『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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『襲撃』赤竜の上顎

それは順調な旅路の中、十分な警戒の中起こった。

 

 

 

 

 

諸々の準備を終えた一行には、早速とばかり旅立った。

4ヶ月程を目処にした旅だ。

この期間の間はゼニス、リーリャ、妊娠中のエリナリーゼも念のためにフィッツの家で暮らす事になっている。

そして、ロキシー、レオ、そしてリニアに家族をお願いし、旅立つ時だった。

ルーシーがとても駄々をこねた。

ルーディアが行ってきます、と別れを告げると、「ママァー!イヤァー!」とこの世の終わりのように泣き叫び、ルーディアから離れようとしなかったのだ。

一方でフィッツとパウロがパパ(じーじ)も行ってくるよー、と言った時はけろりと「バイバイ」と手を振り、二人の心をへし折っていた。

ルーディアの抱擁を受けて眠ってしまったものの、起きたら大変でしょうね、とリーリャは苦笑していた。

アルスには帰ってきたら五歳の誕生日を祝う事を約束し、ララはゼニスの腕の中でじぃっと此方を見つめていた。

エリナリーゼはパウロとギレーヌに何言か言葉を交わし、互いに頷きあっていた。

そして、ノルンとアイシャの頑張って、という声援を受け、一行は旅立つのだった。

 

 

 

アリエル達と合流し、関係者の熱烈な見送りを受けてシャリーアに別れを告げた一行は、馬車のまま空中要塞へと転移した。

道中皆がかなりルーディアの様子を気にしていたが、ルーディアはケロリ…とまではいかないものの、大丈夫そうではあった。

一行はそのままペルギウスに簡素に挨拶をし、馬車のままアスラ王国国境近く…赤竜の上顎の近くへと転移していった。

 

 

 

赤竜の上顎を抜けた森の前ではアリエル達は、そこで犠牲になった者達に花を添えた。

聖級魔術師が嵐を起こして撹乱した中突っ切ったので、犠牲になった者達を弔う事も出来ていなかったらしい。

誰も眠っていない簡素な墓石に花を添え、祈りを捧げるアリエル達。

命をかけて主を守った彼ら彼女らに、ルーディア達も敬意を表して祈りを捧げるのだった。

 

 

 

そして一夜明け、この先の森では襲撃の可能性が高まると、襲撃に警戒した陣形で森を進む一行。

アリエルの父親、現国王の不調の情報及び、アスラ王国が北帝や水神を雇ったという事は共有している。

だからこそ転移で移動してきた自分達への準備はまだ出来ていないんじゃないか、という問いを誰かがした。

しかしアリエルはダリウスは用意周到であり、警戒するに越したことはない、と言い切る。

そしてそれは見事に的中してしまった。

 

 

 

馬に乗り森を行く一行の前に、鎧姿の兵士達が立ち塞がった。

先行し名乗り、何者か問い掛けるフィッツに対し、黙ったままの兵士達の返答は武器を構える事であった。

森からわらわらと現れる完全武装の兵士達に、フィッツは声をあげる。

 

「敵襲!」

 

その声と共に先行していた三人の剣王のうち、エリオットとギレーヌは兵士達におどりかかり、早速とばかりに切り伏せた。

パウロは兵士達を見渡し、あるものを見つけてしまい眉をひそめる。

 

「…こいつらは…」

 

その呟きは剣戟の音でかき消えた。

 

 

 

フィッツが飛んでくる魔術を次々とレジストする中で、エリオットとギレーヌはそれらを気にせず、兵士達を切り捨てていた。

 

『ルーク先輩、後ろに敵の影は…?』

 

「見えない!どうする?一旦下がるか?」

 

馬車の後ろを警戒していたルークは辺りを注意深く見渡し、そう答える。

それに対してルーディアは、目の前の蹂躙劇を眺めながら暫し悩む。

 

『…少し様子を見ましょう、襲撃者達もエリオット達だけで危なげなく対応出来てるようですし、いざとなればあのくらいの規模の戦力なら、森ごと氷付けに出来ます。魔力はかなり減りますが…』

 

ルーディアのその言葉に、ルークの眉間を冷や汗が伝った。

冗談で言っている訳ではないとわかったからだろう。

数十人をあのくらい、と言ってのけるルーディアに、知らず知らず喉が鳴った。

 

「…それは最終手段だな。だが、心強い。俺は背後の警戒を続けるぞ」

 

『はい』

 

