不快と言われる事を不快に思ってはおりませんので、安心して下さい。
数々のご意見ご感想を参考と励みにして、更新していきたいと思います。
あと特に意味はないのですが、活動報告を使う可能性が出てきたので、匿名投稿をやめました。
出産まで…どのくらいかかったろうか、既に窓の外は白みだしていた。
「もう少し!はい、いきんで!」
「っーーー!!!!!」
その声とともに私は歯を食い縛りながら、思い切りいきんだ。
それと同時に、手の中で握っていたロキシーの指がポキポキと折れるのを感じた。
私の体はリミッターがイカれてるから、こういう朦朧としてる時は危ないよとは言ってはいたんだけど…。
「これくらいしか出来ませんから」
そう言ってしっかりと手を繋いでくれた。
嬉しかったし安心したけど、大丈夫かな…。
それはそれとして、今回のいきみで赤ちゃんは産まれたみたい。
お医者さんかが処置してくれてる…。
荒い息を吐きながら、折れた指の痛みで脂汗を流してるロキシーを傍目に、赤ちゃんを見る。
手早い処置で綺麗な青い髪をした私とロキシーの赤ちゃんをおくるみに包んで…そこで私は違和感に気付く。
泣き声がまったく聞こえない。
出産の後のボヤッとした頭だから、周りの状況をしっかり把握出来てないからだと思っていたのだけど…!
「え、全然泣かない…産まれた赤ちゃんは泣くって聞いてたんだけど…!?大丈夫!?」
出産を手伝ってたアイシャの声がする。
そう、赤ちゃんは最初泣く事で呼吸する、って言われてる筈!
もしかして早く産まれすぎちゃったから、ちゃんと体が出来てなくて…!
私は思わず体を起こして、赤ちゃんに手を伸ばそうとした。
けれど私の体も限界だったみたいで、少し体を浮かしただけでフラついて一瞬意識を失ってベッドに倒れ込んでしまった。
「る、ルディ!無茶しないでください!」
そんな事言っても、赤ちゃん…私とロキシーの赤ちゃんが…!
私が、迂闊なばっかりに、赤ちゃんが…!
そう思うと涙が溢れてくる。
せめて、せめて魔力だけは有り余ってるから、効くかわからないけど治癒魔術を…!と、ベッドに倒れながら手を伸ばす。
視界の端でも応援として呼ばれた医者や治癒術師、何も出来ないけど、と見学してるノルンが慌てているのが見えた。
けれど、目の前のお医者様は沈痛な…あれ、いや、違う、苦笑…?
「えーっと、お母さん、落ち着いて。しー」
片手で赤ちゃんを抱えながら、人差し指を立てて口の前に当てるお医者様。
言われるがままに、部屋にいる人達は黙り込む。
そして、しん、とした部屋に、小さな音が響いた。
「…………すぴー…」
「……寝てるよこの子…なんてふてぶてしいんだい…大物になるよこの子は」
部屋の中の空気が一気に弛緩し、何処からか笑い声すら漏れた。
私はそこで、安堵か呆れか、体の力が全部抜けてしまった。
外でレオの遠吠えがするのを何処か遠くに感じながら、私は意識を失った。
産まれた子にはララと名付けた。
ロキシーと私の第一子…私の迂闊さのせいで失うかもしれなかった命。
ララはアルスと対照的に本当に泣かない子だった。
粗相をした時にちょっと愚図り、お腹空いた時にちょっと愚図り、眠くなったらさっさと寝る、そんな手のかからない子だった。
私は自分の罪悪感もあって、ララには付きっきりで世話を焼いていた。
それにルーシーが嫉妬してしまって、ルーシーも四六時中一緒にいるようになってしまっていた。
…とはいえ自分でもルーシーは三人の中で一番自分で世話してない負い目もあったので、一緒に可愛がる事にした。
困ったのはララの授乳の時…ふてぶてしい態度でおっぱいをこくこく飲むララに、ルーシーが恨めしそうに見ながら言うのだ。
「…おっぱいぃ!」
断ると泣きそうな顔になるので、もう片方の胸を黙って露にして差し出す。
するとパァッと花が咲いたように笑い、私に抱きついてちゅうちゅうと吸うのだ。
乳離れ出来てたと思ってたんだけどな…。
…まぁ遅い子はまだこのくらいでも母乳飲んでるっていうし…可愛いしいっか!
