『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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自分らしく、身勝手な者達

剣閃が走る直前、リニアが雄叫びをあげてその剣士に飛び掛かっていた。

 

「ニャァアアアアアア!」

 

「うぉっ」

 

リニアの左肩辺りが切り裂かれ血飛沫が舞ったものの、そのまま飛び込み、剣士の腹にしがみつき、そのまま共に倒れこんだ。

 

「ってぇな!ちっ、この獣ごときが邪魔しやがって!離しやがれ!」

 

剣士はリニアの頭や背中を殴打しはじめる。

リニアは顔を痛みに歪めながらもしがみつく腕に力を込める。

この剣士は自分達の手におえない、という本能の元の行動であった。

 

「ぷっあははは!リニア先輩なっさけない姿!あんだけ男なんていらないみたいな態度とってた癖に、男にしがみついてるよ!」

 

途端ゲラゲラと一部の鎧姿の者達が下品な笑い声を溢す。

そんな奴等の顔を睨み付けたプルセナは、そいつらの顔に見覚えを感じて、思わず呟く。

 

「あんた達…昔私達の舎弟だった…」

 

「覚えてんのかいプルセナ先輩よぉ!あんたらのせいで俺らは退学!全部あんたらのせいだ!」

 

笑いだした奴とは違う男がそう叫んだ。

それは昔、リニアとプルセナが一番やんちゃだった頃の話だ。

ドルディアの姫という立場を最大限活かし、大学内で不良を従えブイブイ言わせていた時、現れた自分達より権力も実力もある、アリエル王女とお供達。

それに腹を立てた二人は二十人程の不良達と共にシルフィ…まだ女装してた頃のフィッツ…を襲撃し…一人残らず返り討ちにあった。

その結果、女生徒(女装生徒)を集団で襲うという卑劣な犯行に、退学と共に魔術ギルドにその生徒の情報が公開されるという罰を受ける事となった。

そんな人物達のうちの半数程がここにいた。

 

「だからあんたらをここに後輩を使って呼び出した…気が済むまでボコって犯して奴隷にして売り飛ばしてやるよ!俺らの人生滅茶苦茶にしたんだから、なぁ!」

 

その言葉とともにリニアの腹を思い切り蹴りあげた。

 

「がっ…は…」

 

苦悶の声と共にリニアの腕が緩む。

剣士はそれを好機と、剣の柄をリニアのこめかみに思い切りぶつけた。

ガン!という音とともにリニアの視界が揺れ、しがみつく腕が離れる。

そしてそのまま床に倒れこんでしまった。

 

「いい格好だなぁ!リニア先輩様よぉ!」

 

「ぶぎゅ! 」

 

そんなリニアの頭を、その男は笑みを浮かべて踏みつけにした。

グリグリと床に押し付け、リニアが苦悶の声をあげる。

 

「リニア先輩!」

 

その様子に、ノルンが思わず駆け寄ってしまう。

 

「ノルンちゃんダメ!」

 

プルセナが止めるが、既に遅かった。

 

「おっと」

 

「の、ノルンちゃん、あ、危ないよ」

 

すかさず、立ちはだかっていた内の二人が、ノルンを左右から押さえ込んだ。

 

「離してください!なんでこんな酷い事するんですか!」

 

「心外だなぁ、俺達はただノルンちゃんが欲しかっただけだよ」

 

「ず、ずっと見てたんだ、す、すごい可愛い子がいるって…えへ、だ、だからおんなじ思いのや、奴等募って、ノルンちゃんを俺らのものにしようって決めたんだ、えへへへへ」

 

そう、今厭らしい笑みを浮かべる彼らは、ノルンをずっと見ていた。

転入した時から、段々明るくなっていって、ひた向きで、一生懸命で。

けれど成績はパッとしなくて、上手くいかなくて悔しそうで、ドジで、転びやすく、すぐに涙目になってしまう。

そんなノルンを、彼らは…自分達の奴隷としてしまいたいと思った。

 

「ひっ…き、気持ち悪い!気持ち悪い!離して!離してっ!」

 

ノルンはあまりの気持ち悪さに顔をひきつらせ、青ざめさせた。

そして自分を押さえ込む二人から離れようと抵抗するが、それすらも彼らを喜ばせているだけだった。

厭らしい笑みを浮かべた彼らは、その抵抗すら楽しむように、けれど絶対に離さないように、ノルンを捕まえていた。

 

「はー、本当に弱くて可愛いねノルンちゃん」

 

「はぁ、はぁ、いい匂いがするなぁ…いひいひひ」

 

一人は恍惚としながら、一人はノルンの匂いを嗅ぎながら。

その様子にノルンは更に恐怖を覚えた。

 

「じゃあ、あんた達…なんでボスをここまでひどい目に合わせたの!ここまでする必要あるの!?」

 

じりじりと距離を詰めてくる奴等から離れるように、プルセナは後退りながら、腕の中で弱々しく息をするルーディアに視線を向ける。

 

「…え?あー。なんで…って、なあ?」

 

「べっつにー。俺はこの猫とあの犬さえ潰せれば、後はどうでも良かったけど?ついでに金になるなら、程度で」

 

「ノルンちゃんが大人しくきてくれるように、だけかな」

 

「ま、まぁ。なんか不仲の噂もあったし、ノルンちゃんもべ、別にき、気にしないでしょ?ぇへ」

 

そんな返答に、ノルンが信じられない物を見る目で彼らを見渡す。

 

「な、なんですかそれ、じゃあまるで…!」

 

「俺はあるぜ理由!」

 

剣士の男が声を張り上げる。

 

