管制室隣の物置を突貫で作ってもらったヘクトールの部屋に今日もマスターである彼が眠っている。相変わらず疲労度は強めの顔色であるが安らかではある。
そのために指定した部屋なのでそれは構わない。鍵だって渡しているのだ。気兼ねなく使っていただいてありがたいかぎりだ。
ならば今まで通り食堂でミルクを温め保温ポットと共に彼の目覚めを待とうではないか。そう思って一度部屋を出ようとした時
「んん、ぅ、」
珍しく、わずかな物音か気配に反応したのか。ベッドの上の彼がもぞりと動いた。
「……だれか、いる?」
「オジサンがいますよ」
「……………………ぅぇ?めずらしい……」
ヘクトールの部屋にヘクトールがいることは当然のことなのだが。むしろ結構な頻度で側に控えていると思っているのだが。もしかして寝ぼけて自室で休んでいると思っているのだろうか。わずかに開いている瞳は朧に霞んでいて何かを映しているようには見えない。
うとうととほとんど回っていないだろう思考の中を彼は揺蕩い
「うーん……、いいよ。おいで」
「……………………」
眠れぬ子供を招き入れるように。いつも自室に訪れる来客たちを迎えるように毛布を大きく開く。
その無意識レベルまで習慣化している姿にヘクトールはただただ言葉を失う。
よくもまあ、ここまで今まで何も間違いが起きずにやってこれたものだなと。
いやここまで無防備なら何が起きようと最早事故でも何でもなくなるべくしてそうなった当然の結果でありそれに関して咎められる者など誰もおらず。
よくもまあ、召還されるサーヴァントは召還者の気質に若干でも寄りやすいとはいえ、世界のための善意だけでよくぞここまで……。
よくもまあ。
己もまた日常における彼の日々とろとろにとろけていくくりーむぱん脳にいくら両想いとはいえこれに手を出すのはあまりにも……。となっていることには棚に上げて眉間を指で押さえる。
「んぅぅ?どうしたのー?こないのー?寒いよー?」
「いいから。寝てなさい」
「んんぅ?」
広げられた毛布をそっと押し沈めて毛布越しに優しく肩を叩く。
それに彼は不思議そうな声を漏らしつつもすぐに意識を落として再び安らかな寝息が響いていく。
その平穏極まりない空気が満ちる部屋の中、ヘクトールは大きく息を吐き肩を落とす。
「まあ…………、うん。うん」
とりあえず、今日も彼が彼らしくくりーむぱんであれる皆の甘さ緩さ善良さに感謝しておこう。どうか最後までこのままでいてくださいと祈りを捧げておこう。一応こちらからも予防線は張れるだけ張るけれども。
まず今日はいつも通りにミルクを温め傍に控えていよう。混沌にうねる感情をいつも通りに奥底に沈めて落ち着かせ、音を立てぬよう細心に気を払いながら食堂へと向かった。