唾㸅様、かいらぎ様に紹介して頂いて、ありがとうございます。
誤字修正しました、報告、ありがとうございました。
話し合いを終えた三人は、様々な感情がない交ぜになった表情で、お互いを見つめあっていた。
明確なこれ、という答えは見付からない中ではある。
けれど今の自分達があるのがいくつもの犠牲の上に成り立っている事、それを再確認して気が引き締まった気持ちだった。
ラノアへの旅で失った14人の従者、護衛、仲間達。
そんな彼ら彼女らに誇れる王になる為に。
彼ら彼女らの最後は今も鮮明に思い出せる。
次々に思い浮かぶそれらの情景、最後に赤竜の上顎で嵐の中此方を真っ直ぐ見つめるナナシの瞳を思い出した。
「あっ……」
その瞳に付随してか、不意にアリエルの脳裏に浮かんだ一人の人間。
転移事件の時に魔物からアリエルを守って命を散らした、フィッツの前任者である守護術師デリック・レッドバット。
口煩く真面目なデリックと、穏やかで適当なナナシ。
顔を合わせる度に喧嘩するレベルで仲が悪かった二人。
けれどアリエルを王にする、その一点でのみ二人はいがみ合う事なくアリエルを真剣な面持ちで見つめていた。
『どうか、王になられてください』
記憶も掠れたデリックの最後の声と、嵐でかき消えたナナシの最後の声。
本来記憶にほとんどない筈の声が重なり、アリエルの耳を打つ。
そして連鎖的に思い浮かぶ、自分の原点…。
「元々王になろうなんて思ってなかった私は…日々王宮の女の子を寝所に連れ込む事をルークと話してるだけで良かったのです」
その突然の吐露に、フィッツとギレーヌが眉をひそめ、ルークが懐かしそうに頷き、パウロはアスラ貴族らしいな、と自分を棚上げして思っていた。
「けれど私が王になろう、そう本心から思ったのは、転移事件の時死にかけた時、デリックの最後を見た時、でした」
アリエルはそう言って空を仰いだ。
「どうして忘れていたのでしょうか…」
そう呟きながらも、アリエルは何処かスッキリとした様子でゆっくりと視線を戻していく。
その瞳に宿った光に、パウロが笑みを深めた。
「俺らの話は後日にさせて貰うぜ」
パウロはそう言って席を立つ。
その様子にアリエルは止めるでもなく、真っ直ぐ見つめて小さく頷いた。
「何?何のためにここにきたんだ」
「散歩みてぇなもんだろ。帰るぞギレーヌ」
「むぅ…わかった」
不服そうなギレーヌを連れ、パウロは帰るために踵を返す。
そして振り返る事なく手を後ろ手に振りながら、言葉を残していった。
「健闘を祈るぜ」
そのパウロの後ろ姿にアリエル、ルーク、フィッツの三人は小さく礼をしていた。
この後、会談を行ったアリエル・アネモイ・アスラはペルギウス・ドーラの協力を取り付ける事に成功したのだった。
後日、パウロはギレーヌ、ルーディア、エリオットの三人を連れ、アリエルと面談に望む事となった。
アリエルに力を貸す為に。
この四人にはそれぞれに戦う理由がある。
全員やる気満々で面談に臨んだ。
デッドエンドの戦力としてはエリナリーゼやザノバ、ロキシーも候補ではあるのだが、エリナリーゼはなんと妊娠中であった。
ザノバは忘れがちではあるがシーローンの王子、他国の政治に巻き込む事は出来ない。
ロキシーに関してはルーディアが止めた形だ。
二年目とはいえまだ新任、むしろ残す家族の事を頼んだのだった。
「…なんとも豪華な面々ですね…私に剣王が三人も力を貸してくれるとは」
アリエルは感嘆するように言う。
少し困惑も入っているかもしれない。
突然降って湧いた強大な戦力に、尻込みしているようだ。
「甥と義息子の為だ、全力を尽くすぜ」
『フィッツがお世話になりましたから。微力を尽くします』
「…ボレアスの名は捨ててるから、一振の剣として存分に使ってくれ」
「…一つだけ確認させてくれ」
それぞれが決意表明する中、ギレーヌが神妙な面持ちで問い掛ける。
「お前につけば、サウロス様の仇を討てるんだな?」
「討てます」
アリエルは間髪いれずに答えた。
「私と共に王宮に行けば、どういった形にせよサウロス様を陥れた人物は見付かります。いえ、私が見つけましょう。その時はその刃、存分に奮って下さい」
多少の懸念はある、サウロスの処刑は自分の陣営が行った可能性…だが、自分が命じてはいない事だけは断言が出来る。
故にアリエルはもし自分の陣営にいた場合は、速やかにその首を差し出すだろう。
「…そうか、わかった。あたしは頭も良くない。エリオット同様、上手く使ってくれ」
「はい。皆様、よろしくお願いします…現在少々問題が起こっているので、戦力は多いに越したことはありませんので」
現在アリエルが抱える問題を考えると、これだけの戦力をむざむざと見逃す手はなかった。
『問題ですか?』
「ええ…ペルギウス様はアスラ王国の各地に転移できる魔法陣をお持ちです。ですが…それら全てが使用不可能となっていたそうなのです」
アリエルの答えを受けたペルギウスは直ぐに転移魔法陣を用意しようとした。
けれどアスラ王国内にある物は一つとして機能しなかった。
それをアルマンフィが直接確認に行った所、その全てが破壊されている事が発覚したのだという。
「ですので、アスラ王国の国境近くまでは送って貰えますが、そこからは自力でたどり着かねばなりません。相手陣営が北神流の剣士を雇ったという情報もあります。危険な旅になると思いますが…どうかよろしくお願いします」
その情報に、ルーディアは目を細めた。
『…どう思いますか?』
「十中八九ヒトガミの妨害だな…しかし妙だ、前回はすんなりとアリエルが王になったのだがな…」
オルステッドは腕を組みながら、頭を捻る。
その頭には顔がろくに見えないごつい兜が被されていた。
クリフの呪いを抑える試作品らしい。
怨敵から、顔をあまり見たくない嫌いな人物程度に印象が弱まるらしい。
…弱まってるのだろうか…?
