Adonis.   作:ぬめり

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二次創作特有の最初は手が動くやつです。


File.4

 

「なあ、前に見せてくれた昔の友人のアルバム、もう一度見せてくれないか?」

 

 ホテルの一室で朝食を口にしながら、怜は目の前に座るベルモットにそう言った。

 彼女はスープの入ったカップを口から離し、縁に付いた口紅を指先で拭う。

 

「別に構わないけど……どうして?」

 

 確か、以前に雑談の流れで彼女の友人たちの写真が収められたアルバムを見せたことがあった。その時は大して興味があるようには見えなかったが……。

 

「んー?ああ、ちょっと前に見た古い映画でアンタの友人の女優……工藤有希子さんだったっけ、その人が出ててさ。いやー、演技は上手いし美人だしでファンになっちゃって」

 

 微笑みながら尋ねたベルモットに、「出来たらもう一度写真見せて欲しいなーって」と笑う怜。それを聞いたベルモットは、微笑みを崩さないまま、机の下で思い切り怜の足を踏みつけた。

 

「ッあ!?」

 

 痛みに思わず手に持っていたスプーンを床に落としてしまう。それを拾い上げながら、怜はベルモットを睨みつける。ベルモットが履いているのは細いハイヒール、攻撃力は高かった。

 

「目の前に世界的大女優が居るっていうのに、貴方は他の女に目移りするわけ?」

 

 そういう彼女は依然として笑顔だが、その声色には明らかに怒気が込められていた。

 彼女は、足の骨が折れていないか涙目で確認している怜の食べかけだったヨーグルトを自分のほうへ引き寄せると、それを掬い自らの口に運んだ。甘く冷たいそれで少し熱くなっていた頭を冷やす。

 

「はあ……それを見たい理由を隠すのは構わないけれど、そういう嘘は好きじゃないわ。ていうか、貴方一つでも言えるわけ?有希子の出演作」

「えー……っと、ぶ、『ブルー・プリンセス』…?」

「ブルーじゃなくてホワイトよ」

 

 視線を逸らして言う怜の口に、ベルモットはヨーグルトを掬ったスプーンを突っ込んで黙らせる。

 何を企んでいるのかは知らないが、別にそれを理由にアルバムを見せる程度の頼みを断るなんて関係性ではない。ベルモットはそう思っているからこそ腹を立てていた。まあ、二人きりの朝食に他の女の名前を出したから、というのも大きいが。

 

 

「……まあ、それは後で見せてあげるとして、そろそろ仕事の話をしましょう」

 

 とはいえ、これ以上追及しても彼は話さないだろう。彼がベルモットに隠し事をするときは、いつも相応の納得できるだけの理由があるのだ。ベルモットは一旦その話を区切り、机の下で足を組み直して真剣な顔で怜を見据えた。怜もその雰囲気の変化を察して、口のスプーンを取り出し、机に置いて椅子に座り直す。

 ここからは、組織のメンバー、『ベルモットとアドニス』としての会話だ。

 

「実は数日前からボスの別荘、いえ、元別荘と言った方がいいかしら……兎も角、その館『黄昏の館』で何かをやろうとしている人たちがいるみたいでね」

「何か……?」

「ええ、館を見張っていたメンバーからの報告で、その鼠たちが所謂名探偵たちに素敵な招待状を出していることが分かってね。何をやるつもりなのかまでは掴めなかったけど……」

 

 ベルモットは懐からスマホを取り出すと、画面を操作して1通のメールを怜に見せた。

 

「そこに潜入して内情を探ること。それがボスからの指令よ。山奥の寂れた館にわざわざ名探偵を集めて行うこと、それがもし組織に関わることの調査だとしたら……それが始まる前に始末しろってね」

 

 彼女は次に一通の手紙を空になった食器を退かした机の上に置く。それは、黒地に白い文字で宛名が書かれた不気味な封筒だった。

 それを受け取った怜は中身を取り出してそのまま机の上で広げた。中の手紙には『貴殿の英知をたたえ我が晩餐に御招待申し上げます』の文字と、差出人の名前の箇所に『神が見捨てし仔の幻影』という不気味な記述が。

 一見、全面黒の封筒と手紙は組織を暗示しているようにも見受けられるが……。

 

「それは、招待者の一人に届く前にくすねた招待状よ。まあ、その差出人からして、組織には関係なさそうだけれど……念には念を。私と貴方で明日、そこに潜り込むわよ」

 

 ベルモットは席を立つと、ベッド傍のスーツケースから服を取り出してバスルームへと向かう。今日は、これから明日の変装に使う衣装の調達だ。幸いにも此処は大都会東京、数多くの衣料品店が立ち並ぶ街だ。半日も有ればどんな人物に化けることだって可能だろう。

 今回化ける相手は普段からハイヒールを愛用してなきゃいいんだけど……と怜は手紙の宛先、その探偵の名前を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇に包まれ、雷鳴り響く豪雨の中、日本中の名のある探偵たちが奇妙な招待状に誘われて黄昏の館を訪れていた。

 茂木遥史、大上祝善、槍田郁美、白馬探、千間降代に毛利小五郎。そして、小五郎に付き添う形で来た毛利蘭と江戸川コナン。それに、屋敷のメイドの石原亜紀を加えた9名が今夜の晩餐の参加者だ。

 彼ら全員の到着が確認されると、彼らは晩餐の支度が済むまでの間、屋敷のリビングのほうで待機することになった。

 ビリヤードにチェスにトランプ。それぞれ思い思いの娯楽に興じながら、主人の到着を待つ。その一角、トランプでポーカーを遊ぶ蘭、コナン、郁美。第五回戦、既に頭一つ抜けていた蘭がストレートを完成させて、更にチップを積み重ねていく。

