『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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ミリス教徒達、ミリシオン出発

事の顛末として、まずルーディアの治療はして貰える事になった。

不死魔王アトーフェラトーフェの襲撃という想定外の出来事から、ミリス教徒でもないのに国宝を守りぬいた事を評価して…との名目だ。

枢機卿から言い出したこれは、お互いに負い目を作らないように、という一見歩み寄った意見のように見える。

だが、魔族排斥派としては魔族がミリス神聖国を攻めてきた、という事実がある限り最早立場は揺るがない故に、多少譲った所で痛くも痒くもない。

魔族迎合派はこれから肩身が狭い思いをする事となるだろう。

人的被害としては大聖堂内で、打ち所の悪かった騎士が二人殉職してしまっていた。

他は治癒が間に合い、一命を取り留めている。

最も危険な魔王相手だった事を思えば、被害は少なかったほうだろう。

魔術塔の防衛に行った騎士達には人的被害はなし、ただし討ち取れた相手もいなかった。

大聖堂から魔王が飛び出したと同時に一斉に引いていったので、間違いなく繋がりがある、計画的な襲撃と結論付けられた。

大聖堂はボロボロ、良いように誘導された形となった騎士達のプライドはズタズタ。

それでも騎士達は国宝を守ってくれた、取り戻してくれた協力者であるパウロ、ギレーヌ、フィッツに深く感謝した。

汝、礼を失することなかれ、恩を忘れる事なかれ。

彼らはミリス教徒だ。

 

 

 

ルーディアの治療は教皇と枢機卿立ち会いの元、どちらの派閥にも属していない王級治癒術師に一任される事となった。

他は誰であろうと立ち会い禁止、と決まった。

数時間程かかるだろうから、と面々は襲撃後も無事であった体を休める部屋へと案内される事となった。

ギレーヌは先刻突き刺された肩の調子を確かめるように手を当てながらグルグルと回した。

 

「肩大丈夫でしたか?」

 

「ん、ああ、痛みもない、優秀だなルーディアの旦那様は」

 

笑みを浮かべ、からかうように告げると、フィッツも嬉しそうに笑った。

 

「そいやフィッツ、あのアトーフェとか言う奴、最後になんて言ってたんだ?俺の名前聞いてたのは言ってたが、あとは有耶無耶になっちまったからな」

 

アトーフェはパウロに左腕を切り飛ばされた後、目を爛々と輝かせて名前を聞いていた。

フィッツが名前を聞いている、と訳すと、「パウロ・グレイラットだ」とだけパウロは答えた。

それに対してアトーフェは「パウロ、パウロ、パウロか、覚えた」と呟き…。

 

「えと…『お前面白いな!いつかオレのモンにしてやる!』…って」

 

アトーフェはそこまで言い放って飛び去って行っていたのだった。

瞬間ギレーヌの視線がギュンとパウロに向いた。

猫のように縦に瞳孔が開き、口が少しだけ開いた。

 

「…モテモテだなパウロ」

 

「ちょっ、多分そういう意味じゃないと思うぞ!?」

 

ギレーヌはそのパウロの様子に鼻を鳴らす。

 

「というかそもそも聞きたかったんだ、なんだあの技は。お前は『光の太刀』も使えなかったじゃないか」

 

「あー…あれか、いやなんとなくコツ掴んで『光の太刀』使えるって思ったはいいけど、このままだとなんとなく通用しない気がしたから、なんとなく、途中で剣を止めて不意打ちする北神流の技と組み合わせてみただけだぜ?」

 

「ふん…」

 

そんなパウロに鼻を鳴らしてギレーヌはフィッツに顔を向けた。

ギレーヌは指をパウロに突きつけながら言う。

 

「…聞いたかフィッツ、あたしは言ってる事がまるで理解出来ん」

 

「大丈夫です、僕にも理解の範疇にないお話でした」

 

「やはりこいつ、本気で剣に取り組めば神級にもなれたんじゃないか…?」

 

「天才ですね、ルディとの血の繋がりを感じます」

 

「…」

 

何処か不満そうに黙り込むパウロであるが、格上相手に「なんとなく」でぶっつけ本番で技を組み合わせて放ち、見事成功させるのは間違いなく天才である。

とはいえ天才だろうと磨かなければ錆び付く物…パウロは内心本格的に鍛え直す事を決めていた。

まだまだ伸びる、何処かでそう確信していた。

 

