一行は問題なく数日の旅路を終えて、転移魔法陣を通り空中要塞へと再度降り立った。
今回は時間的余裕があるため、ペルギウスへの謁見や空中要塞の見学等を予定している。
今日はそのまま一泊させて貰う予定である。
まずはペルギウスとの謁見だ。
シルヴァリルに案内された先は庭園だった。
庭園では現在、アリエルとナナホシがペルギウスとお茶をしているようだった。
アリエルの後ろにはルークとエリナリーゼが控え、ナナホシが少しだけ嫌そうにしていた。
すかさずエリナリーゼの所にフィッツとクリフが向かい、いくつか言葉を交わす。
エリナリーゼとクリフはアリエルとペルギウスにそれぞれ軽く礼をすると、そのままこの場を立ち去っていき、フィッツはアリエルの後ろに静かに控えた。
エリナリーゼはルーディアの隣を通りすぎる際に「無事で何よりですわ、数日後ちゃんとお話しましょう」と鼻息を荒くしていた。
まぁ、そういうことであろう。
クリフが「数日…!?」と悲鳴をあげていたのが印象的だった。
「戻ってきたか。…どうやら上手く行ったようだな、念の為、カロワンテに後で見て貰うといい」
ペルギウスは椅子に座ったまま頬杖をつき、ルーディアへと視線を向けた。
話は区切りがついているのか、アリエルは気まずそうに俯いて黙りこんでいる。
『はい、ペルギウス様、ご厚意に感謝致します。どうにか無事に治療を受ける事が出来ました』
ルーディアは深く頭を下げた。
「あ、あー、ペルギウス様、私ちょっとルーディアと話してきてもいいですか…?」
ナナホシは今のこの場、俯いたアリエルと毅然とした態度のペルギウスに挟まれてるのが嫌らしく、ルーディアを理由に離脱したがっているようだ。
「…ふむ、まぁいいだろう、ルーディア・グレイラットよ、後程話を聞かせてくれ」
それをペルギウスはわかっているようで、ナナホシとルーディアがこの場から離れる事を許可した。
ナナホシは忙しなく立ち上がると、ルーディアの手を掴み、歩きだす。
『…仕方ない子ですねぇ』
「五月蝿いわね、私の使わせて貰ってる部屋行くわよ」
ぼそりと呟いたルーディアの言葉に、ナナホシは振り向かずに答えた。
耳が赤くなっているのは、見ないふりをしたルーディアだった。
「さて、それでは改めて自己紹介といこうか?我こそが『甲龍王』ペルギウス・ドーラである」
ペルギウスはパウロとギレーヌに視線を向けた。
パウロとギレーヌはそれに対して、遅れながらも膝をついて頭を下げた。
「パウロ・グレイラットだ。ペルギウス様、感謝する。おかげでルーディアを、娘を救う事が出来た」
「ギレーヌ・デドルディア。礼儀にはあたし達二人とも疎い、無礼があったら申し訳ない」
「よい、我は寛大だ。その程度では気にもせん。折角だ。貴様らも席につくがいい、少し話そうではないか」
その言葉にパウロとギレーヌは恐る恐る頭をあげる。
そろそろとゆっくりと立ち上がり、指定された席に座ったのだった。
「今丁度アリエルと話をしていてな、王とは、真の王とは何か、王として最も重要な要素とは何かを問うていた所だ。こやつは知識を持ち、周りの言葉をよく聞き、王であると自覚するものだ、と答えた。…我の考えるものとは違う。どうだ、貴様らも答えてみよ」
「王として最も重要な要素…ねぇ。俺は生憎王族じゃないしそういう教育もまともに受けてはないからよくわかんねぇけど…国民第一に動いてくれる奴が王だと嬉しいね…せめて自国で起きた災害の対応くらい国ぐるみでやって欲しいもんだ。支援金もろくに寄越さねえ上に捜索団を丸投げとかはしてほしくねえな」
それは遠回しな…いや真正面から今のアスラの王を批判している言葉だった。
「ほう、つまり今のアスラ王はその最も重要な要素が欠けていると?」
「俺からしたらな。ま、王にも国にも言い分はあるんだろうが…あれはフィットア領民への裏切りだろ。そうなるように動いた奴らがいるんだろうが、最終的に認めたのは王だ。俺はそんな王のいる国にいたくはないね」
パウロとしてはアリエルへの激励のつもりだった、せめてそのくらいの義理は通せる王になれよ、と。
しかし先刻アリエルはペルギウスに叱咤されて落ち込んでいた。
故にパウロが話し終わりチラリとアリエルを横目で見ると更に俯いており、ルークが人を殺せるような目で睨み付けていた。
未だにまともな会話がない甥相手に、パウロは困ったように視線を反らした。