 

「……蘭ちゃん、驚きだわ。駆け引きでも歯がたたないその剛運、相当神様に気に入られているみたいね?」

「それほどでもないですよ、今日はちょっとラッキーなだけです」

「そうかなー、蘭姉ちゃんいっつも勝ってる気がするけど……」

 

 手元にわずかに残ったチップを見下ろしながら、乾いた笑いを漏らすコナン。もう殆ど彼女に持っていかれてしまっていた。

 

「ふふ、幸運っていうものは何時だって素敵な人にだけ訪れるもの。きっと、優しい蘭ちゃんが誰かを助けた分だけ、貴女に帰ってきてるのよ」

「えー、大袈裟ですよー」

 

 自分の手札を場に伏せる郁美の言葉にコナンは同調しつつ、それにしても限度ってもんがあるだろと、五回連続でストレートを引き当てている蘭に呆れたような視線を向けていた。

 とまあ、そんな様子で和気藹々と時間を潰していた皆だったが、その後、トランプに付着した血痕を発見して驚いた蘭の悲鳴を皮切りに、一行は再び不気味な晩餐会へと引き戻されることとなる。

 

 戻ってきたメイドの後に続き、晩餐会の舞台である食堂へ足を運ぶ探偵たち。食堂では既に一人の男が、顔を白い布で隠した状態で待っていた。

 

「崇高なる6人の探偵諸君!我が黄昏の館によくぞ参られた……」

 

 そんな出だしで始まった主人の演説は、駐車場に停めてあった探偵たちの車が爆破される音をBGMにして進む。

 この屋敷での宝を巡るゲームの開催という目的が明かされたところで、苛ついた茂木が主人の顔を隠す布を引き剥がすが、そこには顔面の部分にスピーカーが埋め込まれたマネキンの姿があるだけだった。

 そのマネキンは茂木の行動に触れることもなく、最後の晩餐と形容し、皆に食事を促し黙りこくってしまう。

 何者の仕業だとマネキンを睨みつける小五郎に、周りの探偵たちは冷静に招待状の差し出し人の正体について語る。『神が見捨てし仔の幻影』、その正体は、暗闇を舞う白き衣の天才的マジシャンにして神出鬼没の大泥棒『怪盗キッド』その人なのだと。

 そして、かつて彼と相対したことのあるコナンは感じる。正体が明かされたと同時に放たれた、キッドの凛とした冷涼な気配を。コナンは彼がこの場にいることを確信し、笑みを浮かべた。

 

 場には緊迫した空気が流れたままだが、一先ずはスピーカーの声に従い、食事にすることにした探偵たち。席替えや食器類を拭き取ったりなどの工夫は加えながらも、彼らは大上によって用意された料理に舌鼓を打つことになった。

 美食家探偵の名に恥じぬ繊細な調理の施された美食の数々、本来ならしっかりと味わっているような状況ではないが、そこは歴戦の名探偵たち。料理の感想を交わし合うような余裕も見せた。

 テーブルを囲んで和やかな雰囲気すら流れ始めたころ、マネキンのスピーカーから再度主人の声が響き渡り、彼らは探偵の顔つきへと戻る。

 

「はっ、おいでなすったぜ」

 

 茂木がその声を出迎えると、マネキンはこの館、烏丸蓮耶の別荘で起こった40年前の惨劇を語り始めた。血に塗れた昔話を。

 そして、国内有数の頭脳を持つ招待者たちに声はゲームのヒントを授ける。過去の惨劇になぞらえた不気味な暗号。

 

「さあ、君達の誰かが悲鳴を上げたら、知恵くらべの始まりだ……」

 

 回答は館の中央の塔、四階のパソコンへ。報酬は財宝の半分と脱出方法。

 探偵たちが半分呆れ白けた様子でそれを聞く中、突然、茂木が悲鳴を上げ、苦しげに喉を押さえ始めた。

 

「え?」

 

 周囲の注目が集まる中、茂木はその演技を止めると、宝捜しに付き合うつもりはないと席を立った。山の中を駆けずり回れば何とかなると部屋を出ようとする茂木。

 しかし、その足は大上の喉が張り裂けるような絶叫によって停止することになる。先程の芝居がかった茂木のそれとは違う様子に、探偵たちは一斉に席を立って彼の元へ駆け寄った。

 

「おい、オッサン!二度目はもうウケねーぜ?」

 

 地面に倒れる大上の顔を覗き込む茂木の側で、大上の脈を測る白馬。彼は懐中時計を取り出すと、美食家探偵の死亡時刻を読み上げた。

 郁美が彼の口元を確認して青酸カリによる毒殺を推察すると、千間が先程まで大上が口にしていた紅茶に10円玉を沈めて確認する。

 一流の探偵たちによる素早い検証。しかし、直ぐにそのトリックの解明には至らなかった。

 そんな彼らを尻目に、スピーカーからは淡々とした口調でゲームの開始が宣言される。茂木に胸ぐらを掴まれて外れたマネキンの頭部には、タイマーと共に仕込まれたカセットテープが。

 それにより、この殺人の犯人が今、この食堂の8人の中にいる可能性が示唆される。名探偵たちは、互いに互いの顔を見渡した。探る者の皮を被った探られる者、その人物を見破るために。

 

 そして、ベルモットと共にこの場に潜む怜は思う。

 ああ、また面倒なことになったな、と。

 

 

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