『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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レイダとイゾルテの会話辺りはコピペ
この辺はなんとも…

誤字修正しました。報告ありがとうございます。


『剣世界』水神レイダ・リィア

アリエルの狙い通りに『場』は進んでいった。

トリスティーナ・パープルホースによるダリウスへの糾弾。

ダリウスは足掻いた。

というよりトリスティーナの存在に気付いていたかのように、別人の死体を用意していたようだが、パープルホース家と事前に繋がりを作っていたお陰でダリウスを抑え込む事が出来た。

そんな時に現れた、パーティーの名目上の主役である第一王子グラーヴェルは、『場』を支配しなおそうとするものの、続いて現れたペルギウスの登場によりそれ以上動く事が出来なかった。

そして、席を決める時、アリエル、グラーヴェル、ペルギウスの三人が座る位置を決める時。

ペルギウスが次の王になる者が上座に座るといい、とアリエルを指して言ったその瞬間に、趨勢は決まった。

第一王子とダリウスの周りにはオーベールとウサギ耳の見た目そっくりな双子が控え、ピレモンの近くにはウィ・ターが漆黒の鎧を身に纏って控えているが、彼らも項垂れる雇い主を見て困惑しているようだった。

彼らにはそれぞれパウロ、エリオット、ギレーヌが意識のほとんどを割いて警戒している。

もしも下手に彼らが動き出せば、パウロ達は切り捨てに走るだろう。

もう、今この場にはアリエルが王となる事をひっくり返せる者はいない、と確信出来た。

 

 

 

そんな時、不意にルーディアは上を見上げた。

豪華なシャンデリアが吊り下げられている天井を見て、ルーディアは反射的に身震いした。

同時に轟音と共に天井が壊れ、シャンデリアが砕け落下を始め、ルーディアの瞳にとある白髪の人物の姿が映った。

それと同時にルーディアは一番近くにいたエリオットの腕を掴み、自分に寄せ、周り全てを氷で覆った。

 

『……!』

 

「……」

 

天井から落下してきた人物は、落下中にルーディアと視線が合った。

その人物から放たれるプレッシャーに、エリオットは言葉を無くす。

 

ガシャァアアアアン!

 

シャンデリアの落下した音と共にルーディアとエリオットを囲う氷のドームは二人を覆い隠した。

最後に一瞬だけ見えた光景、それは、落下してきた人物、水神レイダ・リィアが構え、その真後ろに立ったアルマンフィが両断される、そんな光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ルーディアの嬢ちゃんには、身を隠されちまったかい。夢のお告げを、もっと信じておくべきだったかね?ま、そう上手くはいかないもんだね…さぁ、誰も動くんじゃないよ、こうなりたくなかったらね」

 

アルマンフィが両断された次の瞬間に動いたのは、同じくペルギウスの配下の一人『波動』のトロフィモス。

放った攻撃毎両断され、ペルギウスの配下はこの一瞬で二人が光の粒子となって霧散していった。

シャンデリアの破片で怪我をした貴族の一人がたまらず動き出したと同時に、その足の腱を切り裂かれ、首筋を峰打ちされて沈黙した。

そんな様子を見せられ、なおその小さな老女から発せられる圧力に、それ以上会場で動く者は誰一人として現れなかった。

この今場を支配している技こそがレイダ・リィアが老いてなお未だに水神の地位についている理由。

水神流において奥義と呼ばれる五つの技、その中で最も難しいと言われる技の二つ、それを組み合わせたレイダ・リィアの編み出した絶技。

構えた瞬間から範囲内で知覚した動きに反応し切り捨てる、水神流の六つ目の奥義『剥奪剣界』である。

 

「…動く奴はもういないね。ルーディアの嬢ちゃんが不安要素だが…一先ずはいい。あのまま動かないのなら…オーベール、さっさとやる事やっちまいな。アリエルとペルギウス…不安なら奴等の護衛も纏めて、首をはねちまいな」

 

「な、某がか…?」

 

「別にウィ・ターでもナックルガードでも誰でもいいよ、あたしが全員抑えている間にやるんだよ」

 

「し、しかしだな…」

 

オーベールはちらりと、エリオットがいるのだろう氷の壁を見る。

そんな様子に、レイダは顔をしかめた。

 

「はぁ?無抵抗の相手は斬れないってか?なんだい随分とナマ言うようになっちまったじゃないかい。あんたの姑息な技の数々で、どれだけ無抵抗になった相手を斬ってきたんだい。少し人に物を教えたらこれかい?師匠として剣士として恥ずべき行いをしないってか?今更だね、反吐が出るよ」

 

レイダはしかめた顔のまま、ペッと唾を吐き出した。

 

「北神三剣士が聞いて呆れるよ、雇い主の側で棒立ちするのがあんたらの仕事かい?高い金貰って雇われてんだろ、さっさと動きな!」

 

叱責が放たれ、北神流の四人はそれぞれ顔を見合わせた。

目を合わせ、それぞれ頷きあった。

 

