『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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パウロとルイジェルド

そこからルイジェルドは旅路の話を続けた。

スペルド族ひいては、『デッドエンド』と呼ばれ恐れられていたルイジェルドの名誉の回復をはかっていた事。

張り切りすぎて空回りし、少し悪どい事に手を出して痛い目を見た事…そこで左目を失った事。

そこからは町を渡り歩き、真面目に依頼をこなし続け、時折戦闘訓練を行い、武芸者との腕試しを繰り広げ、遂には港町までたどり着き、移動用蜥蜴との別れに涙した。

エリオットが、ルーディアの水浴びを意図せず覗いてしまった時に氷付けにされた話は声をあげて笑ってしまった。

ルーディアが最初に話した内容は淡々としていて簡潔であったし、自分の失敗は意図して話してなかった。

そんな見栄っ張りな所に、今まで感じていなかった子供っぽさを感じる。

同時に自分の罪深さも感じ、コップを持つ手に少しだけ力が入る。

 

「…あまり卑下するな。俺もそう、立派なものではない。旅の最中、自分の矜持でルーディアに負担を強いたことがある」

 

先程まで朗らかだったルイジェルドの表情が、苦虫を噛み潰したような顔になる。

正直、俺よりよっぽと保護者をしていたと思うし、悪人を許さないとか子供を守るとか立派なもんだと思うんだがな。

 

「いくつかあるが…つい先日の事だ、俺達が大森林を抜けてきたのは知っているな?そのドルディア族の村で、ルーディアは心無い扱いを受けていた」

 

「なに…?」

 

確か…ザントポートについてすぐに密輸人達相手に獣族の子供達を助け、村へと送り届け、大森林を通りそのまま雨季の前にミリシオンに到着したと。

そう言っていた筈だったが。

 

「大まかにはそうだ、だが、助けて村へと送り届けるタイミングでルーディアは密輸組織の一員と勘違いされてドルディア族に捕まったんだ」

 

聞けばその時、ルイジェルドは助けた子供達の誘導を、ルーディアは子供達に頼まれて聖獣とやらを助けに一人で戻ったらしい。

なんでも、獣族の象徴だとか崇拝されてるだとかいう獣も捕らえられていたという話だ。

ルイジェルドとしてはルーディアの事は戦士として認めているし、敵を平然と殺せる覚悟も実力もある。

仮に対応出来ない人数が来ようと、此方に知らせる事くらいは出来るだろうと任せた、という事だった。

 

「だが、見通しが甘かった、ルーディアは戦士だが、傷ついた戦士だ。それを俺は子供達への拷問への怒りで失念していた…後で聞いたことだがルーディアは既に限界だったのだ、そこの環境があまりにも心の傷を刺激してしまっていた。聖獣を解放すると同時に限界を迎え、その隙をつかれたらしい」

 

俺はなんとも言えない顔をしてしまう。

状況を考えると間が悪かった…となるだろうか。

親としては無理させんなよって話ではあるが、まぁ言える立場にはねぇか…。

 

「その時に出会った獣族の戦士ギュスターブは女子供であることも加味し、疑いはあれど自分が帰るまでは無体な扱いはしないように伝えたと言っていた。俺はそれを信じ、追加で密輸人ではない情報を伝えるようにと頼んだ。ルーディアは心配ではあるが、獣族の子供達の件は一時を争うと思ったのだ」

 

そこからルイジェルドは「ドルディア族の誇りにかけ、ルーディア殿の無事は保証する」を素直に信じて子供達の解放に向かったそうだ。

けどまぁ悪いことは重なるもんで。

ルーディアは荷物を全て没収されて牢屋にぶちこまれた訳だが、仮面も奪われた事で話せなくなってしまった。

何を聞いても無表情で答えない、聖獣様に無体を働いた犯罪者として村に広がったせいで、無駄に正義感を持つ奴らを刺激してしまったらしい。

そいつらが刺激したせいで暴れたルーディアは危険人物として制圧され、牢屋に入れられた状態で裸にされ、鎖に繋がれ、水をかけられた…獣族では最大の侮辱だ。

…予想していたとはいえ腸煮えくり返る。

『なんで私ばかり』ルーディアの悲鳴が聞こえてくるようだった。

 

