真っ直ぐ帰って家に着き、各々にお土産を渡し、各々を存分に愛でたおかげでか、レオ以外起きてこないそんな早朝。
レオの散歩に出掛けようとした時、非常に珍しい事に深刻な表情をしたリニアと顔を合わせたルーディアだった。
「おはようニャ。おかえりニャさいボス。お疲れ様ニャ」
挨拶をしてきたものの、何処か浮かない様子にルーディアは首を傾げた。
『おはようございます。ただいま帰りましたよ…どうしたんですか?元気ないですけど』
「あー…まぁ、散歩終わったらちと話があるニャ」
非常に珍しい真剣な顔と態度に、冗談を言える雰囲気でもない。
『…わかりました』
ルーディアも真面目な態度で頷いたのだった。
静かな散歩を終え、リビングでリニアと向かい合って座るルーディア。
リニアは腕を組んで目を瞑り、話を頭の中でまとめているようなので、飲み物だけ出して黙って見守る、
出された果実水をぐびりと一口飲み、やがてリニアは口を開いた。
「あー…あちしが冒険者として活動してて、結構…各地でジンシン教が広まってるのがわかってきたんだニャ。ラノアでも、細々とやってる奴はいるニャ…国に睨まれてるからあの時程じゃニャいけど…裏の人身売買の組織と繋がっていたりしてるニャ」
『…!』
ルーディアの心臓が跳ねる。
もうかなり良くなったとは言え、外出恐怖症の原因となった奴等だ。
その言葉を聞いただけで、ルーディアの背中に嫌な汗が流れる。
少し気まずげなリニアだったが、話を進める。
「あんまりにもやばい奴等は、あちしのつてを使って複数人で潰したりもしたんだけど、この問題はかニャり根が深いと思うんだニャ。ニャんと言うか…その構成員は、好きには生きれニャいようニャ何処か燻ってるようニャ、そんニャ奴等ばっかだったんだニャ。そういう奴等にとっては確かに、ジンシン教は救いだと思うし、ハマっちまうのもニャんとニャくわかるんだニャ」
首を傾げながらリニアはつらつらと述べた。
『……成る程、それをリニアはどうしたいんですか?』
ルーディアは頷きながら話を聞き、内容を理解しつつ続きを促す。
「んー、そういう力を持て余したり、欲を発散出来ニャい奴等って冒険者にニャっても考え無しに無茶苦茶やって大体野垂れ死にするニャ。そういう奴等をその前に…と拾っちまうのがジンシン教なら…それより前にこっちでそういう受け皿を作ってやれば…上手く使えるんじゃニャいかニャ…?って思ってるニャ。冒険者クランみたいニャ奴ニャ」
その内容にルーディアは唸る。
上手く生きれなかった者達の、発散の場や方向を間違った方へと誘導しているのがジンシン教なのだろう。
思い出すのは、エリオットと相対した時の彼等の最後の言葉。
まるで自分達が被害者であるような、そんな言動であった。
彼等にボコボコにされた身としては、何言ってるんだと憤慨ものであるのだが、彼等としては本気で思っていただろう辺りが頭が痛い。
けれどそうなる前に別の形で正しく発散させてやれば…此方の力にもなり、彼等を処理するの必要もなくなる。
『…それは非常に良い案だと思うのですけど…よく考えましたね』
「ニャハハ…元はあちしの学生時代のやんちゃのせいで、そういう奴等を作っちまった負い目からニャ…あちしらに従うからって好き勝手やって、あいつらはあんニャ怪しい宗教にハマって暴挙に走って死んじまったニャ。責任を感じる事こそニャいけど、その前にどうにか出来たとは思うんだニャ」
一石二鳥の素晴らしい案ではあるのだが、ルーディアは一つの懸念を口にする。
『…成る程…その志は立派ですし、協力は惜しみませんが…そういう組織を運営出来るんですか?そんなノウハウなんて私もわかりませんよ?』
ルーディアとしてはリニアの自発的な素晴らしい提案に、応援したいとは思ったのだが、正直リニアにそういう組織が正しく運用出来るとは思えなかった。