「…そうであるな」

 

北神流の四人それぞれが武器を取り出し、歩きだす。

アリエルのほうにオーベールと兎耳の二人が、ウィ・ターがアリエルの護衛のほうに。

レイダの圧で動けない彼らは、冷や汗をたらりと流した。

そんな時だ、鎧姿の者達が部屋へと突入してきた。

恐らくシャンデリアの落下音に気付き、何事か確かめに来たのだろう。

 

「け、剣を捨て…」

 

「動くんじゃないよ!」

 

勇猛な者が声をかけようとするものの、レイダの一喝と圧に負け、口をつぐむ。

そんな中、一人の見習い騎士が兜を取り外しながらレイダへと一歩二歩と近づく。

兜から現れたその顔は、レイダの孫、イゾルテ・クルーエルであった。

 

「お師匠様、なぜ、これは、一体、どういう?」

 

「ああ、イゾルテかい」

 

「このような場で奥義を使うなんて…!」

 

「はいはい、説明してあげるよ。本日この場にて行われるのは、水神レイダと北神三剣士による凶行さね」

 

「凶…行?」

 

イゾルテが眉をひそめ、レイダが言葉を続ける。

 

「あたしらは共謀し…そうさね、王竜王国にでも雇われてたって事にしようかね。莫大な金に目がくらみ、王国の要人を暗殺しようとしたのさ。アリエルと、他何名かを惨殺した所で、たまたま居合わせた見習い騎士のあんたに斬られる。イゾルテ・クルーエルは英雄となり、水神流は存続する…」

 

レイダはハッと笑って、第一王子の方を見た。

 

「うん、いい筋書きじゃあないか。物書きにでもなればよかったねぇ…。そういう方向で頼むよ、グラーヴェルの坊や」

 

「何を馬鹿なことを言ってるんですか、お師匠様……っ!」

 

そう言ってまた一歩レイダに近付こうとするイゾルテの動きがピタリと止まった。

レイダの圧に飲まれたのだろう。

 

やがてオーベールが抜き身の剣でアリエルの前へと辿り着く。

顔は苦々しく歪んでいるものの、その瞳はアリエルをしっかりと捉えていた。

 

「よし、よしっ!オーベール!さっさとやれい!アリエルと、ついでにその隣の売女もだ!後の事はどうにでもしてやるぞ!」

 

ダリウスがそう叫び、オーベールは覚悟が決まったのか剣をしっかりと持ち直した。

その瞬間だった。

 

パン、という音と共にダリウスの目の前で剣閃が走った。

ダリウスの足元と、頭上を越えて壁に突き刺さったそれ、切り裂かれた氷の礫。

 

『豚の囀りは聞くに耐えませんね』

 

「ひっ」

 

声をあげて動きを止めたダリウスを尻目に、レイダはルーディアの張った氷の壁を見やる。

その壁から空いた拳大の穴、そこから放たれた凄まじい速さの氷…レイダは切り裂く時に手に伝わった衝撃に今までにない手応えを感じていた。

 

「…ルーディアの嬢ちゃんを最初に抑えられなかったのは、失敗だったかもしれないね」

 

瞬間氷の壁に亀裂が入り、バリンと音を立てて割れる。

そこから現れた存在に、部屋の中の空気が変わる。

いや、実際に周囲を覆っていく冷気に、一部の貴族達が身震いした。

それは氷の鎧を纏い、狼のような印象を受ける氷のヘルムを着けた、ルーディア・グレイラットの姿だった。

 

『……レイダさん、貴方がヒトガミの使徒だったとは残念です』

 

「なんだい、随分と格好良くなったね、ルーディアの嬢ちゃん。でもそれであたしに勝てるつもりかい?」

 

『えぇ…ヒトガミの使徒は倒します』

 

「ふん、龍神みたいな事を言うんだね?知り合いかい?」

 

ルーディアはその問いに答えず、氷狼鎧を装着した姿で、一歩踏み出した。

同時に襲い掛かる剣閃に、ガシャガシャンと表面の氷が砕けていく。

けれど中まで切り裂かれずに、ルーディアは二歩目を踏み出す。

 

「随分硬いね…だが、それなら」

 

ルーディアの右膝がスパリと切り裂かれる。

間接部は他に比べて斬りやすく、装甲も多少は薄く作られている。

故にレイダもそこを狙い切り捨てた。

しかし、足を切られた事で鮮血が溢れ、ルーディアの体制が崩れたと思ったその瞬間だった。

切断面から吹き出した風が、切られた足を捉え、直ぐに繋げなおしてしまったのだ。

 

「なんだいそりゃ…」

 

その様子に目を疑い、思わずレイダは呆れたように溢した。

ルーディアはその修復する間、間接部分の周りに新たに氷を生成し続けて、レイダの剣閃を受け続けていた。

やがて切り裂かれた足でしっかりと床を踏み締め、前傾姿勢となってレイダを見据えた。

その間もレイダの『剥奪剣界』は発動したままだ。

表面の氷を砕き、間接を守る氷を砕き、それでも次々に生成される氷がレイダの剣を防ぎ続けていた。

 

