『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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『泥沼』の策、不死魔王との激闘

アトーフェラトーフェを従えたルーデウスは、アトーフェ親衛隊にミリシオンの魔術塔にそれぞれ襲撃を仕掛ける事を求めた。

それに親衛隊のムーアはそれに難色を示した。

アトーフェとアトーフェ親衛隊で押していったとしても、魔術塔を攻めきるのは簡単ではない、更には戦力を分散しては可能性すらない、と。

 

「いえ、壊せなくていいんです。襲撃も騎士が襲いかかって来たら全力で引いていいです。逃げ道には罠を仕掛け、追撃はさせないようにして下さい。そして騎士が引き上げ始めたら、また襲撃を始めて下さい。身を守り、騎士達を引き付けてください。その間にアトーフェさんには単独で目的の物を取ってきて貰います」

 

「つまり我ら親衛隊は囮であると?」

 

「その通り。魔術塔は素晴らしいものです。騎士達がいない無防備状態だとしても、かなり耐えるどころか壊せない可能性まであります。ですが騎士達は、平和の要である塔を攻められているのに、無視する事が絶対に出来ません。そんな事をすれば国民の心が国から離れていってしまうと知っているのです。平穏である事も、考えものですねぇ」

 

「ふむ…そういうものですか」

 

「そうそう、なので適当でいいです、まともに戦う必要もありませんよ。万が一の為に治癒魔術のスクロールをいくつか見繕ってきたので、どうぞお使いください」

 

「随分と手厚いですな…」

 

「アトーフェさんは今は僕の配下、つまり貴方達も僕の配下、無駄に命を散らせる事はありませんよ、やって貰いたい事は他にもあります、どうか役目を果たしてください」

 

「ふん…せめてその胡散臭い笑みを引っ込めてから言って貰いたいものですな…アトーフェ様が決めた事、故に我々は従いますが、貴方に忠誠は誓っていない事、努々お忘れなく」

 

「あはははは、これは手厳しい」

 

そんな会話が以前、『泥沼』ルーデウス・ノトス・グレイラットがアトーフェラトーフェに一騎討ちを挑み、見事に撃破した後にあった。

そしてまずアトーフェに求められたのは、とある物品を確保する事である。

ミリシオンの大聖堂に保管された、『神級解毒魔術の詠唱が載っている本』。

アトーフェには『だいじそうにされてるかみのたば』と言われているそれ。

 

「ま、それも出来ればでいいですよ、あまりアトーフェさんにそういう方面で期待してませんし」

 

「ぷはー!なんだ!ルーデウス!お前が主役だろう!飲んでるかー!?」

 

「あっははは、やはり駄目そうだ」

 

ルーデウスはそう言っていたのだが、現在奇跡が重なった。

その本は、アトーフェの左手にしっかりと握られていたのだった。

 

 

 

 

 

話す言葉が魔神語だった為、パウロとギレーヌは何を言っているかわからなかった。

故に後ろのフィッツが顔を青くしながらも告げる。

 

「不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバック、かかってこい、勝てれば勇者だ…みたいな事を言ってます…!」

 

「わかるのか!」

 

「魔神語は少しだけ…それにしても魔王、しかも不死魔王…!?なんでよりにもよって…!」

 

二度の人魔大戦によって魔王はほぼ穏健派しか残っていない。

その中での例外中の例外が不死魔王アトーフェラトーフェである。

 

 

 

 

 

アトーフェの背後を取った騎士が、剣を上段に構えて突撃した。

剣神流上級くらいだろうか、『無音の太刀』が背後からアトーフェの肩口を襲う。

思い切りのいい一撃であった。

もし人に繰り出せば真っ二つに出来る自負があった。

目の前の魔族を必ず討ち滅ぼすという、覚悟の乗った一撃だった。

だが。

 

ガキン!

 

アトーフェが肩を竦めた事で肩鎧にそれはあえなく弾かれた。

そして次の瞬間にはアトーフェが振り向き、騎士に大剣を横から振りかぶっていた。

すかさず近くにいた騎士が防御に入る。

流麗な動きで水神流『流』でその大剣を流しにかかる。

 

「ふんっ!」

 

だが衝突する寸前、アトーフェは更に腕に力を込めた。

それによって流しきれなかった力が騎士へと伝わり、受けた剣を砕き、庇われた騎士ごと壁に吹き飛んでいった。

 

「小賢しい、ぞ?」

 

「『光の太刀』」

 

その大振りを隙と見たギレーヌが身を低くして駆け抜け、居合いでアトーフェの首をはねた。

 

「おお!」

 

「やったか!」

 

騎士達がざわめいた。

はね飛ばされたアトーフェの首は一瞬呆然としていたが、笑みを深める。

すると首を飛ばされた筈の体が動きだし、ギレーヌの鳩尾へと飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「なにっ!うっぐぅっ!」

 

予想外の動きに、腹を蹴り飛ばされたギレーヌは腹を押さえて下がる。

その反動で飛び上がったアトーフェの体は大剣を小指と薬指だけで持ったまま、残った指で頭を手に取り、切られた首にぐちゅりと押し付けた。

うぞうぞと傷口が蠢き、直ぐにピタリとくっついた。

 

「ほお!光の太刀を放てる奴がいるか!」

 

すかさず着地地点にパウロは駆け寄り、愛剣で上から『無音の太刀』で切りつける。

しかし着地後の不安定な態勢でも、大剣で軽く受けられてしまう。

 

「なんだ、力比べか?」

 

「なに言ってっかわかんねぇよ!」

 

パウロは押し返してくる力に逆らわず自分から飛び退き、剣を口に咥えると姿勢を低くし四つん這いとなって、近接する。

 

「北神流か?さっきのは剣神流、器用な奴、だな!」

 

アトーフェはそのまま真正面から叩き潰すべく大剣をパウロへと叩きつける。

それをパウロは体を捻りながら紙一重でかわすと、腰の魔剣を抜き、アトーフェの振り下ろした右腕の手首を切り裂いた。

同時に咥えた剣を左手に持ち替え、アトーフェの顔面をスライスするつもりで逆手で切りつけた。

 

ガン!

