『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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活動報告設置しました、100話記念何すればいいかわからなくなったので何か案をくれると嬉しいです。


後始末と平穏な幕間
リザルト


「…皆様、改めてありがとうございました」

 

あれから2日、アリエルの周りの慌ただしさは少し落ち着きを見せていた。

 

あの後、ペルギウスは『場』で起きた出来事を「良い出し物であった」と語り、ルーデウスのドームの中にあった土塊をいくつか配下に抱えさせ、配下を一人名代として置いて去っていった。

配下を二人失ったにも関わらず気にした様子もなく、そう語るペルギウスに、貴族達は畏敬の念を抱いた。

ルーデウスとペルギウス、二人の理解の及ばない存在の脅威に、アスラ貴族達はアリエルに対して驚く程大人しくなるのだった。

 

そして今、アリエルとルーディア達…今回の功労者達を集め、人払いをしたとある一室で話をする事となったのだった。

 

「まず…ピレモン様の沙汰についてです。ギレーヌ様には申し訳ありませんが、あらゆる権限を没収し、領地で隠居して頂きます。正直処刑も視野に入っていたのですが…ナナシ…いえ、ルーデウスに殺されかけた時の取り乱し方があまりに哀れだったからか、生かす提案をした時に反対意見がありませんでした。これからはルークがノトス・グレイラットの当主となります」

 

「そうかい、まぁ…俺にとっても実の弟の事だ、生きてるだけでも幸いだが…それよりだ、アリエル王女さん。俺らが言いたい事…わかるだろ?」

 

それにアリエルは苦々しい顔となった。

気まずげに俯きながら言葉を紡ぐ。

 

「はい、ナナシ…ルーデウス・ノトス・グレイラットの事ですね…?」

 

「そうだ。あんたの家臣に泥沼がいるとは聞いていない…まさか俺達を罠に嵌めたのか?」

 

腕を組んでアリエルを見るエリオットの目が細められる。

 

「待ってエリオット。違うんだ、アリエル様と僕達には認識に差があるんだ。僕達は泥沼がルーデウス・ノトス・グレイラットだと知っていたけど、アリエル様とルークには泥沼という冒険者が敵かもしれない、とだけ伝えて、名前を告げてないんだよ。それに、ナナシさんがルーデウスだと知っていたのもアリエル様だけ…それに僕達は、ナナシさんは僕達の為に死んだと思っていたんだ」

 

だから仕方ないんだ、と呟き、フィッツも俯いてしまう。

信頼していた2人目の先生と呼べる人物が、自分の1人目の先生にして最愛の人を目の前でも殺そうとした、その現実は未だにフィッツに重くのし掛かっていた。

フィッツのその様子に、エリオットは小さく息を吐き、黙って目を瞑った。

 

『アリエル様がご存知なかったのはわかりました。けれど指名手配を見送ったのは何故ですか?彼のした事は明らかにやり過ぎです。同じ闖入者であるレイダさんは実害が出る前に私が止めたので、一時的な拘束だけで済ましたようですけど、彼はあの場でも二人、更にはアスラ王国中で百人規模の被害を出しているのですよ?』

 

後にわかった事だが、犯人がルーデウスだと思われる大規模魔術による破壊によって、何家もの貴族が屋敷家族使用人全てを殺されていた。

想定される被害者の数は百人を越え、そこまでの被害を出した者を指名手配しないというのは有り得ない事であった。

 

「しない…訳ではありません…直ぐに指名手配出来る状態では…あります…」

 

俯いたままポツポツと話すアリエルに、ルーディアは言葉を続ける。

 

『…何が引っ掛かっているのですか?ここには私達しかいません、話してください』

 

「だ、だって…ナナシはずっと私を見てくれていたんです、私に王になれってデリックと共にずっと支えてくれて、名を捨ててまで仕えてくれて…いつも朗らかで、デリックが厳しく言う中で、甘やかしてくれて…転移事件の後も厳しくなる情勢でも見捨てないで、いつも助けてくれて…!ラノアに向かう時も囮になって…!」

 

『けれど、彼が無詠唱を使える事は知らなかった…どころか彼が王級魔術すら扱い、帝級に迫る程の魔力操作能力を持つ事も知らなかった』

 

それにアリエルは目を見開き、ガクガクとした動きで見つめた。

 

『結局貴方は彼に遊ばれていたんですよ。きっと彼が囮になったという襲撃どころか、それ以前の襲撃でも彼ならもっと楽に撃退出来た筈です。貴方を守った従者達も、彼がその気になれば救えた筈です。彼らも報われ――』

 

「やめてください!」

 

アリエルは思わず叫び、その言葉を遮っていた。

肩を震わせるアリエルを皆が見つめ、暫しの沈黙が流れる。

ルーディアは憮然とした態度で、引いてはアリエルを見下すかのように見つめていた。

そんな中で最初に口を開いたのはルークだった。

 

「…実際に君を殺しかけた相手の事だ、君が怒るのも当然だ。けれど、すまない…失った従者達を、仲間達の死が無駄だったというような言い方はやめてくれ…」

 

それに少しハッとしたルーディアはちらとフィッツに視線を向ける。

悲しさとやるせなさを感じるその表情に、ルーディアは目を細めて俯いた。

 

『…すみません…失言…でした…』

 

「いいや…此方こそすまない…アリエル様もまだ混乱なされている…指名手配に踏み切ったほうがいいと、俺も思っているからな」

 