そんな会話をしていると、兵士達の群れが左右に割れた。

兵士達の間を縫うように現れた存在に、剣王の三人が動きを止める。

現れた人物はかなり小柄人物、恐らく小人族だ。

けれどその小さな見た目とは裏腹に、周囲の兵士達から安心感が伝わってくる事から、かなりの実力者であると予想出来た。

ピカピカに磨かれた全身鎧を纏ったその男は、前に進み出ると口を開いた。

 

「我が名は北王ウィ・ター!北神三剣士が一人!『光と闇』のウィ・ターである!」

 

ウィ・ターは短めの、けれどその身長には丁度良い長さの剣を抜き放ち、ギレーヌへと向けた。

 

「『黒狼』ギレーヌとお見受けする!いざ尋常に一騎打ちされたし!」

 

その宣言に、兵士達の動きが止まる。

此方を警戒しつつも、距離を詰めるのをやめ、じりじりと後退しつつ、包囲するかのように広がっているようだった。

 

「ふむ…最近のあたしは『母猫』だったが…今は『黒狼』に戻ってやろう。いいぞその一騎打ち、受けて立つ!」

 

ギレーヌはそう言い放ち、剣をウィ・ターへと向けた。

そうして始まる二人の一騎打ち。

パウロ、エリオット、フィッツの三人はじりじりと動く兵士に警戒し、剣を、杖を構えたまま辺りを見回していた。

そんな時。

 

『…!』

 

ルーディアは何かに気付き、右側に勢い良く振り向くと共に、右足をダンッ!と踏み鳴らした。

そこから地面が凍りつき始め、パキパキパキと音をたてる。

まるで地面を走るように凍りついていく地面が、とある地点で盛り上がった地面に砕かれた。

いや、それは地面ではなく、土色のマントだった。

そのマントを身に付け、地面から飛び出してきたのは珍妙な格好の男、北帝オーベール・コルベット。

オーベールは少し驚いた顔をしたが、直ぐに腰の剣を抜き放った。

 

「なんと、気付かれるとは…」

 

オーベールはそう呟きながら、そのままルーディアへと近接する。

驚いたように上半身を浮かしている様子で、それにオーベールは更に強く踏み込んだ。

 

「だが、魔術師にこの距離…切り捨て御免!」

 

そう叫んでオーベールが剣を振りかぶったその瞬間、オーベールの眼前には拳があった。

 

「!?うぉおおおお!!」

 

攻撃を中止し、反射的に全力で上半身を反らしたオーベールの鼻先を、ルーディアの右の拳が掠める。

オーベールが剣を振り上げたとほぼ同時に踏み込んだルーディアが、顔面に向けて拳を放っていたのだ。

曲がりなりにも魔術師から近接してくるとは想定出来ず、オーベールは内心で『氷狼』と呼ばれる者の評価を改める。

上半身を反らした勢いのままバク転をし、オーベールは追撃を防ぐ為にクナイを投げた。

 

キンッ!

 

それを一瞬で生成した氷の小大刀で自らへとそのまま返され、オーベールはそれを弾きつつ、更に評価を上方修正する。

 

「なんと、こやつ本当に魔術師か…!?」

 

『失礼な』

 

小大刀を構えたルーディアは、内心オーベールの対応力に舌を巻く。

わざと隙を見せ攻撃を誘い、魔術師に近接した安心感から攻撃時の隙が大きくなった所を狙ったのだが、まんまと反応されてしまった。

 

「『氷狼』ルーディア…噂では確かに近接もイケる魔術師という話であったが…水神流まで扱うとは」

 

ルーディアは対応を失敗した、と内心歯噛みした。

水神流を使うべきではなかった。

自然な動きで投げられたクナイに、反応が遅れてしまって思わず使ったが、まだ自分の手札を晒すべきではなかった。

 

「情報の少ない剣王もいる…ちと厳し」

 

「おい、なに人の娘に手ぇ出してやがる」

 

オーベールはその声と共に放たれた剣閃を、紙一重で避けた。

目と鼻の先を通ったそれに、つぅと冷や汗が流れた。

 

「つい最近剣王へと認可された、『天剣』パウロ・グレイラットとお見受けするがっ…!?」

 

ギィイイイン

 

オーベールの言葉の最中に、パウロは振り切った剣を直ぐに切り返して斬りかかった。

それをオーベールは右手の剣で受け、鉄が強くぶつかり合った音が響く。

 

「おう、そうだ、俺がパウロだ」

 

