『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

81 / 176
『氷狼鎧』フェンリルアーマー

それからルーシーを抱えたルーディア達を迎えたのは探すのを手伝ってくれた面々だった。

既に外は真っ暗、そんな中探すのを手伝ってくれた事に改めて感謝を告げた。

後日改めてまた感謝を、と直ぐに解散する事となった。

安堵の表情で去っていく友人達に、ルーディアは頭を下げて見送った。

 

 

 

ルーディアがルーシーに貰った花を花瓶にさしていると、フィッツがルーシーに物申している事に気付いた。

 

「これから外に出たくなった時は必ず大人の人に言うんだよ…?わかった…?パパ、ルーシーが見つかるまで、生きた心地しなかったよ…」

 

「わかった…」

 

フィッツは凄く真面目に言っているのだけど、既にルーシーは目を擦って眠そうにしている。

そんな様子に今はこれ以上は意味ないか、とため息を吐いた。

 

「はぁ…まぁ、もう寝よっか。パパが運んであげるから今日は一緒に」

 

「あ、ママー!」

 

手を広げるフィッツをスルーして、存在に気付いたルーディアの方へとステテーと走り寄るルーシー。

固まるフィッツに申し訳無いものの、両手を伸ばすルーシーを無視出来ず、ひょいと抱き上げる。

首に腕をまわし、ひしっと抱き付くルーシー。

硬直がとけて苦笑いしながらルーディアを見るので、ルーディアはルーシーを手渡そうとする。

 

「ほら、ルーシー、パパの所行って…」

 

「ルーシーおいで」

 

「やっ!」

 

そう言って、ルーディアの首元に顔を埋めて更にしっかりと抱き付くルーシー。

そんな反応をされてしまったフィッツの瞳には光るものがあった。

 

 

 

次の日の朝、ララの授乳中にいつも通り物欲しそうな顔をするルーシーに、またおっぱいを露にしてあげるルーディア。

ご機嫌にちゅうちゅうと吸うルーシーに対して、ぼそりと呟く。

 

『あ、ルーシー、おっぱいあげるのこれで終わりね』

 

ルーシーはその言葉の意味を最初理解出来ずに、きょとんとした顔をした。

しかし少し経って理解したのか、この世の終わりのような顔をして口の端から母乳を垂らした。

これ以降、ルーシーがどれだけ甘えても抗議しても、ルーディアはルーシーに母乳は与えなかったという。

 

 

 

ルーディアは外に出る決心をした。

ルーシーにわかる程にまで元気がなかったのは明らかに外への恐怖感のせいだ。

このままではいけないという焦燥感から、どうにも空元気になっていたのだろう。

いずれはどうにかと思いつつも、ダラダラと子供達と触れ合う生活を送ってしまったのは単に環境に対する甘えだった。

なのでとりあえず昨日のお礼を伝えるのも兼ねて、暫くちゃんと話していないオルステッドのいる拠点へと向かう事にした。

 

「大丈夫…?」

 

フィッツが心配そうに言うものの、ルーディアの決心は硬い。

 

『このままじゃ良くないし、内心怖かったのは確かだけど昨日外に出れたのも確かだから、ここで燻らずに続けて行ってみたいと思う』

 

「いや、そっちじゃなくて、その、顔をマフラーでグルグル巻きにしてる事…」

 

『エリオットに抱っこして貰うから大丈夫!』

 

そう元気良く告げるルーディアは、顔をマフラーでグルグル巻きにしていて、前がまったく見えない状態だった。

外が怖いなら外を見なければ大丈夫だろうという考えだ。

そんな変な所で思い切りのいい妻の姿に、フィッツは頬を掻いた。

 

「…ま、まぁ、無理はしないでね。僕とロキシーとノルンちゃんは学校だから…何かあれば、また」

 

「今度はちゃんと見てます!同じ失態はしないよ!任せてください!」

 

むん!と気合いを入れたアイシャがフィッツを見上げる。

微笑ましいそれに頷き、小さく笑った。

 

「お願いするよ」

 

『よし、それじゃエリオットお願い。行ってきます!』

 

顔を完全に覆ったままのルーディア。

そんなルーディアを横抱きにしたエリオットはそのまま玄関を出る。

 

