『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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勧誘、脅迫、逃走

「…という訳で、要は自分らしく生きよう、という教義な訳です」

 

「「へぇー」」

 

リニアとプルセナは気の抜けた返事を返した。

 

 

今二人がいるのはとある新興宗教の拠点であった。

その勧誘という事で、二人はそれぞれ干し魚と干し肉をがじがじしながら聞いていたのだが、なんとも胡散臭いというのが二人の結論だった。

好きに自分らしく生きる事、それこそが我が神の願いであると。

皆が思うがままに生きれるように、人生の要所で神から啓示が下るというのだ。

今勧誘の説明をしている男も、一度啓示を貰い、救われたのだと語っていた。

 

「(嘘くせーニャ。干し魚食いきったら帰るニャ)」

 

「(同感なの、意味がわからないの)」

 

アイコンタクトで頷きあった。

二人はミリス教徒ではないが、生まれの大森林にミリスが近いからその教義にはある程度詳しい。

その中には「ミリス様はお告げをしない、お告げをするのは神を騙る悪魔」というものもある。

しかも好きに欲望に忠実に生きろだなんて、まさに悪魔の誘惑だろう。

何より好き勝手生きて責任は取らない、危なければ神が助けてくれるなど、なんとも都合が良すぎる。

断ってさっさと帰ろう、そう決めた二人が口を開こうとした時、不意に感じた匂いに、思わず口を閉じた。

そして二人は再度アイコンタクトを取り合うと、口を開く。

 

「成る程ニャー。興味深いニャ。少しここを見て回ってもいいかニャ?他の人とも話してみたいニャ」

 

「一人の意見だけじゃなく、色んな人から見た意見を聞いてみたいの。体験入信みたいな感じをお願いしたいの」

 

「おお、いい心掛けだと思います。是非今拠点にいる人達の言葉も聞いてみてください。皆さんイキイキとしてますよ」

 

そう嬉しそうに語る男に対し、二人の目は細められた。

二人が感じた匂いは二つ。

ルーディアの匂い、そして血の匂いだ。

帰ると言っていた彼女がここにいる事も、今幸せな筈の彼女がこんな宗教の拠点にいる事も、ひどい違和感がある。

更には血の匂い…元々怪しんではいたが、絶対にまともな宗教ではない。

二人は確信していた。

 

「(まずはこの拠点にいるだろうボスを探すニャ)」

 

「(見つけたらこいつら全員ファックなの)」

 

内心の殺気を無理矢理抑え、二人は涼やかな笑顔を浮かべる。

 

「楽しみニャ」

 

「参考にするの」

 

ボスの無事を確認したら暴れよう、二人はそう内心で呟き、うんうんと頷いた。

男はそれに気を良くしたように満面の笑みを浮かべた。

そして歓迎の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「かなり遅くなっちゃった」

 

ノルンは作業が長引いてしまった為に少し駆け足でラノア魔法大学内を移動していた。

流石にもう帰る段階ではあるが、既に外は薄暗くなっており、多少の焦りを感じる。

 

「ロキシー兄さんまだいるかな、職員室寄っていこう」

 

そう呟いて職員室に向かおうとした時、何人かの人影が、ノルンの前に現れた。

道を塞ぐように現れた人影に、ノルンの足が止まる。

怪訝な表情になるノルンに対し、人影はそのまま話しかけてきた。

 

「こんばんはノルンちゃん」

 

「あの、こんばんは先輩方」

 

それはノルンもたまに会い、挨拶をするくらいの間柄の五、六年生くらいの先輩達であった。

割りと遠巻きで自分を見てゴニョゴニョしているので、自分のドジさを嘲笑っているのだろうなぁ、とあまり印象は良くない先輩達である。

 

「えと…帰る所なんですけど、何かご用でしょうか?」

 

そのノルンの態度に男達はそれぞれ何か反応した後、ゴニョゴニョと話し始める。

小さく早口のその言葉はノルンには聞き取れなかった。

数言交わした彼らのうち最初に挨拶した一人が、何かを取り出してノルンへ見せながらと語りかける。

 

「ちょっとさ、一緒に来て貰いたい所があるんだよね」

 

それに、ノルンが目を見開いた。

 

「っ…!それ、姉さんのチョーカー…!?なんで先輩が持ってるんですか!」

 

それはルーディアが常に首に着けているチョーカー…言葉を発するのに必須なそれは、ほぼ肌身離さずルーディアが身に付けている物だ。

ノルンのその反応に、男はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて続ける。

 

「わかるでしょ?君のお姉ちゃんは今俺達の所にいるんだよね、だからノルンちゃんも来て欲しいんだよ」

 

「…!信じられません!貴方達のような人達に姉さんが負ける訳ない!」

 