 

 

 

 

治療は無事終わった。

ルーディアはまだ眠っているが、足先の結晶化は無事に治り、不安であった作り替えられた胎児も元の姿に戻り、しっかりと成長しているとの事だった。

大聖堂から出る時、教皇に枢機卿、騎士達が勢揃いし、全員で礼をして此方への感謝を表明してくれた。

これから彼らは大聖堂の修復や、諸々の警備の見直し等、忙しない日々を過ごす事になるだろう。

 

「お前も来て良かったのか?」

 

「…ええ、僕はまだ正式なミリス教団員ではありませんから。むしろあんな事があっては邪魔になるだけ…ルーディアが治ったのなら、共にラノアへ帰ります」

 

「そうか」

 

クリフの声からは様々な飲み込みきれていない感情を感じたが、パウロはあえて追及する事はなかった。

自分の無力さ、何も出来なかった歯痒さ、今も残らない事が一番だとわかりつつも納得しきれない自分の幼さ。

それをわかってて悩む若人に、パウロは頭をワシャワシャにしてやった。

 

 

 

 

 

「もう行くのですか」

 

ラトレイア家の前で、クレアが使用人を後ろに並べ声をかける。

既に旅装となったパウロ、ゼニス、リーリャ、フィッツ、ルーディア、ギレーヌが並んでクレアと向き合う。

 

「ああ、ノルンとアイシャの事もあるからな…世話になったなクレアさん」

 

ルーディアが目覚めて数日、みるみるうちに体力を取り戻したルーディアは、ついでのように漸く見えるようになった目で子供の頃は出来なかったミリシオンの観光を一通り楽しみ、帰路に着く事にしたのだった。

 

「いいえ、結局ラトレイア家として出来たことなど殆どありません。ルーディアの治療は貴方達が勝ち取ったものですから。ゼニスの治療法も見付かりませんでした。けれど、此方でも模索を続けたいと思います」

 

「んな事ねえけどな…ま、ゼニスについては頼むよクレアさん。俺達は俺達で探してみるさ」

 

「クレア様。お世話になりました」

 

「リーリャさん、ゼニスの世話をしっかりとお願いします」

 

「お世話になりました。ルディの為に色々とありがとうございました」

 

「フィッツさん、重ねてアリエル殿下に感謝をお伝え下さい。此方こそ孫の為に感謝申し上げます」

 

『お婆様』

 

ルーディアはクレアの前へと出る。

 

「ルーディア…フィッツさんをしっかり支えてあげるのですよ」

 

『はい、お婆様、ありがとうございました』

 

ルーディアは仏頂面のままのクレアに右手だけで抱きついた。

 

「…なんですか、はしたない。おやめなさいな」

 

やんわりと窘めるクレアに、ルーディアは背中に手を回しながら言葉を続ける。

 

『お婆様、次はノルンとアイシャを連れて会いにきますね、それまでお元気で』

 

言っても離れないルーディアに更に苦言を呈しようとした時、二人を横からふわりと抱き締める腕があった。

 

「ゼニス…?」

 

『母様…ふふ、母様もお婆様とお別れの挨拶をしたいようですよ』

 

様子は変わらず、ぼぅっとしたままにも関わらず、ゼニスの口元には笑みが浮かんでいた気がした。

クレアは思わずゼニスの頬を撫で、一度目を瞑った。

ルーディアはその様子に目を細め、クレアが手を離したのを見て、ゼニスを連れて皆の横につく。

クレアは改めて一行に向き直り、姿勢を正した。

 

「…ええ…ゼニス、ルーディア…皆さんもどうかお元気で。次にいらっしゃった時も歓迎させていただきます」

 

その言葉と共に礼を行い、後ろに並ぶ使用人もまた同時に頭を下げた。

それに対して一行も改めて礼を返し、踵を返して歩きだした。

ラトレイア家の前で待っていたクリフと合流し、皆は歩き出す。

 

『…帰りましょう、シャリーアに。…皆、改めてありがとう』

 

そう言うルーディアの手をとって握り、フィッツは満面の笑みを浮かべた。

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