「行ってきます」

 

そう言って歩きだして行った。

目的地はシャリーアの外れ、オルステッドのいる拠点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん、見えなきゃ大丈夫みたい。ただ帰りは見ながら帰ってみるかな』

 

「そうか。まあ、無理そうならまた、グルグル巻きにして抱いていけばいいか」

 

『そうだね』

 

拠点にたどり着いた二人は話ながら拠点内を進む。

すると微かに複数人の話し声が聞こえる。

オルステッド以外に誰かがいるようだ。

声がする部屋を開けると、そこには目隠しをしたクリフが腕を組んで座り、テーブルを挟んでオルステッドが真正面に座っていた。

 

『…?どういう状況です…?』

 

なんとも変な状況に、手前で立ったままその二人の様子を伺っているザノバに話しかける。

 

「おお師匠!外出恐怖症になられたとお聞きしましたが、もう克服したのですかな?流石ですな」

 

『あ、いえそれは』

 

ルーディアは否定しようとするものの、ザノバは問いに答える為に話を続けてしまう。

 

「それであれは、クリフによる実験ですな」

 

見るとオルステッドの前には、いくつかの物品が置いてあった。

魔力の特別こもったものではないので、魔道具でもマジックアイテムでもなさそうだが…。

 

「…よし、それじゃまずは頭全体を隠してくれ」

 

「…わかった」

 

オルステッドも少し困惑しているようだが、言われた通りにその実験を続けているようだった。

やがてオルステッドは頭全体を布で包んだり、目隠ししたり、帽子をかぶったり、マスクをしたり、体全体をスッポリと覆ったりと様々な姿になり、その状態でクリフとそれぞれ会話していた。

クリフはその度に目隠しをとったり外したり、ガリガリと何かを書き記し、ふむふむと頷いていた。

 

「…よし。今日はこれでいい。あんたの呪いの事は大体予測出来た。あとは次にまた試す」

 

クリフはオルステッドから視線をはずしながら告げた。

既に何かを掴んだ様子のクリフに、オルステッドが感心したように頷いた。

 

「ふむ…わかった」

 

そしてクリフのはずした視線の先に、ルーディアがいた事で目を微かに見開く。

二人は軽く挨拶を交わすとクリフは小さく頷いた。

 

「出てこれたのか…丁度いいな、ザノバ!」

 

「そう言うと思って、持ってきましたぞっと」

 

ザノバが何か布に包まれたものをいくつか抱えて扉から現れた。

先程の実験の間にいつの間にか移動していたらしい。

それらをテーブルの上に置き、布を外して広げた。

 

「とうとう鎧の試作品が出来ましたぞ」

 

「勿論君の義足と…義手もだ。随分と待たせたな」

 

『いえ…此方はただお願いしてる立場で…ありがたい限りです』

 

広げられたそこにあったのは、グローブとブーツと胴鎧のようなもの…どれもシンプルな出来だ。

以前の義足とあまり変わらないデザインである。

ブーツは膝まであるタイプであり、右足は左足と違って空洞になっている。

グローブは肘まであるが、左腕に関しては肩まで似たようなデザインで続いている。

胴鎧は胴全体を包むように首元までしっかりしているが、他はシンプルな作りでただ纏っているような形になっている。

 

「左腕と左脚は義足の時と同じだ。『土よ、腕となれ』『土よ、脚となれ』と別々の詠唱にしてある」

 

ルーディアはそこらの椅子に座り、早速とばかりに義足と義手をつけ、言われた通りに詠唱する。

魔力が吸われ、ピタリと体に触れていく感触とともに、じんわりと今まで失っていた感覚を取り戻していく。

ピクリと震えてから動き出す左腕。

左腕を動かそう、として動くその感覚に、脚の時もそうだが深く感動してしまう。

夢以外では数年ぶりの左腕の感触と、以前より鋭敏に感じられる左脚の感覚。

じわりと涙が滲むのを感じ、慌てて右手で拭う。

その様子をクリフとザノバが嬉しそうに眺めていた。

 

「嬉しがるのはわかるが、まだこれからだ。他のパーツも装着してみてくれ」

 