「成る程な。ギレーヌ、貴様はどう思う?」
「…原因不明の災害の責任を領主に取らせる、そんな不義理な王ならばいらん。サウロス様の責任がゼロだとは言わない。それでも処刑はあり得ん。許可だけした王は兎も角、それを画策した奴らは必ず報いを受けさせる…!」
「ギレーヌ、落ち着け。話がズレてるぞ」
「っ…すまん。そうだな、不義理な真似をしない…誠実さがあたしには必要に思える」
一瞬殺気だってしまった事でペルギウスの使い魔達の周りにピリリとした空気が流れるが、パウロが止めた事でその雰囲気は霧散していった。
そしてそんな様子を気にした様子もなく、ペルギウスは口を開く。
「民を一番に考える事と誠実さか…ふはは、アリエルよ、こ奴らは貴様よりかはマシな答えが出たな」
「…ですが、民の事だけを考えていては、王は務まりません。誠実さは必要かもしれませんが…最も重要とまでは…」
「そうだな。ガウニスも常に誠実という訳ではなかったし、民の事ばかりを考えていたわけではない。だが、周囲は奴に力を貸し、アスラは平定された」
「では、能力ですか?王に能力は関係ないと?」
「無いと思うか?暗愚な王を掲げる国が、本当に良い国だと思うか?」
「…」
アリエルは黙り込んでしまう。
ペルギウスの求める答えが、アリエルにはわからなかった。
答えが見付からない歯痒さに、俯いてしまう。
そのアリエルの考え込む様子に、ペルギウスは小さく頷いた。
「考えろ、アリエル・アネモイ・アスラよ。…さて、客人達よ、いきなり付き合わせてしまったな、改めて我が空中要塞を楽しむといい。日が落ちる時の光景も絶景だぞ?」
日が傾きオレンジ色に染まり始めた空を指し示しながら、ペルギウスは立ち上がる。
それにパウロとギレーヌは素直に目を輝かせた。
「おお、もう既に綺麗だな。よっしゃ、お言葉に甘えて。よく見える所探しにいくか」
「そうだな、ゼニス、リーリャ、お前達も一緒に行こう」
パウロとギレーヌも立ち上がると、ゼニスとリーリャを連れて立ち去ってしまう。
「…はぁ」
庭園に残されたアリエルはため息を吐き、やるせなさに肩を落とした。
そんな様子を、ルークとフィッツが心配そうに見つめていた。
ナナホシの部屋に案内されたルーディアは促されるままに椅子に座った。
そして対面に座るのかと思えば、そのまま後ろから覆い被さるように抱きついてきた。
ぎゅうと子供のように首もとに抱きつくナナホシに、ルーディアは手だけを伸ばし頭を撫でた。
【はぁ…】
そうため息だけ吐いてスリスリとルーディアの頭に頬擦りするナナホシ。
『【随分と疲れてますね…大丈夫?おっぱい揉む?なーんて】』
【揉む…】
『【おや】』
むにむにと遠慮がちに揉みしだかれはじめた胸。
随分と限界だったんだなぁ、と右肩に乗せられた頭をよしよしと撫でてやる。
【心配したわ…魔石病…よく知らなかったけどとんでもない病気だったじゃない…】
ナナホシはルーディアの肩に顎を乗せる。
『【もう治りましたから大丈夫ですよ】』
【はぁ…詳細調べた後、ひどい夢を見たのよ…実験の時に貴方が手渡してくれた魔石が、貴方の砕けた体の一部…なんて夢】
『【あー…それは悪夢ですね】』
【その後、実験の時に魔石や魔結晶が人の体の一部に見えたりするし…それからどうにもずっと夢見が悪くて…】
ルーディアはそう言って息を吐くナナホシの顔を覗き込む。
目元にひどい隈が見てとれて、寝不足である事がわかった。
そんな、未だにむにむにと胸を揉むナナホシの首の後ろを右手で掴みあげ、そのまま俵担ぎにした。
【あわわわわ!なになに!?おっぱい揉みすぎた!?】
ルーディアはそのまま立ち上がると部屋のベッドにナナホシを寝かせ、自分もまたそこに横になった。
目を丸くしてルーディアを見るナナホシの頭に手を添える。
『【私は無事ですよ…私も本当に怖かったですけど、どうにか生きてます。大丈夫ですよ…】』
そして、ナナホシの頭を耳を胸に当たるように抱き締めた。
【うん…本当に、良かった…ルーディア】
『【よしよし…ナナホシは頑張りやさんですね…】』
ナナホシの頭を優しく撫で続けるルーディア。
その鼓動と温もりにナナホシは安心してしまい、瞳がとろんとし始める。
やがてその瞳はゆっくりと閉じられていき、スー、スー、と寝息をたて始めたのだった。