未だに俯き肩を震わせるアリエルの様子は、今までの凛としたカリスマ姿を感じる事は出来なかった。

そんな様子のアリエルに、パウロがはぁ、とわざとらしく息を吐いた。

 

「…アリエル王女、お前がそうやってルーデウスを庇うように動くのは勝手だ、好きにしたらいい。だが俺達は次ルーデウスと会えば殺す為に動く。間違いなくな。…何が言いたいかわかるか?」

 

「…貴方達とこれからも関係を続けるのならば、ナナシを、切り捨てろ…と?」

 

俯いたままのアリエルに、パウロは話を続ける。

 

「そうだ、俺達龍神配下『デッドエンド』はこれから一人をあんたの配下に出向させる。あんたの周りで、ルーデウスの動きがあるかもしれないからな。それでもしあんたのとこにルーデウスが戻ってくるなら、そこを全力で叩かせて貰う。それさえ認めれば、俺達はこれからもあんたの力となると約束する」

 

パウロは真剣な顔でアリエルを見つめ、その返答を待つ。

アリエルは、それに対して少しだけ顔をあげた。

その瞳には涙がたまっている。

 

「い…嫌です…ナナシを…切り捨てる…なん…て」

 

そう呟いたアリエルを見て、パウロは額に青筋を浮かべた。

 

「いい加減にしやがれ!」

 

怒鳴り、アリエルの胸ぐらを、パウロが掴みあげる。

 

「なっ…やめてくれ叔父上!」

 

「ルーク!アリエルを想うなら少し引っ込んでいろ!お前が一番わかってる筈だろう!」

 

それにルークはバツが悪そうに口をつぐむ。

ルークは確かに、今のアリエルが何故そこまで拒むのか、それを理解してしまっていた。

 

「色恋に目が曇った小娘に、これ以上振り回されていられねぇんだよ!」

 

アリエルが、ルーデウスに恋していると。

それがアリエルの瞳を曇らせていると。

 

「ぅ…く…」

 

「いいか!お前はこれから王になるんだぞ!自分の好き嫌いで判断して、国を滅ぼすつもりか!?」

 

「ナナシは…そんな…」

 

「それが曇ってるっていうんだよ!お前に逆らったからって一族郎党殺し尽くす奴が、まともな訳ねぇだろうが!お前は、殺されるかもしれないと、ビクビク怯える奴らの上に君臨する王になりたかったのか!?その姿がお前の理想の王の姿なのかよ!」

 

「うっ…違、違いますっ……」

 

「だったらどうするべきだ!?言っておくがな、既に俺達は限界なんだよ、お前のその不義理に!目の前でルディはルーデウスに殺されかけたんだぞ!?ルディがいなきゃお前は、オーベールに首をはねられていた!なのに、その功労者を殺そうとした犯人が好きだから指名手配はしませんてか?通る訳ねえだろうがそんな理屈が!」

 

パウロは胸ぐらから手を放し、突き飛ばす。

アリエルは座っていた椅子に強かに背中をぶつけ、痛みに顔をしかめ、ゲホゲホと苦しそうに咳をした。

 

「…今すぐ決めろ、ルーデウスを指名手配するのか?しないのか?」

 

涙を流し、肩を震わせるアリエルを見下ろし、パウロは問い詰める。

これが最後だと内心思いながら。

暫しの沈黙が流れる。

嗚咽だけが響く部屋で、固唾を飲んで皆が見守る中、アリエルが口を開いた。

 

「……ルーデウス・ノトス・グレイラットを…アスラ王国全域で…指名手配…します…」

 

宣言と同時に泣き崩れるアリエルに、誰もかける言葉が見つからなかった。

フィッツとルークだけがアリエルの肩に手をのせ、痛ましそうに顔を歪めていた。

 

そうして、アリエル・アネモイ・アスラと龍神配下『デッドエンド』は一先ずの協力関係となる。

これにより、これからルーデウス・ノトス・グレイラットはアスラ王国によって指名手配され、アスラ以下表での動きをかなり制限される事となる。

また、『デッドエンド』には屋敷が使用人も一緒に一つ与えられ、その屋敷を活動拠点として活用していく事となった。

そして予想のつかないルーデウスの目的に関して問うと、アリエルは悲しげな顔で首を振るのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「さて、ムーアさん、例の彼の居場所はわかりましたか?」

 

「…ええ、この辺りで目撃情報があったそうです」

 

地図を広げた老人の指差す先に、ルーデウスはうんうん、と頷く。

 

「成る程成る程…なら多分この辺りが目的地でしょうし、この辺に向かいましょうか」

 

ルーデウスが次々と指ししめす場所に同じく地図を覗いていた黒鎧の一人が頷き、進路を確めながら他の黒鎧に話を始めた。

ここは巨大な帆船の上、ルーデウスはニコニコと何時も通りの胡散臭い笑顔で、アトーフェ親衛隊達に指示を出していた。

 

「向かうのはいいですが、彼をどうするつもりですか?」

 

老人、ムーアの怪訝な表情での問い掛けに、ルーデウスは飄々とした態度で答える。

 

「まぁー、一回叩きのめしてからですねぇ。そうしなきゃ話すら聞いてくれなさそうですし。ま、彼は武器さえ奪えば正直慢心したクソガキですからどうにでもなりますよ」

 

「…上手くいくとよろしいですね」

 

「ハッハハハ、心にもない事言われると笑えてきますね!あははは!」

 

「なんだ笑って!楽しそうだな!オレも笑うぞ!ククク!クハハハハハハハ!アーッハッハッハハハハハハ!!!」

 

「相変わらずうるせーですねこの人」

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