示し合わせたようにほぼ同時に剣がお互いの手から離れ、そしてもう一振の剣が同時に振り抜かれる。

本来は同じ事を繰り返し、またはより練度の高いほうが競り勝つ場面。

けれどパウロのもう一つの剣は魔剣だ、硬いもの切る時切れ味を増す性質を持つ。

故に。

 

「なんと!」

 

オーベールの剣はバターのように切り裂かれた。

残った柄をオーベールはパウロへと投げつけ、先程手から離した剣を素早く拾い、距離をとった。

パウロも投げつけられた柄をかわし、距離を取る。

 

「北神流ではないか…剣王ではなかったのか…?」

 

その呟きに答える者はいなかった。

パウロも同様に自分の愛剣を拾い上げ、オーベールに向き直る。

 

「別に複数流派使える奴なんざざらにいるだろ」

 

「ふむ…水神流を使う魔術師に、北神流を使う剣王…相手にとって不足なし!」

 

その言葉に、来るか、と二人が身構える。

オーベールは先程まで振っていた剣を鞘に収め、別の剣を左手で抜き放った。

 

「某は北帝オーベール・コルベット!尋常に……さらば!」

 

そしてルーディア達へ敵意を向けた瞬間、オーベールは踵を返して、全力で逃げ出した。

ルーディアとパウロは敵意に身構えてしまったのもあり、それに呆気に取られて追撃が遅れてしまう。

 

「ちっ…思い切りがいいな!」

 

『あっ…くっ、『氷壁』!』

 

遅れてルーディアはオーベールの逃げる先に氷の壁を作り出し、進行を妨害する。

パウロも舌打ちをし、それに追撃する為に走り出した。

しかしオーベールはそれを見越していたのか、腰から何かを口に含む動作をしたと思えば左手に持つ剣に火を灯した。

 

「ブゥッ!」

 

オーベールの口から吐き出された油が剣の炎に引火し、氷の壁を融かす。

薄くなったそこを炎が灯った剣でこじ開け、体を丸めて突き破って行ってしまった。

残った熱気と水分で発生した水蒸気が辺りを包む。

 

「あっつ!ギレーヌ!そっちに北帝行ったぞ!」

 

その熱さに思わず足を止めてしまったパウロは、ギレーヌへ警告する。

この先は丁度ギレーヌとウィ・ターが戦っていた辺りだ。

 

「ブゥゥ!」

 

オーベールはギレーヌを視界に入れた瞬間、口の中に残った油を出しきる。

炎を灯したままの剣に再度引火し、ギレーヌへと炎が襲い掛かった。

熱と音、そしてパウロからの声かけがあった事で事前に気付いたギレーヌは、ウィ・ターから離れるように飛び退いた。

それを確認したオーベールはウィ・ターの横に走り込むと、声を張り上げた。

 

「撤収!撤収!仕切り直す!」

 

「なに、今良いところで…」

 

ウィ・ターとギレーヌの戦いはウィ・ター有利に進んでいたらしい、撤収と言われて渋る。

そのウィ・ターを有無を言わせずに目で黙らせ、オーベールは撤収の指示を出した。

囲う兵士達がそれを機に少しずつ森の中へと消えていく。

そこからオーベールとウィ・ターも撤退しようとするものの、そこをエリオットが追撃した。

 

「ふん!」

 

しかしオーベールから投げ付けられた袋、それに警戒してエリオットは足を止めてしまう。

オーベールの人となりを知っているエリオットは、警戒してその袋を剣の腹で、切らずに弾き飛ばす。

地面で破裂したそれに構わず、追い付けないと判断したエリオットは、素早く最小限の動きでオーベールへ腰のナイフを投げつけた。

真っ直ぐ素早く飛んだナイフは、オーベールの後頭部に見事に命中した。

しかしその瞬間、オーベールの姿はかき消えて砂の色をしたマントをつけた丸太となっていた。

 

「ふはは!残念!狂犬よ、これにてさらば、また会いまみえよう!」

 

驚くエリオットの視界の端で、また違うマントをつけたオーベールが声を張り上げ、森の中へと消えていった。

更にはウィ・ターも丸太についていたマントを手早く回収し、森の中へと消えていく。

 

「待て!」

 

なおも追撃しようと足を踏み出すエリオットだが、突然の眩しさを感じて思わず足を止めた。

ウィ・ターの磨き上げられた鏡面のような鎧が光を反射し、エリオットの目を眩ませたのだ。

ギレーヌもそのせいで攻めきれていなかった。

やがて誰の姿もなくなり、敵の気配は消え去った。

残るは切り捨てた兵士の死体のみ。

一行はひとまず、襲撃を無事に切り抜けたのだった。

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