ノルンは姉へが相当強い事を知っている。

さもすれば学校で最も強いかもしれない事も。

それが彼らのような人達にやられる訳がない、と姉を信じた。

 

「力づくでやったって決めつけか、傷付くなぁ」

 

しかし男は肩を竦めながらも、もう1つ何かを取り出し、言葉を続ける。

 

「まぁ、事実だけどさ」

 

「それっ…」

 

男が取り出したのは血塗れの眼帯、ルーディアが左目にしていた物のようにノルンには思えた。

もしかして、と思ってしまい、ノルンの体がぶるりと震えた。

 

「ノルンちゃんのお姉ちゃん、チョロかったよー、ほら」

 

男は後ろを指し示す。

そこには女生徒の制服に身を包んだ小人族らしき男が立っていた。

丁度、ノルンと背格好が同じくらい。

更には金髪のカツラを被って顔を隠した姿は、傍目にはノルンに見えなくもなかった。

それにノルンは顔を青ざめさせる。

 

「わ、私に変装してっ…!」

 

「優しいお姉ちゃんだね、可哀想に…ノルンちゃんが来てくれなかったらどうなるかなぁ?」

 

なぁ?と後ろに並ぶ人達に問い掛ける。

 

「奴隷でしょそりゃ。売れるよあれは。妊娠中で顔半分は美人、スタイルもいい。腕と足が片方ないけど、強い。レアだよレア、好事家に相当高く売れるよ」

 

「その前に俺らで楽しもうぜ!半分とはいえあんだけの美人好き勝手出来る機会なんて」

 

「わかりました!」

 

好き勝手に姉の行く末を決めようとする彼らの言葉を遮り、ノルンは言葉紡ぐ。

 

「わかりました、何処にでも着いていきますから、姉は、姉さんにこれ以上酷い事しないでください…妊娠してるんですよ…?私はどうなってもいいですから、姉を家に、帰してあげてください」

 

涙を溢れさせ、けれども男達を睨み付け、言い捨てる。

男達の一部はノルンが泣き始めた事にざわめき始めるものの、前に立つ男達は厭らしい笑みを深めるだけだった。

 

「そっか、良かった。ノルンちゃんが着いてきてくれるって言ってくれて。さ、私を先輩達の拠点に連れてってください、って言うんだ」

 

その言葉に、ノルンの悔しくて噛み締めた下唇から血が流れる。

顎に伝った血が、目から溢れた涙と共にポタポタと床に染みをつくった。

 

「私を、先輩達の…拠点に…連れてってください!」

 

ノルンがそう言い切った瞬間、男はノルンに肩を回した。

嫌悪の表情で男を睨み付け、体を震わせるノルン等何処吹く風、男はニンマリとした笑みを作る口を開く。

 

「いいね、歓迎するよ」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「「ようこそジンシン教へ」」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

ガリガリガリガリ

 

「ワンワンワンワン!」

 

「な、なんですの、どうしたんですのレオ!」

 

エリナリーゼはクリフとの家で夕食用意をしていた所だった。

玄関から爪で引っ掻くような音と、犬の吠える声がして、慌てて出てきた。

そこにはレオが、ぐったりとしつつもルーシーを抱っこ紐で抱えたアイシャと、アイシャを心配そうに見上げるアルスを後ろに庇いつつ、街路に唸っている所だった。

エリナリーゼは周囲を軽く見回した後、不穏な予感を感じる。

 

「貴方達は家に入っていなさい」

 

「は、はい…なんか…買い物中に…レオが私達乗せて、走り続けて…目が回る…」

 

息も絶え絶えで青い顔をしたアイシャが、ルーシーとアルスの二人を伴って家の中へと入っていく。

バタンと扉が閉じられたと同時に、その不穏な気配が霧散していくのをエリナリーゼは感じた。

 

「な、なんだったんですの…?」

 

「ワンワン!…グルルルルルル…!」

 

レオはエリナリーゼに向けて吠えると、とある方向を見て歯を剥き出しにして唸り始めた。

 

「…誰かが…ルーディアがピンチですのね…?」

 

「ワン」

 

正解だとばかりに1つ吠え、再度その方向を見て威嚇を再開する。

 

「…わかりました、三人はわたくしに任せて、あなたは自分の役目を全うしなさい!」

 

「ワン!ワォオオオオオーン!!!」

 

レオは遠吠えを一つあげ、一気に駆け出して行った。

そんな様子にエリナリーゼはどうか上手く行くように、と祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疾走するレオに並び立つ影。

 

「…レオ。ルーディアが危ないのか?」

 

「ワン!?ワン!!」

 

「…そうか先導頼むぞ、レオ」

 

「ワン!ワォオオオオオーン!!!」

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