『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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『狂剣王』エリオット・グレイラット

エリオットのその静かな問い掛けに、誰も答えられなかった。

今目の前であっさりと行われた殺人に、頭が追い付いていないのだ。

しかも今ジンシン教の中で最も強い人物が、だ。

静寂が辺りを包む中、エリオットが背中を向けている外のほうから、複数の足音が聞こえてきた。

見れば三人程の剣士のような男達が、エリオットの数歩後ろで、身構えていた。

 

「ああ、よかった!」

 

それに拠点内のジンシン教徒達は安堵の息をもらした。

彼らは剣神流の剣聖達、いくらこの赤髪の男が強かろうと、もう大丈夫だろうと。

更には、ボロボロの猫にと教徒の一部が身柄を欲した少女は此方の教徒の手にある。

あとはこれらを人質にして、目の前の男も袋叩き。

それで終わりだ、と教徒達は思った。

 

「いつも通りお願いしますよ用心棒方!」

 

先程まで冷や汗を流して動きを止めていたリニアを何度も蹴った男は、ははっと顔を綻ばせた。

 

「へっ!誰が負け犬だよ!このクソ猫が!」

 

そう言ってリニアをまた蹴ろうとした時、ギロリとエリオットの眼光が男を貫いた。

次の瞬間には男の蹴るために繰り出した脚は、リニアに触れる前に膝から先が切り飛ばされた。

 

「あぇ…?」

 

その現実を認識する前に男の首が宙を舞う。

一拍遅れて崩れ落ちた体に一瞥だけして、エリオットはリニアへ声をかける。

 

「大丈夫か?早くレオのとこにいけ」

 

「~『ヒーリング』…げほっげほっ…助かったニャエリオット…」

 

リニアはふらふらと立ち上がると、素早く初級治癒魔術を唱え、小走りでレオのほうへ向かう。

それを見送るエリオットに、剣士の三人が剣を構えて詰め寄った。

 

「おいこらエリオット!俺らを無視してんじゃねえよ!」

 

「あいつは…やられちまってるか、逸ったな」

 

「エリオットのガキはあの犬のせいで確保出来なかったが…あそこで押さえ込まれてるガキの命が惜しけりゃ大人しくしな!」

 

一人が指し示した先で、ノルンを押さえる男の一人が短剣を取り出し、ノルンの首に当てるのが見えた。

 

「ひっ…!」

 

「ノルンちゃん、大人しくしててねー、暴れると切れちゃうよー」

 

恐怖するノルンと、ニヤニヤと笑い刃を突きつける男が視線をエリオットと剣士達に向けた。

 

「レオ、そっちは頼む」

 

「ウォン!ガァアアアア!!!」

 

エリオットの声と共に咆哮があがり、男の横からレオが牙を剥いた。

 

「えっ、っがぁっ!」

 

首にがっちりと噛みつき、引き倒したレオは、そのままその男を左右に振り回した。

ノルンを押さえ込んでいた男達は、それで弾き飛ばされててしまう。

そこをすかさずリニアがノルンを抱えあげ、プルセナのほうへと駆け寄った。

 

「あ!ぁがぁい!いたいいだいっ!」

 

衝撃で短剣を取りこぼしてしまった男は、首に食い込んだレオの口を外そうともがくも、ビクともしない。

 

「グルルルルルルルル!!」

 

レオは匂いでわかっていた、こいつがルーディアを傷付けた一人である事を。

唸り声をあげながら、そいつを床に叩きつけた。

何度も何度も叩きつけた。

 

「やめ!やめでぐれぇ!死ぬっ!じんじゃうよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、人質はダメか、使えねぇ」

 

「死ねよエリオット!『光の』」

 

「…『光返し』」

 

愚直に『光の太刀』を放とうとした男の手首を先程同様に切り飛ばす。

それと同時に、静かに自分の首を背後から狙っていた男の顎を、左手で自分の鞘を動かし、振り返りもせずに撃ち抜いた。

 

「隙ありぃいぁあああ!『光の太刀』ぃ!!!」

 

そしてエリオットの動きが攻撃後硬直し、両手ともに使った隙をつき、三人目がエリオットの首を狙って『光の太刀』を放った。

男はその時完璧な『光の太刀』を放てると確信し、その軌跡がエリオットの首を切り飛ばす瞬間を見るために、目を見開いた。

だがその瞬間は訪れなかった。

エリオットの頭の位置がすぅっと下がり、その軌跡はがエリオットの赤毛の毛先を切り裂くだけで終わった。

その瞬間下から見上げるエリオットの眼が、ギラリと光った。

 

「『無音の太刀』」

 

剣を振り切って無防備な男の首を、静かに切り飛ばした。

ドシャリと首のない体が倒れる。

 

「な、くそっ」

 

エリオットはそのまま、手首を切り落とされただけの男を返す刀で袈裟切りにして腰まで斜めに切り裂いた。

男の体はずるりとずれ、下半身は膝を折り、上半身がべちゃりと床に落ちた。

エリオットは剣を上に構えて最後の一人に向き直る。

 

「ふん!」

 

「ぷげ」

 

そしてそのまま顎を揺らされてふらついていた男を大上段から真っ二つにした。

それぞれがべろりと床に転がる。

エリオットはそれらを確認すると、剣にべっとりついた血と肉を、左の肘の内側で拭った。

 

「だから誰だよお前らは」

 