最終的にはジンシン教予備軍となるのが関の山だろう。
そして自分も、そういう方面には明るくない。
「そうだよニャぁ…アリエルがいた頃に少し聞いておけば良かったニャぁ…」
そう二人で顔を合わせ、首を捻って唸りあった時の事だった。
「話は聞かせて貰いました!」
目を覚ましたアイシャが、リビングの扉を開けて飛び込んできた。
『あれ、アイシャおはよう』
「アイシャちゃんおはようニャ」
「おはようございます…それでですね!」
静かに扉を閉じたアイシャは丁寧に頭を下げて挨拶をすると、丁度二人の間に立った。
「それ、私にやらせて貰えないですか?」
自信満々で放たれるその言葉に、リニアは怪訝な表情を浮かべた。
「それ…って今あちし達が話してた、燻ってる奴等を受け入れる組織かニャ?アイシャちゃんが頭良いのは知ってるけど…ボスはどう思うニャ?」
リニアはそう言ってルーディアに話を振る。
それを聞いたルーディアは、ううん、と小さく唸り、アイシャを見つめる。
『そうですねぇ…アイシャがこういう事をやりたいと言うのは珍しいですし、やらせてもいいかと思います。アイシャは優秀ですから、なんとかしてくれる気はしますね』
「さっすがお姉ちゃん!話がわかるぅ!」
『ただ、家の事中途半端にならないようにはお願いしますね、ママが怒っちゃいますよ』
その言葉にはしゃいでいたアイシャはハッとしたようにシュン、と小さくなった。
「うっ…はい…」
「ニャハハ、アイシャちゃんもお母さんには敵わニャいのね。まぁそういう事ニャらこれからよろしく頼むニャ」
「はい!色々案がありますので、頑張っていきましょう!顧問料は安くしておきますね」
「ニャハハ、心強いニャ…え?金取るのかニャ…?」
二人は硬い握手をかわす。
満面の笑みのアイシャに面食らったようなリニア。
その様子に少し不安を感じるルーディアだった。
けれど、結果的にルーディアのその心配は杞憂であった。
リニアが立ち上げ、アイシャがアドバイザーとなって出来たその組織は、最初はリニアの知り合いで構成されていた。
けれどその時はただの烏合の衆であり、なんとも宙ぶらりんな状態だった。
そこでアイシャが彼ら彼女らに求めたのは、仲間意識、連帯感、礼儀、仁義であった。
割りと良く泊まりにくるナナホシから、「まふぃあ」や「やくざ」と言った前世のならず者達の知識を得ていたアイシャは、リニアのいう彼等が社会に馴染めなかった者達だと把握し、ピンと来ていた。
まさにそういう組織に出来る、と。
ナナホシの話でそういう組織に憧れがあったアイシャは、この機会にやってみる事にしたのだった。
一先ず服装を、安く仕入れた黒服で統一し、一目で何処の者かわかるようにした。
そして礼儀と仁義だ。
相手への丁寧な対応は個人、組織、ひいては種族や国の評価にまで繋がるとこんこんと諭した。
また、一般人への手出しを固く禁じ、人として筋の通らない事を許さず、治安維持に貢献した。
仕事は主に傭兵、用心棒や護衛等である。
リニアの知り合い、つまりは獣族ばかりでそういう事しか出来なかった、とも言える。
故に組織としては「傭兵団」、リニアの最初の理念、燻る人達の最後の受け皿となる事と、ルーディア以下龍神配下達の名前から取り、「エンド傭兵団」として活躍していく事となる。
狙い通りに燻る者達を仲間に加えつつ、各地で成果をあげていく。
その礼儀正しく、真っ当ではなくとも悪を挫く彼等の姿は、人々に驚くべき早さで受け入れられていくのだった。
「えへへ…今回の顧問料で漸く買えるよ、アルス君の為のマジックアイテム…誕生日に間に合いそうで良かった」
一方でアイシャのもう一つの目的である、小さな可愛い野望は、誰も気付いていなかった。
リニアから受け取った顧問料の数枚の金貨を眺めて、アイシャは笑みを浮かべるのだった。