「その女がエリオットの女だからな!エリオットのガキんとこにも三人やったが、人質にしていたぶってやるのさ!ちょっと用心棒やってりゃ小金貰えてあのクソガキを殺せる、ここは最高だぜ!これこそが剣神流の思うがままに生きるって奴だろ!」

 

剣士の男は、剣の聖地にいた剣聖の一人だった。

他の三人もそうだが、エリオットが来てからというもの、上手くいかない現状に苛立っていた。

礼儀のなってない小僧が剣聖になった事も、剣神に気に入られている事も、将来有望で美人の剣神の娘ニナに好意を向けられている事も。

何も上手く行かず、腹いせに彼らはニナを襲う計画すら立てたが…そこをよりにもよってエリオットに聞かれ、四対一で叩きのめされ。

そして剣神に突きだされる所を、這う這うの体で逃げ出していた。

そんな四人だ。

彼らの言葉に、ノルンは声を震わせる。

 

「そんな…それじゃ、それじゃまるで貴方達は、姉を、姉自身をなんとも思ってないみたいじゃないですか!それであんなにひどい事が出来るんですか!?」

 

そんなノルンの言葉に、彼らは顔をきょとんとして見合せ、へらりと笑った。

 

「そうだよ?あの人が強いって聞いてたから最初にボコボコにしたけど、正直どうでもいいよ」

 

「金になりそうだから売るつもりだけど、あの人に思う事はなーんもないよなぁ?」

 

「俺らが好きに生きる為の踏み台みたいなもんだろ、感謝くらいはしてやろーぜ」

 

口々に好き勝手言う彼らを睨み付けるノルンだったが、彼らは痛痒も感じる様子なく、へらへらと笑うだけ。

そこでノルンはとても聞き流せない言葉に気付く。

 

「…!売る、って、なんで!私がついてったら姉を解放してくれるって!」

 

「そんな事言ってないよ、君がここに案内してくれ、って言っただけだろう?姉を解放するなんて、一言も言ってないよ」

 

「っ…!最低!最低最低最低!!!ふざけないで!貴方達みたいな人達の為にお姉ちゃんは頑張ってきた訳じゃない!」

 

「あはは!怒ってもよわっちいなぁ。悲しくなるねぇ、でももうちょっと大人しくしてよっか」

 

暴れるノルンにもう一人抑えに回される。

そしてノルンは、強かに床に押し付けられた。

 

「ぐっ…うっ…最低、最悪だよ…ひどすぎるよぉ…」

 

ノルンは姉が受けた仕打ち…人の身勝手さ醜さを感じ、涙を流す。

嗚咽を漏らすノルンすら、男達は楽しそうに眺めていた。

それを見た剣士の男はプルセナに向き直る。

 

「さてそんじゃ、犬耳の嬢ちゃん、後はあんただけ、そろそろ…」

 

アォーン

 

「あん?犬か?」

 

そんな時、少し離れた所から犬の遠吠えが聞こえた。

その遠吠えに、プルセナは耳をピクピクとさせルーディアを抱える手を持ち直した。

そして、何人もの奴等に蹴られ、鼻と口から血を流し、肩の傷からの出血で意識も朦朧としていたリニアが、唐突に笑いだしたのだった。

 

「ははっ、ニャハハハハハハハ!」

 

「あぁ?遂にイカれた、かっ!」

 

リニアの腹をもう一度蹴り飛ばす。

 

「ハハぶっ…ぅぐっ、ァハハハハ…!…ゴホッゴボッ、ベッ!」

 

リニアは血を吐き出し、震える上体を無理矢理起こして彼らを見上げて睨み付けた。

 

「お前らは終わりニャ、負け犬どもめ、ざまあみるニャ」

 

バン!

 

そんなリニアの声と共に、外への扉が開いた。

そこに現れた存在に、いち早く反応した剣士の男は、プルセナに向けていた剣を構え直し、狂気に顔を染めた。

 

「おぉ、おおおおお!おまえぁあああ!」

 

男は狂乱したように口から涎を撒き散らしながら一直線に駆け寄り、その存在に本気の一撃を放とうと剣を構えた。

 

「死ねえ!『光の』」

 

「『光返し』」

 

次の瞬間、刃も見えず、男は両腕を切り落とされた。

ボトボトと腕が床に落ち、持っていた剣が音を立てた。

それでも男は血走った目でそのまま突っ込んでくる。

 

「エリオッ/トォオオオ!」

 

「誰だよお前は」

 

返す刀で首をはねられ、男の首は天井に染みを作った。

ボタボタと落ちる頭の破片に、誰かが悲鳴をあげ、鎧が音を鳴らした。

振り抜いた剣を軽く振り血を飛ばし、それを成した存在、エリオットは剣を鞘に納めながら周りをゆっくりと見渡す。

血を吹き出し遅れて倒れる首なし死体に、周りが静まり返った。

少し遅れてエリオットの背後から、唸り続けるレオが現れる。

 

「ワンワン!グルルルル…!」

 

二度吠えて駆け出し、プルセナ及びルーディアに背中を向け、守るように牙を剥き出しにして威嚇し始めた。

 

「せ、聖獣様…!」

 

守られてるその安堵に、プルセナの目に涙が浮かぶ。

 

「…それで?」

 

「な、なんですか貴方いきな…ヒィ!」

 

どうにかその言葉に一人が反応するも、エリオットが視線をむけただけで悲鳴をあげて身をすくませた。

その様子を気にする事なく、エリオットは一歩足を進める。

鋭い眼光で睥睨し、口を開いた。

 

「ルーディアを傷つけた奴は誰だ?」

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