エリオットは彼らの事を何一つ覚えていなかった。

剣聖だった彼らは、心の底から憎んだ、逆恨みしていたエリオットに何の痛痒を与える事もなく、あっさりと全滅した。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「グルルルル…!」

 

レオは噛みついた男から反応が無くなった事な気付き、それを放り投げた。

首や顔から血を吹き出したその男はピクリともせず、腕や脚を力無く放り出し、床にぐにゃりと倒れこんだ。

此方の剣士達を一瞬で葬り去った無傷の剣士、今一人噛み殺した狂暴な犬。

そんな一人と一匹に見られているジンシン教徒達は身を震わせた。

 

「く、くそぉ!ふざけんじゃねえよ!」

 

そんな中、一人が声をあげた。

 

「俺達は弱者なんだぞ!少しくらいおまえ達強者から奪ったって許される筈だ!」

 

そんな言葉に、他の教徒達も追随し、声をあげる。

 

「そ、そうだそうだ!僕達は好きに生きれもし、しないんだ!ちょ、ちょっと欲しいものがあ、あったから、そのためにが、頑張ったんだぞ!そ、それすら否定するのか!」

 

「おまえ達はいつもそうだ!俺達が少し頑張ったら否定しやがって!俺達も好きに生きさせろぉ!」

 

「こいつらみんな売っ払って!お前も殺して!幸せな人生を送ってやるよ!」

 

「そうだそうだ、ノルンちゃんとの幸せな生活の為にぃ!」

 

そう口々に叫び武器を持ち出す彼らに、エリオットは瞑目する。

 

「わぁあああああ!!!」

 

エリオットの前に駆け寄り、不恰好に剣を振り上げた男を、エリオットは目を開く事すらなく剣を横薙ぎに振るった。

瞬間男は胴を切り裂かれ真っ二つになる。

 

「なんなんだこいつらは…どれだけ身勝手なんだ…」

 

そう呟いて目を開くエリオットを、彼らは包囲する。

目には怯えが浮かびながらも、上手くいった時の事を考えているのか、ニヤニヤとした笑顔を浮かべていた。

 

「ああ。いやもういいや…いい加減、限界だ」

 

エリオットは天を仰ぎ、顔を片手でおおった。

 

「こんな奴等にルーディアが傷付けられたと思うと…腹が煮えくり返る」

 

「やぁあああ!かぼぉろろろろ」

 

隙と見て襲いかかってきた男の、開かれた口に剣を縦に突き刺し、股まで振り下ろした。

エリオットはゆらりと天を仰ぐのをやめて、前傾姿勢となり、剣を強かに床に振り下ろした。

ガァン!という音がなり、エリオットの眼光がまだ生きてるジンシン教徒達を貫いた。

 

「お前ら全員生きて帰れると思うなよ…この、クズどもがぁあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっ、こんな事して許されると思ってるのか…!?」

 

辺り一面にジンシン教徒達の死体、または瀕死の者達の体が倒れ、血の海となっている中、エリオットは最後の一人に近付く。

最後の一人、リニアとプルセナと話をしていた男はガタガタと震えながら言い放った。

 

「こ、このジンシン教は、ある方から多大な投資を貰って各地で勢力を伸ばしているんだ!お告げを貰う敬虔な教徒も増えて!これからなんだ!そんな我々が貴様のような粗野な輩にぃ!」

 

「いいから」

 

「ぎゃあああ!」

 

エリオットは喚く男の肩に剣を突き刺す。

 

「そのある方とかいう奴の名を言え」

 

ぐりぐりと傷口を広げるように剣を動かす。

男が苦悶の表情を浮かべて悲鳴をあげた。

 

「いぎぁああ!え、S級冒険者の『泥沼』様だぞ!はぐれ竜を一人で討伐した事もある!おのお方にかかれば貴様らなんぞ」

 

「そうか、もういい」

 

そこまで聞いたエリオットは、血走った目で此方を睨む男の首を、はねた。

目を見開いたまま床に男の首が転がる。

 

「ふぅー…結局あいつか…」

 

エリオットはそう呟いて一瞬天を仰ぐと、剣についた血を目の前の男の死体で拭い、腰の鞘に納めた。

そしてルーディア達のほうへと視線を向ける。

ルーディア以外はレオの足元や口元が赤く染まり、リニアが割りと傷をおっている事以外大丈夫そうで、エリオットは一息つく。

そしてつかつかとプルセナの腕の中のルーディアへと近寄っていった。

ノルンが少し怯えてエリオットを見上げていたものの、この惨劇を思えば仕方ないと苦笑を返すエリオットだった。

それにハッとしたようにノルンはすぐに頭を下げ、小さく感謝の言葉を告げていた。

 

「ルーディア。悪い、また遅くなった」

 

ルーディアは虚ろな瞳でエリオットを見ると、傍目にはわからない程度に口元を吊り上げた。

ルーディアの頬を左手で撫で、額をこつんと重ねた。

そんなエリオットに、ルーディアは少しだけ体を動かし、触れるだけのキスをする。

 

(おかえり)

 

「ああ…ただいまルーディア」

 

エリオットは小さく呟いて、笑みを浮かべた。

もう大丈夫だろうとプルセナがルーディアへと中級の治癒魔術を使い始めた所で、ルーディアは限界を迎え、ゆっくりと意識を遠退かせていった。




キャラクター等作品内で不快感を覚えて貰えたなら成功。
ですが、展開…作品の作りへの不愉快は自分の技量不足なので今後の改善点にしていきたいですね。
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