『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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起承転結の「承」上手く書ける人尊敬する。


『恐怖』少女が恐れているもの

私の壊された義足について。

今現在、その壊れた義足はペルギウスの元にあるらしい。

壊れたとはいえサンプルとしては充分で、ナナホシの積層魔法陣をペルギウスが手直しするのに非常に参考になっている、とザノバづてに聞かされた。

それとそもそも素晴らしい作品だと褒められたそうだ。

クリフとザノバは私の鎧を作るために頑張っているので、義足は後回し…というか、義足、義手、鎧の機能が一体化した、私が常用出来るものを目指しているらしい。

ペルギウスにも相談し、試行錯誤中という事…。

なので、今は昔の義足を着けているのだけど、それが不便な事不便な事。

勿論そもそも私に足がない事はわかっているものの、あの義足をつけてた経験は、それを軽く忘れさせてしまう程素晴らしいものだった。

だからか最近はほとんど家から出ていない。

運動しないのも良くないので、軽くストレッチや水神流の素振りと精神統一なんかはするものの、レオとの散歩は流石についていく気にならなかった。

子供達とゆったりと触れ合う日々…予定では学校に復帰するつもりだったけど…もう少し延ばそうかな…。

そんな事を、アルスとルーシーに挟まれて眠りにつきながら思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな今日は、あの日のオルステッドとの話し合いより半年後…魔法大学は休みの日、オルステッドから前日に手紙を受け取り、シャリーアの外れにある拠点での会合の日。

ノルンとアイシャに子供達を任せて、フィッツ、ロキシー、エリオットの三人と向かう事になってる。

クリフとザノバはもう少しで形になるから、と空中要塞でナナホシも巻き込んで開発に勤しんでいると、暗い顔をしたフィッツが教えてくれた。

フィッツは最近少し暗い…私がまた酷い目にあった事もそうだけど、アリエルとペルギウスの話し合いが芳しくないみたい。

オルステッドの話が正しいなら、あと一年でペルギウスを味方につけて動き出す事になる筈だけど…前回はどうやって味方にしたのだろう、と呟いていた。

フィッツが見る限り、アリエルの言葉は何もペルギウスに響いている様子はないようだ。

前途多難だよ、と苦笑していた。

 

 

 

赤ちゃんのララと大きな赤ちゃんのルーシーにたっぷりとおっぱいをあげて、アルスとレオに二人をお願いする。

キリッとした顔で口をへの字にする姿に、エリオットを感じる。

そして改めてノルンとアイシャに子供達を任せて、さあ出発、と思った時だった。

フィッツとエリオットが玄関を開き、外の景色が見えたその瞬間、私の手が震えだした。

思わず立ち止まり、手をまじまじと見つめてしまう。

 

『…ん?』

 

「おや、どうしましたルディ」

 

私のすぐ後ろにいたロキシーが立ち止まった私に気付いて声をかけてくる。

 

『…いえ。なんでもないです』

 

私はそう返しながら、外へと足を進めた。

けれど、どうにも足が重い。

最近外を歩いてなかったから、鈍ったのかな、と思いつつ、開いたドアを通ろうとした時、ドクンと強く心臓が鳴った。

まるで背中に氷柱でも入れられたかのように背筋に寒気が走り、足がすくんで膝をついてしまう。

バクバクと心臓が早鐘をうち、ぶわりと冷や汗をかいた。

そして、私の心に去来する、強い恐怖。

外は明るくいい天気なのに、まるで穏やかさを感じられない。

辺りが突然真夜中になってしまったような、そんな色彩の失ったような光景。

床にうずくまりガタガタと震えだした私に、異変に気付いたロキシーが私の肩に手を乗せた。

 

「ルディ…!?どうしたんですか!?」

 

『……いえ、家の中に…引っ張って…』

 

荒く短い息を吐き、私は無意識にそう伝える。

ロキシーは頷き私の腋に手を入れると、ズリズリと引っ張り始めた。

床に擦れる足が痛いけれど、私の体の震えは外から離れれば離れる程、収まっていった。

 

「る、ルディ…?」

 

ロキシーも私を抱えているからか、私の状態に気付いてしまったようだ。

私の呼吸は荒くまだ震えているし、冷や汗もかいたまま。

けれど確かにさっきより状態はよくなってる…それで私は確信してしまう。

 

『…先生覚えてますか?』

 

まだ少し強い心臓の鼓動を胸に手を当てて感じながら、ロキシーに話し掛ける。

沈痛な表情をして此方を覗き込むロキシー。

 

「…何をですか?」

 

『卒業試験の時…私が嫌がっていた事です』

 

「ああ。懐かしいですね、ルディには珍しく家中走り回って逃げ回って…捕まえてカラヴァッジョに乗せてしまったら、直ぐに大人しくなったあの時の事ですね。あの時そんなに馬が怖かったんですか?」

 

