『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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アスラ王国とアリエル王女
『王問答』パウロとアリエル


パウロはその日の手合わせをしていた。

今日は大分調子の良くなったルーディアも参戦し、氷狼鎧の耐久を試す目的もある手合わせだった。

魔法大学も休みで、ロキシーも魔術方面での耐久テストに協力し、それらの様子をクリフとザノバがじっくりと眺めていた。

結論として、氷狼鎧を纏ったルーディアを打倒するのは簡単ではない、という事になった。

氷狼鎧の氷を纏った時の装甲は、脆い氷と硬い氷の二層に別れていて、脆い氷が砕ける事によって衝撃を和らげる効果がある。

次に待ち受ける氷は、表面が湿った硬い曲面の氷となっていて、刃が入りづらくなっている。

更にそれをこえると風のクッションがある。

体全体を氷の鎧の中で循環しているそれは、一ヶ所が砕かれるとそこから勢い良く風が吹き出すようになっている。

それによってルーディアへの攻撃を緩和し、更には風で飛んで自身が離れる事や、相手を吹き飛ばす事も狙える。

衝撃にも強く、ザノバの拳でも表面は砕け、二層目にも罅は入ったものの、あっという間に直ってしまった。

上手くやれば『光の太刀』すら弾く事が出来る氷狼鎧の出来に、クリフとザノバも嬉しそうにしていた。

魔術への耐性も高く、炎こそ他より効いてはいたが、中の肉体には傷ひとつつかなかった。

 

「闘神鎧の再生力をよく再現しているな…」

 

オルステッドの呟きにパウロは気になり問い掛ける。

 

「その闘神鎧って奴はこれよりやばいのか?」

 

「装着者にもよるが、同じ程度の再生力を持ち、あの鎧以上に単純に硬く、魔術をほぼ無効化し、装着者の身体能力を限界以上に引き出し、それを常に発揮し続ける、ラプラスの負の遺産だ」

 

「そりゃやべーな…あの鎧ですらまともに相手したくないってのに、それ以上か」

 

ロキシーの魔術を掻い潜りながらエリオットの剣を受け流すルーディアを眺めながら、パウロはしみじみと呟く。

 

「代わりに装着者はいずれ死ぬがな」

 

「そりゃやべーな…」

 

やがて氷を突破したエリオットが風で吹き飛ばされ、ロキシーにぶつかった所で、手合わせは終わったようだった。

ルーディアは氷と風を解除し、息を吐いた。

 

『ふぅっ…これ以上は魔力が保ちませんね…』

 

「大体40分って所か?魔術の使い方や受けた攻撃の量…再生する氷の量によっても変わっていくだろうが…」

 

「そうですな、流石の師匠でも今の氷狼鎧ではいい所安全に運用出来るのは30分という所ですかな…まぁ、仮に余が装着すれば1分ともたないでしょうが」

 

「兎に角またデータは取れた。魔力効率を高めれば高める程ルーディアの生存率は高まる。ルーディアも気付いた事があればドンドン言ってくれ」

 

『そうですね…』

 

意見を交わす三人。

そんな三人にロキシーも合流し、わいわいと楽しそうに言葉を交わす。

それを眺めていたいたパウロはよし、と呟くとギレーヌに手を振る。

気付いたギレーヌは歩いて近寄ってきた。

 

「今日は終わりだな、そろそろ帰るぞギレーヌ」

 

「ああ」

 

パウロとギレーヌはルーディア達に手を振って帰宅を告げると、帰路へと着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着くと、居間に客が来ているようだった。

パウロ達が住んでいるのはフィッツの家とそう遠くない、徒歩で直ぐに行けるような位置にある一軒家である。

そこで妻達三人と暮らしている。

接客はリーリャが行っているようで、冗談だとわかるトーンで口説かれているようだ。

そしてその声に聞き覚えがあり、苛立ちよりも困惑が先に来てまったパウロは気まずそうに居間の扉を開けた。

 

「いやぁ、お美しい!私が…あ…」

 

「…よう、ルーク君。ゼニス、リーリャ、帰ったぞ」

 

「おかえりなさいませ、旦那様」

 

そこに座っていたのはルーク・ノトス・グレイラット。

パウロの弟ピレモン・ノトス・グレイラットの息子、パウロにとって甥に当たる人物だった。

人妻を口説いてる自覚があるのか少しだけ気まずそうに顔を歪めたが、意を決したようにルークは立ち上がった。

 

「剣王のあんたに頼み事があってきた、パウロ・グレイラット」

 

「…ほう?頼み事?」

 

どうにもノトスを飛び出した身としては気まずく、ルークの方もパウロとあまり関わろうとしていなかったように感じていた。

それがどういう風の吹き回しだろうか、とパウロは怪訝な表情を浮かべた。

 

「どうか…アリエル様に協力して貰いたい!」

 

ルークはそう言って頭を下げた。

パウロはその切羽詰まった様子に、暫し目を瞑り、黙って考える。

 

「…とりあえず話を聞かせてくれ」

 