私は飲み終わった満足そうなララの背中をトントンと叩き、げっぷをさせてあげながらそう思う事にした。
一番上の息子であるアルスは、時々は一緒に甘えにくるが、大体部屋の前に警備のつもりでキリッとした顔でいたり、訓練をしていたりしている。
体力作りにレオとよく散歩に行っていて、そこにエリオットも参加して、そのままの流れで剣術の稽古をしたり、ロキシーに魔術や言語を教えて貰ったり、と様々だ。
小さい頃から詰め込みすぎなんじゃ…と思わなくもないけれど、その頃の私も結構そんな感じだったから、とやかく言えないか。
無詠唱魔術には幼少期の教育が必須だから、覚えてて損はないし…。
とはいえ嫌がったらやめるのは徹底しようかな…うーん、難しい。
子供達についてはそんな感じ。
今アルスは庭でエリオットと稽古してると思う。
後は、ララのいる所に大体レオも着いてくるくらい、かな。
今も私がララを抱いているから、私の座るベットの下にいる。
そんな時、ドアがノックされる音が部屋に響いた。
コンコン
『どうぞ』
声を出す魔道具のチョーカーはクリフに新しく作って貰った。
どうにもスッパリと切り裂かれていたし血みどろだったので改めて仕方なく…そういえばそれを頼みに家に行った時、エリナリーゼには強く抱擁された。
良かったですわ、と涙ながらに言われて、油断から始まってしまった事だったから非常にバツが悪かった。
「ボスーお見舞いにきたニャ…ニャー!ボスのおっぱいせんしてぶニャー!!!」
「あ、ボス授乳終わったばかりだったの?直すの手伝うの」
顔を真っ赤にして顔を反らすリニアと対照的に、平然とした顔で、骨付き肉を咥えながら服を整えるのを手伝ってくれるプルセナ。
片手だと結構大変だから正直助かる。
『お見舞いありがとうございます。母子ともに健康ですよ、お二人にも改めて感謝を』
「何言ってるの、ほとんどエリオット一人の活躍なの。私達は実力不足を実感しただけなの。ね、リニア」
「そうニャ。まぁでも本当に無事で良かったニャあ」
リニアはそう言ってララの頬をつん、と突いた。
お腹いっぱいで眠そうなララは、そのまますんっと目を閉じた。
「とりあえずお見舞いに果物買ってきたのをアイシャちゃんに渡しといたニャ。後で食べて欲しいニャ」
「お見舞いと別にちょっと話が二つくらいあるの、とりあえず簡単に終わらせるの」
プルセナが改めてそう言うので、ひとまずララをベビーベッドに寝かせて話を聞くようにする。
すかさずそのベビーベットの下に移動し、守るように横になるレオ。
そこでリニアは口を開いた。
「まずジンシン教についてニャ。ラノア王国としてはあちし達が被害者にいた事に随分とビビったみたいニャ。王国からは追い出して、他の魔法三大国のネリスとバシェラントにも警告出してたみたいニャ。ラノア王国の中心にもジンシン教が侵食してたみたいで、魔法大学もかなり抗議した結果みたいだニャ」
『成る程、つまりジンシン教は暫くは見なそうですね』
「そうニャるニャぁ。朗報ニャ。あいつら不愉快だったからニャぁ」
うんうん、とリニアは嬉しそうに頷いていた。
続いてプルセナが話だした。
「大森林への手紙がようやく返ってきたの。あっちとしては聖獣様を連れ帰って欲しそうだけど、聖獣様の意思も確認して欲しいとかいてるの。聖獣様曰く、ララちゃんが救世主になる…らしいからここから離れる気はまったくなさそうなの」
『うーん、一度ご挨拶とかに行った方が…?』
気は進まないけど。
全然。
「いらないの、今年私達は卒業だから大森林に帰るし、懇切丁寧に説明してくるの。それでもダメなら、ボス達に来させるんじゃなく自分で行けって言ってやるつもりなの」
「まぁ、ボスは気にしないで欲しいって事ニャ。ボスが大森林にいい印象持ってないのは知ってるからニャぁ…。聖獣様はここで役目を果たして幸せ、ボス達も聖獣様に守られて幸せ、万事大丈夫ニャ」
『…わかりました、その辺りの話は二人に任せますね』
そこで私が話続ける事に我慢出来なくなったのか、私の体にぴとりとくっついて顔を見上げていたルーシーが、コロンと私の膝の上に転がった。
「ママ…」
そして両手を私に向けてわきわきしてくる。
抱っこして、の合図…もう、可愛いなぁ。
『よいしょ、よしよしー』
「きゃはー」
左肩に頭を乗せるように抱えて、頬ずりをしてやる。
そうすると可愛らしく笑ってくれるのだから愛おしい。
「幸せそうで何よりニャあ」
「この光景を見るために生きてるの」
『あはは、大袈裟ですね』
そんな朗らかな一日だった。
「すー……すぴー……」