ロキシーは懐かしそうに目を細め、少しだけ笑みを浮かべて私に問い掛けてくる。

そういえばロキシーはそんな勘違いしてたっけか…懐かしい。

ブエナ村で産まれた私は、庭くらいにまでは出るものの、まったく家から出ない生活を送っていた。

幼い私は何故かわからないけれど、外に強い恐怖感を覚えていたから。

外に出ようとするとうずくまってしまう程…そう、それこそさっきみたいに。

 

『違いますロキシー…私が怖かったのは、家の外です…』

 

「え…」

 

一向に出てこない私達に違和感を覚えたのか、先に外に出ていたフィッツとエリオットが戻ってくる。

 

「ルディ?どうかしたの?」

 

そう聞いてくるフィッツに、私は床にうずくまりながら答えた。

 

『外に出るのが…怖い…』

 

その私の発言に、三人は各々顔を歪める。

私は床にうずくまったまま、顔を俯かせた。

フィッツとロキシーが言葉を失う中、エリオットは私の前に跪づく。

 

「…すまない」

 

そう言って私を抱き締めるエリオットに、首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局オルステッドの所には三人だけで向かう事になった。

三人は家の中で見送る私を心配そうに何度も振りかえり、渋々といった様子で出掛けていった。

そして今、私はご機嫌なルーシーを膝に乗せている。

ルーシーはちいさな手で私の手を取ると、自分のお腹の上に乗せて、両手でしがみついて押さえ込んでご満悦。

可愛いくて癒されるのだけど…それでも私の内心は穏やかではない。

はぁ、と思わずため息が漏れる。

 

「姉さん、大丈夫なんですか…?」

 

『…大丈夫じゃないね…まさか今更また外が怖くなるなんて…』

 

「また?」

 

『二人が産まれる前…それこそフィッツと出会う前、ロキシーが家庭教師だった頃に、ね。私は外に出るのが怖かったんだよ』

 

ララを抱っこするノルンと、アルスをぬいぐるみのように抱き締めてるアイシャに挟まれ、私は遠くを見つめて言う。

いつも通りふてぶてしいララと、顔を少し赤くしてるアルス…まだ色気づくのは早いんじゃないかな…?

まぁ…それはいい。

ノルンとアイシャは心配そうに私を見てくる。

実際、ちょっと、というかかなりヤバイ。

原因は勿論ジンシン教の時の事。

彼らは間違いなく素人だった。

きっと喧嘩が精々で、命のやり取りすらしたことがない、そんな有象無象だった。

有無を言わさず殺す事を躊躇う程に一般人だった。

そんな彼らが罠を仕掛け、私を痛め付けた事が思った以上に心にきていたらしい。

しかも彼らは私への感情が薄いにも関わらず、容赦なく武器を振り下ろしてきた。

改めて顔を見た時、一部の人には見覚えがあったし、挨拶くらいしたことのある人達だったからこそ…更に。

どこかに彼らの生き残りがいるんじゃないか、もしかしたらこの町の人の全てがそうなんじゃないか、外に出たらそんな人達が襲ってくるんじゃないか、突然この世界が地獄と化すんじゃないか。

そう頭に過ってしまい、外に出ることが出来なかった。

忘れかけていた人の醜さを思い出す機会となったし、私の慢心を思い知るいい機会ともなったけれど…まさか外に出ることが怖くなってしまうなんて。

私の心の弱さを改めて認識してしまう。

 

『…人は怖いよ。自分の欲しい物の為には他人を平気で犠牲にする。人道に反してようとね』

 

「…恐ろしいです」

 

その言葉にノルンはララを見下ろした。

すうすうと安らかに寝息をたてるララを慈しみの表情で見つめている。

…そうだね、一歩間違えればララもノルンも私もここにいないんだから…本当に恐ろしい。

 

「お姉ちゃん、これからどうするの?」

 

『…どうにか克服するしかないね』

 

そうしなければオルステッドに愛想尽かされて、殺されても可笑しくないんだから。

オルステッドは私に良くしてくれてる。

それでもこのまま家から出れない役立たずのままなら、リスクしかない私を殺す事も視野に入れるだろう。

私がいる事で『デッドエンド』として皆を使えるからと生かす可能性もあるけれど…皆も皆で私がオルステッドを信じているからの一点でオルステッドに協力しているからなぁ…。

結局私がオルステッドを信じる姿勢を見せ続けなければいけない。

私が生きる為だけじゃない、子供達の明るい未来の為にも。

兎に角どうにか外で問題なく行動出来るようにならなければ、話にもならない。

小さい頃はロキシーに強引に連れていかれて、理由のない恐怖は霧散してしまったのだけれど…今は違う。

日常が突然地獄となってしまった経験は、私の心に影を落としていた。

 

『…はぁ…ルーシー、私どーしたらいいのかな…』

 

怖い…怖いなぁ…外の人達も、オルステッドに見限られる事も。

そんな板挟みに私は辟易してしまい、ルーシーをぎゅうと抱きしめる。

きょとんとした顔で私を見上げてくるルーシーの額に、沈んだ心のままキスを落とした。

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