「前回、同じような面子でアリエルが王になるよう働きかけた時、ヒトガミの使徒は現れず、ペルギウスを後ろ楯にしたアリエルにダリウス・シルバ・ガニウスは抗いきれず、ギレーヌに首を落とされた…第一王子も第二王子も不審な点なく、何の問題もなくな」
『…ふむ、きっかけはわかりませんが、兎に角ヒトガミが動いている…となると使徒がいるのでしょうか?』
「ああ、1人はまず間違いなくダリウスだ。アスラの魔法陣は各地に点在している、しかもそれらは貴族の緊急避難用だ…地位がなければ知る事さえ出来ん。それらを一度に破壊しきれる程の私兵を持つのはダリウスしかいないだろう」
『成る程…ヒトガミが裏にいるのならば、警戒しなければいけませんね…オルステッド様は他に使徒が誰だとお考えですか?』
「そうだな…奴の使徒を選ぶ特徴として、何かが優れているものを選ぶ傾向がある。武力、知力、権力…あとは思いの強いものだ。そういう者を嬉々として弄ぶんだあのクズは」
ルーディアが内心歯噛みする。
自分がそうやって上手く利用されて、今や命を狙われている事に苛立つ。
「権力はダリウスだとして、あとは武力や、知力の秀でた者…または強い思いを持つ者…それらを操り、自分の視点として言い様に使っている可能性もある。アリエルの従者達…ルーク・ノトス・グレイラットも候補になるな。アリエルを王にする為に…と助言のような妨害をして、最後にネタばらし…奴のやりそうな事だ」
ありありと思い浮かぶそれに、ルーディアは目を細めた。
『ルーク先輩達…か…あまり考えたくはないのですが、使徒だとしたら殺さなければいけないのでしょうか…?』
「…いや、必ずしもそうではない。もしそいつらが使徒だった場合は、生死の判断はお前に任せる」
『わかりました。あとは武力ですか?アスラ王国だと、北神流の剣士を雇ったらしいですし、北帝…あとはレイダさん、ですか…あまり彼女が敵に回るのは本当は避けたいのですが…』
指導を受けた恩も子を産むときに面倒を見て貰った恩もある。
しかし何よりも、彼女に攻撃を通せるのが想像出来ないのが大きい。
水神は伊達ではない。
「オーベール・コルベットとレイダ・リィアか…可能性はあるな。出発までにアスラに向かう面子が揃ったら、二人の情報を纏めて話そう。後で纏めておく」
『わかりました……ここからヒトガミとの戦いが本格的に始まるのですね』
「ああ…これからは如何に俺にとって都合の良い未来を掴みとれるか、ヒトガミによって都合の悪い未来を引き出せるかの戦いだ。頼むぞ。アスラには一応俺も後ろからついていく。無理だと思えば直ぐに呼べ」
『…ふふ、ありがとうございます』
オルステッドのその手厚い様子にルーディアは笑みを溢す。
漸く最近外への恐怖を克服したルーディアは、気を引き締めた。
これからは今と少し違う未来を知るオルステッドと、人の運命を見ることの出来るヒトガミとの戦いだ。
オルステッドの知識と経験は有用ではあるが、必ずしも正解ではないし、全てがわかる訳ではない。
だが、オルステッドのうつ手をヒトガミは見ることが出来ない。
如何にヒトガミに気付かれずにオルステッドの策を通すか…それが龍神の配下としての仕事…戦い。
ルーディアは改めて気を引き締めた。
自分の為、家族の為、そして。
「……?」
傲慢が許されるなら孤独な旅を続けるオルステッドの為に。
ヒトガミとの戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
あ、細かい話なんですけど、今作でも原作同様アイシャはガーデニングを趣味にしてますが、ビートはいません。
あれはルーデウスが土魔術に秀でていて、それらが上手く合致して産まれた存在だと思っているので。
代わりにアルマジロが二匹います。