良ければご意見ください。
『おぉー』
『氷狼鎧』という、カッコいいけれど背中がむず痒くなるようなネーミングに、何処か気の抜けた返事を返すルーディアだった。
「かなり君の命を守る為に傾倒した出来になっている。この鎧が万全に機能していれば、早々死ぬような目には合わないだろう。ただ流石に胴鎧のコアが砕かれれば性能が著しく落ちるから、そこだけは気を付けてくれ。とはいえその気になれば胴鎧がなくても操作する事は出来る。だが、制御を全て自分でする事になるから、負担は凄まじいぞ」
オートとマニュアルみたいな違いだろうか、ルーディアはなんとなく理解する。
今までルーディアが左脚と左腕でやっていた事を全身でやって、それをルーディアが意識せずに制御出来るようにした…という感じか。
非常に心強い。
ルーディアとしては腕や脚を生成して操作するのもかなり慣れてはいるものの、たまにとても頭が痛くなるような事もあるので、それがなくなる上で全力戦闘が出来るというのは夢のようであった。
『…少し外で試してみますね!』
そわそわと体を動かしていたルーディアは、外へと思わず駆け出す。
まるで新しいおもちゃを、手に入れた子供のようであった。
ルーディアは内心ウキウキしながら、拠点から飛び出した。
『おぶぅ』
そしてそのままビタンと顔面から地面に倒れこんだ。
「し、師匠ぉお!」
直ぐ後ろをつけていたザノバの悲痛な声がこだました。
『…いや、勢いで行けると思いまして…』
先程の部屋にザノバに担がれ、戻ってきたルーディアは気まずそうに視線を反らした。
テンションの上がったルーディアは、意気揚々と外に出ようとした。
しかしルーディアの体の方は外への恐怖で、体を止めた。
ルーディアの意思は左脚で踏み切り、ルーディアの体は右脚を踏みとどまらせ。
結果逸る気持ちに前傾姿勢となっていたルーディアは顔面から転んだ、という訳だった。
しゅんとして縮こまるルーディアに、呆れ顔のクリフとエリオット。
心配そうなのはザノバだけである。
「…精神的なものはゆっくり慣らしていくしかないだろう。だがこの様子見るに、思ったより大丈夫そうで良かった…のか…?」
クリフは腕を組んで首を傾げる。
「まぁ、とりあえず…鎧のほうはこれで一段落だ。君が外で動けるようになったら適宜稼働テストを行ったり、君の意見を参考に改良していこう。僕は一度家に帰るとするよ」
「師匠の事は心配ですが、余に出来る事はなさそうですな…。ジュリの様子も見たいですし、余も一度帰るとしましょう。何かあればお呼びくだされ」
『あ、義手に義足に鎧も…本当にありがとうございました。本当に…嬉しいです』
立ち去ろうとする二人に、ルーディアは改めて礼を告げる。
クリフはフッと笑い、ザノバはにこと笑みを浮かべ、そのまま立ち去っていった。
ルーディアは二人を見送った後、オルステッドに向き直る。
なんと彼はずっと腕を組んで今までのやり取りの全てを黙って見ていたのだ。
心なしか少し寂しそうであった。
『オルステッド様、ルーシーの事改めてありがとうございました』
「…む、どうという事はない。出くわしたのは偶然だからな。何事もなくて何よりだ」
ルーディアに話し掛けられてほんのり嬉しそうなオルステッドに、エリオットの腰の剣がチャキ、と鳴った。
「んん!しかし素晴らしい鎧が出来たものだな。前の氷狼鎧もなかなかの物だったが、ここまでのものを作り上げるとはな…クリフ・グリモルの存在がここまで影響するか…」
『ええ、クリフ先輩は天才魔術師ですから』
しげしげとルーディアの装着する鎧に視線を向けるオルステッド。
自然とルーディアの体を見ることとなる。
エリオットの剣がシャキンシャキンと鳴り始める。
視線を鎧からふいっと反らしたオルステッドは、ルーディアに告げる。
「アリエル・アネモイ・アスラを王にする為動くまであと一年を切った。だが焦る事はない。最悪お前がいなくとも、どうにか出来るだけの戦力はあると俺は思っている」
かつてこれ程の纏まった戦力を持った事はなかったかもしれない、と思うくらいだ。