 

だがそこをアトーフェは反応し、右腕の肘部分でその剣を受けた。

ガラァン!とアトーフェの大剣が落ちる音がし、パウロが北神流『四足の型』を防ぎきられた事に歯噛みする。

アトーフェは笑みを深くし、目をカッと見開いた。

同時に切り裂いた筈の右腕の先に黒い粘体のようなものが集い、一瞬で青い肌の手となる。

そのままその手が手刀の形を取り、パウロの顔面を貫くように動いた。

 

「ちっ!」

 

それをパウロは直ぐ様剣を引き戻し、『流』で受け流しついでに指を切り裂き、自分も後ろに飛ぶ事で空中でクルリと一回転し、直ぐに離れた。

ボトボトとアトーフェの指が床に落ちる。

 

「ほぉお!やるなぁ!各流派をよくおさめぶわっ!」

 

感心するアトーフェに、パウロが離れたと同時に放ったフィッツの火球が顔面に直撃する。

それを皮切りに騎士達が放った魔術が鎧にそれぞれ殺到した。

 

「効かん効かん!その程度の魔術、オレにもこの鎧にも効かんわぁ!」

 

しかしアトーフェの黒い鎧はビクともせず、顔面も軽く焼けた程度で平気な顔をしている。

黒い粘体となった床の指がアトーフェの右手に集い、あっという間に無傷の青い肌の手となる。

また別の騎士がアトーフェに挑みかかるも、アトーフェはしゃがみこんで攻撃を回避し、落ちていた大剣を掴むと、剣の腹で吹っ飛ばした。

騎士は鎧を凹ませながら壁に背中をつき、倒れこんだ。

 

「やっぱり…!鎧にはまともに魔術が通りません…!」

 

「げほ…不死魔王は伊達じゃないか…せめて再生に時間くらいかかると思ったが…っぐ」

 

「とんでもねぇな。片手でこれだ、嫌になるぜ。だが、魔剣はあの鎧にも通用するのは確認出来た…もう一度当たるぞ、せめてあの本を取り戻す!ギレーヌ、先手を頼む」

 

パウロは床に残ったアトーフェの右腕についていた鎧を見ながら言う。

 

「…っは、先手と言わずあたしが決めてやるさ」

 

ギレーヌは鞘に剣を納め、再度居合いの形を取る。

フィッツは無言でギレーヌの横腹辺りに触れ、無詠唱で治癒を行った。

痛みが引いた事に気付きフィッツに目礼し、先程よりも更に深く構える。

 

騎士達は先程の戦いからパウロ達に可能性があると感じ、何も言っていないにも関わらず今は散発的な攻撃で気を引いてくれている。

アトーフェがその対応に後ろを向いた瞬間、ギレーヌは再度駆け抜け、『光の太刀』を放った。

 

「ハッ甘いわぁ!」

 

振り返ったアトーフェは笑った。

ギレーヌの『光の太刀』は首を半ばまで切り裂く。

しかしそこまでだった。

アトーフェの剣がギレーヌの肩の骨の間を貫く事で止めていた。

 

「ぐうっ!?バカな…!」

 

「剣神流の『光の太刀』などオレにはきかん!」

 

動きの止まったギレーヌをアトーフェは蹴り飛ばした。

その飛ばされたギレーヌの影から、パウロが剣を構えて現れる。

 

「二段構えか!さあこい!」

 

「…成る程…こう、か」

 

首を再生させながら笑みを深めるアトーフェと対称的に、パウロの表情は凪いでいた。

何かに気付いたように、居合いのように構えた剣を、振った。

 

「『光の太刀』」

 

それはまさしく『光の太刀』だった。

 

「む…だが見切った!」

 

先程と鋭さの違う剣閃にアトーフェは目を見張るものの、間合いを見切り上体を少しだけ反らした。

それによってこの攻撃は無意味になり、あとは攻撃の後の無防備を潰すだけ…他に対応出来る者もいない。

終わりか、と少しだけ残念な思いでアトーフェは目の前を通過する剣を見送るつもりだった。

 

 

 

 

 

その時アトーフェは不思議なものを見た。

完璧な『光の太刀』で振られた剣だった。

その剣が自身の目前でピタリと止まっていたのだ。

目の前の男の動きは止まっていない、右腕は振り抜かれている。

何も掴んでいない右手が。

剣だけが止まっていて…男はそのまま更に体を捻り、左手で中空に浮いていた剣を掴んでそのまま振り抜いた。

 

「…素晴らしい…」

 

その流れるような動作に見惚れてしまった、思わず口が称賛していた。

自身の左手が肘から切り裂かれ、確保する筈の目的の品が宙へと浮くのを、アトーフェは何処か他人事のように見ていた。

ああ、この男はこの土壇場で。

 

「『残光の太刀』…ってか?」

 

剣神流の奥義を北神流で放ったのだ。

 

 

 

 

 

アトーフェはその場で一言二言言い放ち、凄惨な笑みを浮かべ、高笑いした。

そしてその場で宙に浮かぶと、天井を粉砕して飛び去って行ったのだった。

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