『グルルルルル……』

 

「…硬いうえに瞬時に再生するのかい…あたしの苦手な手合だね…」

 

それでもレイダが諦める理由にはならない。

レイダの剣の握る手に力が入る。

 

『ガァアアアアア!!!』

 

咆哮魔術が放たれる。

レイダは瞬時にその魔力を切り裂いた。

音だけでもビリビリとした圧を感じるそれに、北神三剣士の足が止まった。

そして、ルーディアはそのまま駆け出した。

 

「『剥奪剣界』」

 

ルーディアに殺到する黄金の剣閃。

顔の前で腕を交差し、間接部分を更なる氷を生成して守る。

砕かれた氷は剣閃と合わせキラキラと輝いていた。

 

「まったく!アンデッドでもこんなにしつこくないよ!」

 

やがて距離を詰めたからか、ルーディアの体から防ぎきれなかった分の剣閃によって鮮血が飛んだ。

右腕が根元から切り裂かれたのだ。

更にその腕をレイダは再度斬り飛ばした。

遠くに飛んだ腕、それすらルーディアの身を包む風は捉えて、元あった所へと運ぶ。

それをさせまいと走る剣閃に

 

『アォオオオン!』

 

ルーディアの咆哮魔術が再度放たれる。

難なく切り裂かれるその魔力。

だが、その時既にルーディアはレイダの目の前に立っていた。

目を見開くレイダへ、ルーディアの左の氷の爪が振り下ろされる。

レイダの剣閃が走り、斬り飛ばされる左の肘、そしてそれと同時に、レイダの眼前には氷の爪が迫っていた。

先程斬り飛ばした右手が既に再生し、レイダへと爪を繰り出していたのだ。

剥奪剣界では既に反応出来ないそれに、レイダは、構えるのをやめた。

 

「『流』…惜しかったね」

 

使いなれたそれで、レイダはその一撃を受け流した。

力の全てを床の方へと流されたルーディアは、俯せに床に叩き付けられた。

ガシャンと音をたてて砕け散る鎧…けれどルーディアは笑みを浮かべていた。

レイダの足元にポタリと鮮血が落ちたのが見えたから。

 

「な…っぐ……」

 

ルーディアの前で『剥奪剣界』の構えをやめたレイダの右肩には、剣が深々と突き刺さっていた。

間髪入れずにレイダの左肩にもナイフが突き刺さる。

それらを成した、ずっとルーディアの背後にいたエリオットは剣を乱暴に抜くと、躊躇いなくレイダの肘から先を切り落とした。

ボタボタと鮮血を散らし落ちる腕と、カランと床を転がる黄金の剣。

 

「…ちっ……」

 

手際の良さと、影に徹し、存在を忘れてしまっていたエリオットにしてやられた事に、レイダは思わず舌打ちをした。

ルーディアの後ろを身を屈めてついてきていたエリオットは、ルーディアが倒れると同時に、レイダへ剣を投げつけていたのだ。

そして、床に倒れたルーディアはレイダの足に手を触れる。

触れた所から凍りついていくレイダに、ルーディアは口を開く。

 

『私の負けですね…けれど、私達の勝ちです』

 

「ああ……その通りだね…はぁ、あたしも焼きが回ったか…」

 

首から下を氷で包まれたレイダは、そう言って俯いた。

 

「……何やってんだいオーベール!さっさとダリウスを連れて逃げるんだよ!ウィ・ター!!!」

 

しかし、そこでレイダの叱咤が飛んだ。

そして、成り行きを見守るだけだった三剣士の肩がビクリと震え、オーベールとナックルガードは、ダリウスを連れて逃げ出そうとし始めた。

 

「させるか!」

 

レイダの圧がなくなった事で動けるようになったギレーヌが、嬉々として飛び出した。

そこをウィ・ターはギレーヌを盾を構えて抑えた。

 

「行かせぬ…!オーベール!後は頼むぞ!」

 

瞬間、ウィ・ターの足元に叩き付けられたそれにより、会場は黒い煙幕で包まれた。

混沌とした場で、貴族達の悲鳴が轟く。

同時に扉を開けて去っていく音も聞こえ、アリエルは思わず叫んだ。

 

「ダリウスを逃してはなりません!追って下さい!」

 

「了解、任せな!」

 

「ルーディア…すまん、行ってくる」

 

ダリウス達が逃げていっただろう扉は、今開いた音が聞こえた事から、イゾルテ達が入ってきた扉ではないと思われた。

大体の位置関係がわかっているパウロは、追撃に向かう。

魔力をかなり失い、座り込んだままのルーディアに小さく謝罪し、エリオットはパウロと共に駆け出した。

ウィ・ターの煙幕の中、ギレーヌとの戦いの音が部屋に響いていた。

 

「……」

 

そんな現状を、難しい表情で見つめ、何かを考え続ける一つの影があった。

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