『とはいえ皆あまり貴方の事を信用していませんから…私の意思で少し焦らせて貰います。ちょっとずつ…リハビリをしていきます。必ずどうにかします』
そう決心されてしまえば、オルステッドに否やはなかった。
実際ルーディアを除いたメンバーで臨んだ時に、不測の事態となった場合に他のメンバーはオルステッドの言うことを聞かないだろう。
易々と想像出来る状態に、オルステッドは、すまないと内心呟き、ルーディアを見て頷いた。
「…そうか…任せる」
『はい、頑張ります。…それではオルステッド様、私達も失礼しますね。早速リハビリの一環として、ここから歩いて帰ってみます』
ルーディアはそう言って立ち上がり、小さく礼をする。
そのまま左腕をわきわきさせながら、ルーディアは歩きだす。
背後からでも喜んでるのがわかる程にご機嫌なルーディアはそのまま立ち去っていった。
エリオットも少し遅れて立ち上がり、ジャキと剣を鳴らしてから、オルステッドへと一礼し、ルーディアの後を追った。
やがて入り口からビターン!という音がしたが、オルステッドは気にせず、自室にて資料を纏める作業へと向かうのだった。
――――――――――
「ひぃぃいいいい!助けて、助けてくれ!」
とある豪華な屋敷の中、その屋敷の主人が助けを求めている。
しかし不思議な事にその声に反応するものはおらず、屋敷の中はシン、と静まり返っていた。
主人は膝をつき頭たれ、誰かに命乞いをしている。
膝は血に濡れ、床についた手にべちゃりと血が付着した。
辺りは血の海で、その中には主人の護衛だった者達が事切れて転がっていた。
その主人の前にいる男、鼠色のローブを纏った男は人好きのする笑みを浮かべて、主人の頭をガントレットの着けた左手で掴んだ。
「助かりたいですか?」
みし、と主人の頭が軋む。
ガントレットに付着していた血が、主人の額から顔に伝っていく。
主人は血相を変えて口から唾を吐きながら、半狂乱で叫ぶ。
「た、助けて!助けてくれ!金ならやる!地位も与える事が出来る!」
そんな主人の言葉に、男はニコニコとした顔で頭を掴むのをやめない。
それに主人は更に顔を青くし、更に続ける。
「わ、私は上の人間達にも顔がきく!し、紹介してやろう!お前の実力ならば、更に上の地位も狙える事だろう!金はいくらでもやる!だから、だから、どうか命、命だけはっ…!」
主人の近くで事切れている下半身が千切れている女は主人の妻、身を呈して夫を庇ったものの、その下半身の一部はその主人に踏み潰されている。
男の足元にいる首のない死体は主人の息子だ。
母親を殺し、父親の命を狙う男に果敢に挑んできたが、振り下ろした剣を右手で容易く受け止められ、左手がその頭を掴むと次の瞬間には握り潰されていた。
そんな息子の頭を握り潰した左手に頭を掴まれているのだ、主人の恐怖も当然であった。
「ふーむ…わかりました、助けましょう」
男はやれやれ、とばかりに笑みを浮かべながら首を振った。
その様子に、助かった!と喜色満面となった主人に、男は口元を吊り上げて嗤った。
「ウ・ソ」
ぐちゃり
瞬間主人の頭は男の左手によって容易く粉砕された。
鼠色のローブの男は、青い魔石のついた大きな杖を右手に掲げ、先程まで殺戮を行っていた、今は誰一人生きていない豪華な屋敷へと向けた。
みるみるうちに上空に集まる黒い雲、ゴゴゴゴと轟音が鳴り、ポツポツと雨が降りだす。
「『雷光』」
瞬間目映い光が走り、次いで轟音。
光が収まった時には、無残な光景が広がっていた。
屋敷に雷が直撃したようで、屋根は吹き飛び、屋敷を半壊させていた。
やがて何かに引火したのか、メラメラと燃え始めるその屋敷に、男は背を向ける。
その表情は満面の笑みであった。
ざわざわと屋敷に人が集まっているのに気付いた男は、少し膝を曲げると一気に跳躍。
直ぐ近くの家の屋根に着地した。
改めて嵐の中燃え続ける屋敷を眺め、濡れて額に張り付いた茶色の髪をかきあげる。
「また一つ、お仕事完了、ですね」
そう呟くと、男、『泥沼』ルーデウス・ノトス・グレイラットは、フードを目深に被った。