『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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『悔恨』グレイラットの涙

「ルーディア!落ち着け!」

 

エリオットがルーディアに追い付いた時、大丈夫にはとても見えない様子だった。

顔は青く、額には冷や汗が浮かび、通行人が通る度に体をビクつかせ。

それでも走ろうとするルーディアを肩を掴んで強引に止めた。

 

『っ…!止めるな!』

 

バシッと手を叩かれるものの、エリオットは今度は手首を素早く掴む。

 

「落ち着け。疲れ果てて、お前が倒れたらどうすんだ」

 

エリオットは冷静に告げるが、ルーディアは肩で息をしながらも首を振る。

 

『今もルーシーが何処かで苦しんでるかもしれない、私の不注意のせいで。そんなの気にしてられない!』

 

「急ぐ気持ちはわかるが」

 

『わからない!私とアルスを置いていったエリオットには!子供が一人で何処かに行ったかもしれない恐ろしさ、わかったような事言わないで!』

 

「……」

 

エリオットはそれに何も返せない。

細目で睨み付けるルーディアに、それでもエリオットは手を離さない。

ルーディアの荒い呼吸が繰り返されるなか、エリオットは口を開く。

 

「…だからといって闇雲に探してどうなる、心当りでもあるのか?」

 

そのエリオットの言葉に面食らい、気まずそうに視線を反らす。

ルーディアはただただ焦って走りだしただけで、何も考えていなかった事を突き付けられたからだ。

ルーディアにあるのはルーシーの安否と、今も苛まれている外の世界への恐怖感だけ。

 

「近所の人に話を聞こう、誰か見てるかもしれない。何も情報がなければ、この町の裏の人間のとこに殴り込む。それでいいだろ?」

 

エリオットはルーディアを見つめて言う。

その具体的な案にルーディアも納得して小さく頷いた。

 

「よし、それじゃほら丁度そこに人がいるから話聞くぞ」

 

ルーディアの手を掴んだまま、エリオットは通行人を指し示して言う。

その姿に少しだけ冷静になったルーディアは気まずそうに告げた。

 

『えと…ごめん。エリオット…』

 

「気にすんな、事実だし。それより人と話せるか?」

 

『…無理かも…』

 

「じゃあ話すのは俺に任せて、その間も周囲見回して探しててくれ」

 

そう言って先導するエリオットに、ルーディアは黙ってついていく。

空を見ればまだ日は少し傾いた程度…ルーディアは焦燥感と恐怖感に周りを忙しなく見渡し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ルーシー・グレイラット…?何故ここに…?」

 

オルステッドは困惑していた。

シャリーアの拠点から少し歩いた森の中、そこに小さな女の子がいたからだ。

しかも自分の配下であるルーディア・グレイラットの娘であるルーシー・グレイラット。

ルーシーは瞳に涙を浮かべ、いくつもの花をその手に握っていた。

何故こんな所にこんな時間にいるのか、オルステッドは首を捻る。

それに合わせてルーシーも首を傾げるのを見て、兎に角家族の元に送り届けよう、と一歩近付く。

するとルーシーは何を思ったのか、パァッと笑顔になり、オルステッドの足元に駆け寄った。

 

「じーじ!じーじ!」

 

カチンと固まるオルステッド。

足にすり寄るルーシーを見て、その目を懐かしそうに細めた。

 

「はははは。やはりルーシー・グレイラットなのだな…」

 

その声には何処か後悔の色が含まれていた。

オルステッドはルーシーの脇に手をいれて抱き上げて、顔を合わせる。

ルーシーはママとパパに似た髪色をしたオルステッドをお爺ちゃんだと思ったのだ。

いまだにじーじと呼ばれた事のないパウロが涙する光景だ。

 

「俺はオルステッドだ。じーじではない。パウロ・グレイラットが泣くぞ?」

 

その言葉にルーシーはまたもきょとんとするものの、小さく頷く。

 

「オーステッ!」

 

「くく…まぁそれでいい」

 

オルステッドは左腕に乗せるように抱え込むと、マントでルーシーを包む。

ルーシーはそれにニコニコと笑うと花をオルステッドへ掲げる。

 

「ん!」

 

「なんだ?くれるのか?」

 

そうオルステッドが花束を受け取ろうとする。

するとルーシーは顔をしかめてオルステッドの手から花束を遠ざける。

 

「ぶー!ママ!」

 

「そうか、ルーディアに渡すのか」

 

オルステッドは苦笑しつつ歩み始める。

内心街中に入るのは気が進まないものの、仕方ない。

フードを被っておく事にする。

こうする事で経験上幾分かマシになる。

 

「むー…ん!」

 

「ははは、一本くれるのか、ありがたく貰っておこう」

 

ぎゅっと握りしめた花の中から一本だけを取ると、ルーシーはオルステッドにそれを差し出した。

白い花を受け取ったオルステッドは、ひとまず右耳に挟み、顔の横に白い花が見えるようにしてみた。

 

「どうだ?」

 

「きゃぁ、きゃはは!」

 