「様々な出来事があったせいでルーディアの所に迎えにいくのに一週間もかかったのは痛恨だった。ギースとかいう魔族が応急手当をしてはいたが」

 

「は、ギース!?なんでそこでそいつの名前が出てくんだよ!」

 

「む、知り合いか?ならば会った時にお前も感謝しておくといい、イカサマだかで捕まっていたようだったが、牢屋の中でルーディアの応援処置をしていたらしい。とはいえ服を貸す程度ではあったようだが」

 

猿顔の魔族がいい笑顔でサムズアップしてる姿が頭に思い浮かぶ。

1年前くらいに会ったっきりで何処で何をしてるかわからなかったが、大森林にいたとはな…。

ルディが少し世話になったなら、次会った時に酒でも奢ってやるか…。

 

「兎に角だ、俺は俺の矜持の為にお前の娘を危機に晒したのだ、何も立派なものではない」

 

「まぁ…アンタの責任がまったくないとは言わねぇけどな、やらかしたのは明らかに獣族だろ、もしその…ギュスターブ?とやらと面と向かって会ったらぶん殴るさ」

 

「そうか…そうだな、そうしてやれ」

 

そこまで話して俺達は同時にコップを傾ける。

飲み干して置いたコップがトン、と音をたてた。

 

「…俺はお前の気持ちもわかるつもりだ。優秀な子を持つと困るな?優秀であればある程、自分の理想へと進んでほしい、そう思ってしまう」

 

「…アンタも子供が?」

 

「…ああ、いや、俺自ら手にかけた。我らスペルド族の迫害の原因となる、ラプラスから送られた悪魔の槍。使う事に反対していた息子に失望したと突き放し、俺自身はまんまとその力に溺れた。そんな暴虐を繰り返していた俺を命をかけて元に戻してくれた、最愛にして最高の自慢の息子だった」

 

「重いな…だが、ああ、立派な息子…」

 

あ?なんかスペルド族の大暴れの当事者のような言い方してるな?

 

「ありがとう…スペルド族の現在の迫害は俺のせいなのだ、自分なりに悪評をなくしたいと思っても、何も上手くいかなかった。そんな中、本気で取り組んでくれたルーディアには感謝してもしきれない」

 

いやいやいや。魔族は見た目で判断出来ないっても限度がないか?おい。

ラプラス?何百年前だと思ってんだ。

 

「子供には多くを期待してしまうものだ。出来が良ければ尚更に。自分よりも立派に、強く、気高くなれと、求めてしまう。だからこそこれだけは言っておく」

 

俺の困惑を余所にルイジェルドはゆっくりと立ち上がって、此方を真っ直ぐに見つめた。

 

「そんな言い分が通るのは、子供が生きている時だけだ」

 

強い、実感の伴った言葉だった。

重い、重い一言だ。

そう、そうだな、俺の頭の隅にずっと染み付いていた事…もう家族は皆死んでしまったんじゃないかという、最悪の予想。

そんな最悪を裏切って娘が生きていた、これ以上に最高な事がああるか…?

 

「…ああ、そうだな」

 

そう俺が言うとルイジェルドは小さく頷き踵を返した。

 

「ではな」

 

一言だけ呟いて去っていく恩人に、俺は頭を深く下げた。

…明日、朝イチにルディに会いに行こう。

改めてしっかりと謝ろう、そして生きていてくれた娘に感謝を伝えよう。

それで例え…。

 

「そうと決まれば…寝るか」

 

酒場の賑わいを尻目に、俺は部屋へと戻る為に立ち上がった。

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