『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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『終幕』王女アリエル

ルーデウスの無詠唱で放った『岩砲弾』はピレモンの頭を打ち砕く事はなかった。

剣閃が走り、それを打ち砕いたのだ。

それを成した男が、ピレモンを背に、ルーデウスと相対する。

 

「おや、お久し振りですね、兄さん」

 

「てめぇ…ルーデウス…!」

 

パウロは怒りの形相でルーデウスを睨み付けた。

ルーデウスはそれに対してニコニコとした笑顔のまま、言葉を紡ぐ。

 

「兄さん、ベガリットではいい夢が見れましたか?あと、娘さん達はご無事でしたか?」

 

「どの口が…ほざきやがる!」

 

パウロは初手から『光の太刀』を放つ。

それに対してルーデウスはパウロが動き出す一瞬前には、後ろへと動きだし、剣の届かない所にまで動いていた。

いっそ不自然なそのかわし方に、パウロの眉間に皺が寄る。

 

「なに…?」

 

「はは、久し振りの兄弟としての再会ですのに、容赦ないですねぇ」

 

ルーデウスはそこで突然深く頭を下げた。

頭のあった場所を通り過ぎる剣閃。

 

「ちっ…!」

 

ルーデウスを通り過ぎたエリオットは、振り返って剣を構える。

そのエリオットに、姿勢を戻したルーデウスは視線を向け、そしてしゃがみこんだ。

 

「む…!」

 

そこを通ったギレーヌの剣閃に、ルーデウスは床に杖を持った手をつき、自分の周囲から氷の槍をいくつも生み出した。

ギレーヌはすぐに床を蹴って槍から離れる。

エリオットとパウロも反応し、パウロはピレモンを抱え、その場から飛び退いた。

ルーデウスは自分の周りに、床から氷の槍がいくつも生えた状態でゆったりと立ち上がると、辺りを見回した。

 

「ふぅー、皆さん血の気が多いですねぇ。今僕はアリエル様の為に動いている、ある意味貴方達と同じ立場なんですよ?」

 

『じゃあなんで、トリスティーナさんを殺したんですか…!』

 

思わず、ルーディアは口を挟んだ。

それにルーデウスは首を傾げながらも、つらつらと答える。

 

「なんで…?そこのトリスはそもそも、僕が事前に皆さんの道中を襲うように言ってあったんです。賢い彼女はアリエル様に気付くと、そしてアリエル様なら彼女の正体に気付いて仲間に引き入れると信じていました。実際、彼女は役にたったでしょう?…最後にアリエル様に反旗を翻しましたが…だから殺した、それだけです。まさかヒトガミの使徒にされるとは…彼女も運がないですねぇ、可哀想に」

 

そんなまるで他人事のような言い方に、ルーディアは声を荒げた。

 

『彼女は、ヒトガミに苦しめられていたせいで、凶行に走ったんです!殺す必要なんてなかったじゃないですか!』

 

「はいぃ?それなら貴方が、さっさと無力化すれば良かっただけでしょう?それが出来るだけの力はあるでしょうに…ああ、わかりました、魔力がもうないんですね?じゃあチャンスですか。オフですけど、時間外業務という事で」

 

ニコニコとした表情のまま、突然ルーディアへと殺気が放たれた。

その瞬間に前動作なく放たれた岩砲弾に、誰も反応出来ずに、ルーディアへと直撃する。

 

『くっ…!』

 

しかしルーディアだけは魔力の高まりを見れていて、どうにか氷狼鎧を展開し受ける事で、自身は無傷でそれを受ける事が出来た。

ルーディアは衝撃で顔をしかめる。

同時に魔力が尽きてしまい、氷狼鎧は即座に霧散し、ルーディアは床に座り込んでしまった。

 

「ルーディア!」

 

それにエリオットが素早く近付き、ルーディアを庇うようにルーデウスに向きなおる。

 

「ルーデウスゥ!!いい加減にしやがれ!」

 

「ルディを傷付けようとするなんて…ナナシさんでも許さない!」

 

パウロは切りかかり、フィッツは火球をルーデウスへと放った。

それをルーデウスは杖を持ったままの右腕をパウロの剣の軌道に置き、火球に左手を向けた。

 

パキャァアアン

 

甲高い、砕けるような音が響き、パウロの剣が右手に当たると砕け散り、フィッツの火球が左手に直撃する直前に霧散した。

 

「なっ…!くそっ!」

 

「な、何が!?」

 

パウロは剣が折れた瞬間ルーデウスの杖が向けられた事で離れざるをえなくなり、フィッツは自分の魔術が消滅した事に目を丸くする。

剣の方は兎も角、魔術が霧散した事…パウロには覚えがあった。

転移迷宮の守護者、魔石多頭竜、それにロキシーやタルハンドが魔術を放った時の現象にそっくりだった。

そして、その鱗『吸魔石』をルーデウスが回収していたのを思い出したのだ。

パウロは更に面倒になったと歯噛みし、殆ど柄だけになってしまった自分の愛剣を鞘に戻し、魔剣のほうを抜き放って構え、ルーデウスを睨み付けた。

 

「ナナシ!もうやめてください!」

 

そんな時、アリエルの一括が部屋に響いた。

ルーデウスはその言葉に杖を背中に背負い直し、アリエルのほうを向いて片膝をついた。

 