ルーディアは残るパーツ、右手のグローブと右脚のブーツ。

それらを言われるがままに装着する。

これらは今はまだ詠唱はいらないらしい。

胴鎧はエリオットに手伝って貰い、装着する。

つけた感じ見た目以上にどっしりとした感覚と、少し胸が苦しい。

 

『ん…少しだけ胸が潰れて痛い…』

 

「むっ!ゴホン!君が多分子供を産んだばかりだからだな。後で調整するから、今は少しだけ我慢してくれ!」

 

不意打ちにクリフは顔を赤くしてしまう。

少し慌ててるクリフにかわり、ザノバが話を続ける。

 

「続いての詠唱は『風よ、繋げ』ですぞ」

 

言われた通りにルーディアが唱えると、体全体に空気が渦巻いた。

どんな効果が…?とルーディアが首を傾げていると、気を取り直したクリフが説明を続ける。

 

「この風にはバラバラのパーツを繋げる意味合いがある。それによって胴体部分に刻まれた魔法陣が力を発揮し、君の意思に応じて体の動きをサポートするようになる。君が風を筋肉のように使っていたように、筋力を強化する働きもあるぞ」

 

ルーディアはその状態で立ち上がってみる。

すると体に殆ど力をいれてないにも関わらず、感覚としてはふわりと浮くように体が立ち上がった。

 

『おお…すごい…』

 

「ふふふ、そして」

 

「ああ、最後に『氷よ、集え』だ」

 

既に素晴らしいと思っていたのだが、更にもう一段階あるらしい。

流石にここまでくるとワクワクが止まらず、ルーディアはその詠唱を気合いをいれて唱える。

 

『『氷よ、集え』!』

 

詠唱と同時にパキパキと音をたて、風を閉じ込めるように氷が足元から体に纏わり始める。

それは正に氷の鎧、凄まじい勢いで魔力が吸われていくものの、ルーディアは瞳を輝かせてその様子を見守る。

氷は透明で硬いものが、白く濁った脆いもので覆われていく。

手や足の先には氷の爪がつき、徒手空拳での戦闘能力を高めている。

そして頭をすっぽりと覆う氷は、狼を模した形となる。

ルーディアが口を開いてみると、狼の口もカパリと開いた。

頭部分の氷はかなり透明度が高く、視界はそこまで問題にならない。

体の各所を動かしてみると、完全に体を氷が覆い尽くしているにも関わらず自由に動き、また寒さも感じられない。

 

「どうだ?恐らくそれで咆哮魔術も使える筈だ」

 

『とんでもないですね…カッコいい…流石に魔力消費はやばいですけど…』

 

「ふーむ、やはり消費魔力は師匠をしても多いですか…『氷よ、解けよ』で解除となります。『氷よ、弾けよ』と唱えれば纏う氷を全方位に弾き飛ばす事も出来ますが…ここではやめて頂きたいですな。風のほうは『風よ、霧散せよ』ですぞ」

 

ルーディアは言われた通りに解除していく。

ピシッ、と罅の入った氷の鎧は、キラキラと光って消えていく。

渦巻く風もゆっくりと収まっていく。

消費魔力はルーディアをしてかなり多く、全力戦闘は何度か模擬戦を挟む必要があるな、とルーディアは思った。

 

「基本的には風を纏うだけでも、君の負担はかなり減らせる筈だ。危ない時に氷を纏うといい。それと、『氷よ』の後に部位を宣言する事で、その部位のみ氷を纏う事も可能だ。それによって魔力消費を抑えることが出来る筈だ」

 

「ふふふ、ペルギウス様からも素晴らしいとお褒めいただけましたぞ。まだまだ改善点はあるでしょうが、今の我々の力を出しつくしたと自負しております」

 

ザノバとクリフは満足げに、やりきった男の顔で二人は顔を見合わせて頷いた。

 

『本当にすごいですね。…そういえばこの鎧には、名前があるのですか?』

 

「む、ああ、暫定ではあるが…というかオルステッドに貰った資料に名前がかいてあったんだ。その名前をつけている」

 

「なかなか余は気に入りましたぞ。なんでも神殺しの魔狼の名とか。洒落が効いてて、良いと思います」

 

「それの名は『氷狼鎧』(フェンリルアーマー)僕達の努力の結晶だ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。