとギレーヌ、そしてフィッツは数人の神殿騎士達とともに未だに響く破砕音のほうへと駆け出した。

 

 

 

 

 

いくつかの破砕跡を見つけ、その跡を追うように駆ける一行。

道中には数人の神殿騎士が倒れていた。

凄まじい力で吹き飛ばされたのか鎧は大きく凹み、ぶつかったであろう壁や床はひび割れている。

そして途中、迷路のように入り組んだ道に飽いたかのように、一直線にぶち抜かれた壁を見つけ、更にその奥のほうに人影と吹き飛ぶ壁の破片が見えた。

 

「…頭はあんま良くなさそうな奴だな、だが同時にとんでもない力だ、水神流上級でもない限り一撃でも受けたらその辺に転がってる奴らの仲間入りすると思っとけ、攻撃きたら死ぬ気で避けろ」

 

破砕音と移動の速さ等を加味すると、壁を一撃で破壊して進んでいるとパウロは予想し、神殿騎士に忠告する。

言葉は荒いが的確で素早い判断に、騎士達は顔を見合せ、擬似的にパウロをリーダーとして動く事をお互いに無言で頷きあった。

一行は直ぐに一直線にぶち抜かれた壁を駆け抜ける。

そんな中一人の騎士が何かに気付いて呟いた。

 

「…この先大聖堂の保管庫じゃないか…?」

 

「なに…?まさか神級の解毒魔術もそこにあんのか? 」

 

「ええ、その筈です。ああ、やはり、丁度保管庫に出ます!」

 

一行が飛び出した先には、青い肌の女性が一冊の分厚い本を左手で掲げて表、裏、と確認している場面であった。

騎士達の纏う空気がざわついた。

 

「やはり魔族…!」

 

騎士達が次々と得物を構え、囲うように動きだす。

そんな騎士達の動きに気付き、額に角の生やした女は面白そうににぃと凄惨な笑みを浮かべた。

 

「漸くまともな数がきたな、だがオレはもう用を果たしてしまったぞ?」

 

左手の本を振りながら、そういう女に、騎士が声を荒げる。

 

「薄汚い魔族め!それは神聖なる神級解毒魔術が記された本だぞ!貴様のようなものは本来触れる事すら許されない国宝だ!」

 

「あの魔族が神級解毒魔術の本を持っています…!」

 

「あれが、そうか…!それなら尚更あいつに渡す訳にはいかねぇ…!」

 

「そうだな、だが…あいつはヤバイぞパウロ…!」

 

パウロとギレーヌの剣を持つ手に力が籠る。

同時に非常に嫌な予感がして背筋に寒気が走る。

フィッツの喉が知らず鳴った。

ボロボロになったコウモリのような羽を持つその女は、騎士の言葉により笑みを深める。

 

「クッククク…ならば力づくで来るがいい人間よ!オレは挑戦は受けるぞ!」

 

黒い鎧を身に纏い、片手で振るには不釣り合いな程大きな大剣を右手だけでブン!と振った女は口を大きく開いて笑った。

 

「オレは不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバック!オレに勝てれば勇者の称号をくれてやろう!何処からでもかかってくるがいい!アーッハッハッハッハッハッ!」

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