「わかりました。アリエル様がそう仰るのであれば」

 

そう静かに告げる姿に、パウロは顔をしかめる。

パウロにとってルーデウスは自分と同じように、貴族でいる事に反発してる存在であったし、だからこそ冒険者にもなっていたのだと思っていた。

けれどノトスの名を捨てず、こうしてアリエルに首を垂れている…納得のいかない光景だった。

 

「皆様も、少し落ち着いて下さい。お願いします…」

 

そのアリエルの言葉にそれぞれが顔を見合せつつ、武器を下げる。

それでもルーデウスへは全員が警戒を続けていた。

この得体も底も知れない、考えも読めない魔術師を警戒しないではいられなかった。

内心ナナシの事をかなり信頼していたルークとフィッツでさえ、この会場で起こしたナナシの暴虐に、不信感が募っていた。

 

「ナナシ…いえ、ルーデウス。貴方が無事に生き延び、また会えた事、本当に嬉しく思います。私の陣営だった筈の貴族がいつの間にか壊滅していたのも、貴方が裏で動いていたのでしょう?けれど、明らかにやり過ぎです、今も私が止める間も無く…これからは私の元につくのですから…」

 

アリエルがそこまで話した所で、ルーデウスは顔をあげ、口を開いた。

 

「ああ、すみませんアリエル様。いきなりで申し訳無いのですが、また暫く暇を頂きたく思っております」

 

「え…」

 

「ふふふ、アリエル様の、ご成長なされた姿を拝見出来て嬉しかったです。こんな所まで来た甲斐がありましたよ。この度は本当におめでとうございます、アリエル様。このルーデウス・ノトス・グレイラット…心よりお祝い申し上げます」

 

ルーデウスは愕然とするアリエルから視線を外し、ゆっくりと立ち上がると、周りをぐるりと見回した。

ルーデウスを恐ろしい物を見るような目で見る貴族、特に腰が抜けて立てない様子のピレモンの恐れ方は見るに耐えなかった。

パウロ、ギレーヌ、エリオットは今にも飛び出してルーデウスを切りたそうに睨み付けていて、フィッツとルークもルーディアを庇いつつ、不信感を露にしていた。

そんな状態でもルーデウスは胡散臭げに笑みを浮かべたままで、それがまた気味が悪かった。

 

「アリエル様、立派な王になられてください。僕の願いはそれだけです。…さて、それでは僕はこの辺で」

 

そこまで言ってルーデウスは踵を返す、が。

 

「行かせると思うか?」

 

「お前が企んでる事、洗いざらい吐きやがれ!」

 

「ルーディアをまだ狙っているのなら、ここで仕留める…!」

 

そこに三人の剣王が立ち塞がる。

それをルーデウスは頭をポリポリとかき、胡散臭い笑顔を苦笑へと変えた。

 

「……やれやれ…怖い怖い。では、また何処かで」

 

ルーデウスがそう呟くのと、三人が床を蹴るのはほぼ同時だった。

だがその前に出る足は、下から円形にせりあがってきた土の壁で、止められる。

そのままルーデウスはその土の壁に包まれ、姿を隠してしまった。

出来上がった土のドームを見て、面倒な、とエリオットが吐き捨てる。

 

「床に穴開けて逃げる気か…!?」

 

ギレーヌは眼帯を上に持ち上げ、目の前の土のドームを見つめる。

 

「いや…中で凄まじい魔力が渦巻いている…何かする気だ、ぶち壊して止める!」

 

その言葉と同時、三人はそのドームに切りかかる。

かなり硬いが、パウロの魔剣は硬ければ硬い程に切れ味を増す。

あっという間にドームを切り裂き、その中が露になるが…そこはもぬけの殻だった。

虹色の残光と土塊が散乱しているだけで、ルーデウスの姿は何処にも見当たらなかったのだった。

 

「なに…?ちっ…どこ行きやがった!?この建物ん中探すぞ!ルーク!フィッツ!ルディを頼むぞ!」

 

「あ、はい!」

 

パウロはギレーヌとエリオットを連れて、駆け出す。

彼らも北神三剣士との戦いを経て大なり小なり負傷し、血も流しているのだが、それを感じさせない足取りで駆けて行った。

ふと、部屋を出る直前、ギレーヌが思い出したようにアリエルへと振り返る。

 

「約束通り、奴は切り捨てたぞアリエル」

 

その言葉にアリエルは小さく頷き、それを確認したギレーヌは直ぐ様走り出して行った。

それを見届けたアリエルは肩を落として俯いた。

ギレーヌから無事ダリウスを殺したと聞いたにも関わらず、気は晴れない。

別に自分の王への道が、華やかな物であると思っていた訳ではない。

けれど、王になれば、なれると確信出来る所まで来れば、気持ちくらいは晴れると思っていた。

けれど、信頼していた家臣の生存に喜ぶ間も無く、目の前で実行された裏切りとも呼べる暴虐に、アリエルの心は悲しみで埋め尽くされていた。

 

「…ナナシ…どうして…」

 

気付けばアリエルの瞳から溢れた涙が床に染みを作る。

それを見ていたルークもまた悲しみに顔を歪めながら、アリエルを見つめていた。

 

 

 

 

 

結局ルーデウスは見つからなかった。

指名手配すべき、との声もあがったが、アリエルはそれに踏み切る事はなかったのだった。

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