目を開き、そう言って座るように促し、話を聞くことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…成る程な」

 

アリエルがペルギウスを説得する事を諦めている、という話から始まったそれを聞き、パウロは深く頷いた。

王にとって最も大事な物は何か、その答えを未だにペルギウスに認められていない、あの時のまま進展がないのだという。

いくら1人で悩んでも正しい答えがわからず、最早…という話である。

アリエルとしても、ペルギウスの協力は王への道に必ずしも必要ではなく、ここで出来た様々な繋がりを使えば返り咲く事は出来る、という考えであるからこそ。

しかしルークとしてはそこに一つ後押しが欲しい、と思っている。

そして自分達に足りていない物、それが武力だ、とルークは感じていたのだという。

アスラ王国から逃げる際に聖級魔術師すら犠牲にして、そこから武力という意味ではほとんど増えていない…6年あって確かに自分達は年相応に成長してはいるが、アリエルを守りきれるのか、とルークは不安になっているというのだ。

そこで半年という短い期間で剣王となったパウロに、あわよくば近しい関係者の実力者達に、正式に力を貸して貰えないかと頭を下げにきた、とルークは語った。

パウロはそれに納得し、頷いた。

 

「よし、いいだろう、アリエル王女に会わせてくれ」

 

「……は?」

 

そう言って立ち上がるパウロに、ルークは呆気に取られる。

 

「え、いや…もう少し悩むとか、何か条件つけるとかないのか…?」

 

「ない。甥の頼みだ。それに娘の夫も関係者だ。憂いなく幸せになって貰う為になら、俺の力で良ければいくらでも貸すぜ」

 

「…しかし」

 

「ノトスに戻る気もない。安心しろ」

 

その言葉に目を見開くルーク。

ルークが一番に不安に思っていた事を当てられてしまい、言葉に詰まってしまう。

そんな様子に、パウロは畳み掛けた。

 

「ま、とりあえずアリエル王女と話させてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…成る程、即断即決。好ましいです」

 

「そりゃあ光栄だな」

 

パウロは呆然とするルークを促し、早速とばかりにアリエルとの会談に臨んだ。

ついでにギレーヌを連れて。

ここは空中要塞の庭園…アリエルの後ろにはフィッツの姿もある。

パウロを連れてきたルークはそっとその隣に並ぶ。

 

「それで?アリエル王女様、まだペルギウス様からの宿題がわからないのか?」

 

「……そうですね、わかりません…」

 

「ふーん…ルーク君やフィッツはどう考えてるって言ってたんだ?」

 

パウロは悩み俯くアリエルを見て、背後の二人に問い掛けた。

 

「え!?」

 

「…何…?」

 

突然話を振られた二人はどちらも声を出して驚いてしまう。

 

「……ん?お前ら全員に出された宿題だろ?まさか答え合わせしてねえのか?アリエル王女様一人だけで王になる訳でもあるまいに」

 

何処か呆れたように言うパウロ。

 

「私達全員に…?」

 

「王として最も大事な要素とはって奴だろ?一度ペルギウス様に否定されたっつって悩んで、一人でわかんねーって考えても答え出ねえだろ。少なくともその時は、あんたの本心からの言葉だったんだろうし」

 

「…この空中要塞での会話は全てペルギウス様もお聞きです、そんな相談して出した答えで納得していだけるとは…」

 

「……?言いたい事がよくわかんねぇけどよ、王だからって、全部自分だけで考えて答え出すもんなのか?ペルギウス様は一人で考えろって言ってたのか?」

 

その言葉にアリエルは目を見開く。

ペルギウス様は確かに何も言ってはいなかった。

アリエルは思わず振り返って、後ろの二人を見てしまう。

フィッツとルークは少し驚きながらも、微笑んで頷いた。

それに毒気が抜かれたように椅子に座り込むアリエル。

 

「…焦るあまり、視野狭窄に陥っていたようです」

 

アリエルは自分の視野の狭さに、小さくため息を吐いた。

 

「まぁ、俺よりうん十年も若いんだ…んな事もあるだろうな」

 

仕方ねえさとばかりに苦笑するパウロに対して、アリエルも苦笑いを浮かべた。

 

「ルーク、フィッツ、2人の意見も是非聞かせてください」

 

椅子を示し、アリエルは言う。

今まで自分の一番近い所で支えてくれた二人、その二人の意見ならば答えが見つかるかもしれない、そう思ったのだ。

二人は一度互いの顔を見合せ、頷きあい、それぞれ席についた。

 

「俺やギレーヌにもついでに聞かせてくれよ、そっから改めて俺らの話、させてくれ」

 

「はい、是非」

 

パウロとギレーヌもついでに席につき、三人が話をしてる様子を眺める。

それぞれの意見をぶつけあい、不意に思い出す過去を懐かしみ、絆を育んだ故人を偲ぶ様子。

三人の絆の強さを感じ、パウロは笑みを浮かべながら、テーブルに頬杖をついて話を聞き続けていた。

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