ご機嫌なルーシーに、オルステッドもニヤリと笑みを浮かべた。

既に辺りは暗くなり始め、いつからここにいたのかはわからないが、家族は心配しているだろう。

オルステッドはルーシーの体の負担にならないよう気を付けながら、ルーディア達の家へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

「おかえりなさい!オルステッド様…あれ…?お母様達…は…?」

 

茶髪の少女が満面の笑みでオルステッドを迎える。

けれどその表情は直ぐに凍りついた。

 

「ぜ、全員死んだって…どうして!?なんで!?オルステッド様がいたのに!」

 

オルステッドはその言葉に何も返せず、すまない、と俯いた。

少女は涙を溢れさせる。

 

「オルステッド様の為にお母様達は危ない事してるって…心配した私に、本当に危なくなれば助けるって、そう言ってくれたよね…?なんで…!?」

 

黙って俯いたままのオルステッドに、少女はその顔を睨み付けた。

 

「嘘つき!嘘つき嘘つき嘘つき!オルステッド様の嘘つき!なんで!なんでぇ!?」

 

オルステッドの胸に握りしめた拳を振り下ろす少女。

何度も何度も何度も叩きつける。

グチャと音がして、耐えきれなくなった少女の拳が血を流す。

 

「やめろ…手から血が」

 

「五月蝿い五月蝿い!ママを返せ!返せ返せ返せ返せ!」

 

「――――!どうしたんだ!」

 

家の奥から赤髪の少年が、銀色の梟を肩にのせて現れる。

オルステッドに気付き、それの胸を殴り、更には血を流している事にも気付き、少年は直ぐに少女にやめさせるように組み付いた。

 

「やめろ!どうしたっていうんだ!」

 

「ママ達が、ママがぁ!」

 

オルステッドが話をすれば、少年も顔を歪めオルステッドを複雑な目で見つめる。

 

「…俺の落ち度だ、すまなかった。もう二度と会うことはないだろう」

 

そう言って踵を返すオルステッドに、少女の声が最後に突き刺さる。

 

「大っ嫌い!!!」

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家へと向かう途中、道半ばと行った所。

オルステッドは、ばったりとエリオットに連れられたルーディアと出会う。

ルーディアは外に出るのを怖がっていたのでは、と思ったが、憔悴しきり、今にも倒れそうな様子になんとも言えない表情を浮かべた。

二人も街中でオルステッドに会うとは思っていなかったのか、エリオットが怪訝な表情を浮かべていた。

その答えを見せるようにオルステッドはマントを後ろに流し、腕の中で抱えるルーシーを見せた。

 

「この子か?」

 

『あ、あああ!ルーシー!』

 

ルーディアはルーシーの姿を確認すると直ぐにオルステッドの所へと駆け寄った。

オルステッドはしゃがみこみ、ルーシーを地面へと下ろす。

腕の中で少しだけうとうとしていたルーシーは、地面に下ろされると目を擦り、前を見た。

 

「あ、ママ!」

 

ルーシーは大好きなママの姿が見えて、笑顔を浮かべた。

ルーディアはルーシーの元に駆け寄りしゃがみこむと、ルーシーの体のあちこちに触れる。

 

『大丈夫!?怪我してない!?痛いところは!?』

 

「きゃは、くすぐったい!」

 

身を捩りきゃはきゃはと笑うルーシー。

その様子に大丈夫そうだとルーディアが安堵の息を吐いた。

そして、ルーシーの肩に手を置き、目を細める。

流石に度を超していると、怒ろうとした時だ。

 

「はいママ!」

 

目の前に色とりどりの花がルーディアの前に差し出された。

それに面食らってしまい、目を丸くする。

 

「ママげんきない!げんきだして!」

 

ニコニコと笑って差し出される花。

ルーディアはそれを思わず受け取った。

この為にわざわざ…?

ルーシーはえへへと可愛らしく笑い、ルーディアの反応を伺っている。

呆然とその花を見つめるルーディアの瞳から、涙が一筋流れた。

それを皮切りにポロポロと涙を流すルーディア。

そんなママを見て、ルーシーが慌て始める。

 

「ま、ママ、なかないで…わたしわるいこした…?」

 

首を振るルーディアだが、言葉は出ず、黙ったまま涙を流し続けてしまう。

そんなルーディアの姿に、ルーシーの瞳が潤みだす。

 

「ママ、なかないで…なかないでぇえ…うえぇええええん!」

 

ママのそんな様子に、大声で泣き出してしまうルーシー。

そんなルーシーを、ルーディアはたまらず抱き締める。

抱き付いてわんわんと泣き続ける愛娘を抱き締め、ルーディアも肩を震わせ涙を流し続ける。

 

その様子を見たオルステッドは黙って踵を返す。

微笑みを浮かべて、満足げに立ち去っていった。

去っていく後ろ姿に、エリオットは小さく頭を下げ、辺りを見回す。

既に黒く染まった空を見上げ、周囲の様子に強く気をはった。

 

『ありがとう…ルーシー…愛してるよ…』

 

ルーディアはルーシーから貰った花を握りしめた。

心に暖かいものが灯るのを感じ、ルーディアは泣き続ける愛娘を抱えあげた。

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