「ただいま〜」
「おかえ、りぃいぃ?」
いつもよりくたびれた声で帰ってきたヘクトールを見るなり彼の声が素っ頓狂に間延びする。
両手にはやたらでかい袋。中からややぬいぐるみがはみ出ている。まるで筐体から根こそぎ回収してきたかの量だ。よくもこぼさず帰ってきたものだ。……本当に誰もこぼさず帰ってこれたのだろうか。道路で哀れに転がっている子はいないだろうか。少し心配だ。
床に袋が置かれると同時にそのひとつを取り出し彼は問う。
「いつものゲーセン?」
「そう。いつもの。ちょっとした時間つぶしってだけだったんだかなあ」
少しばかり前の話だ。
彼とヘクトールが待ち合わせに使ったゲームセンターがあったのだ。
そこでヘクトールが時間つぶしがてらに始めた格闘ゲームがどうも有名なタイトルで大会上位プレイヤーが集うゲームセンターであったらしい。そうとも知らずにヘクトールはそこで無双をしてしまった。カルデアでの付き合いでゲーム部たちと軽く嗜んでいた程度の認識しかないヘクトールには周囲の騒ぎの意味が分かっていなかった。中堅がちょっとしたゲーセンでたまたま連勝しているだけだろうとしか思っていなかった。まさか全国クラスの強豪がひしめく修練場の真っただ中にいるなど知りもしなかった。分かっていないまま勝ちを上げ続け彼の到着と共にあっさり立ち去ってしまった。だからこそ残された者たちに焼き付いたインパクトは強烈であった。
しかしたまたま待ち合わせの時間つぶしにやってきた男など探そうと思って探せるものではない。このまま蜃気楼のような伝説となるかと思いきやそこは意外と狭い世間というもの。彼とヘクトールの生活圏からそれほど離れていないその地区をゲームセンター目当てでなくとも歩くことは珍しいことではない。今はこうして交流が生まれて遊ぶこともあるようだ。
本日は格ゲーではなくUFOキャッチャーだったようだが、このぬいぐるみの山のとおりヘクトールは時折加減を忘れる。カルデアにいた頃だと少し考えられない状態かもしれない。こちらが思うよりヘクトールはずっとずっと現代を楽しんでいるのだろうか。楽しんでいるといいな。どうであれせっかく今を生きているのだから。こうして自分の知らないコミュニティがあるのだってとてもいいことだ。両手いっぱいのどでかぬいを抱えて彼は願う。
「どうする?全部置いてても埃かぶるだけだけど」
「うーん、とりあえず次の町内フリマに並べてみますか。なんかないかって聞かれてたんで」
「それはいい賑わいになりそうだ」
売れなかったらまた考えればいい。次にまたフリマをやる時に回すのもいい。おそらく現在の人気キャラクターであろうから大学で尋ねれば欲しがる人もいるかもしれない。すぐに腐るものでもないのだ。焦ることはない。保管場所なら悠々とある。その間にいくつか気に入って家族にしてしまうかもしれない。それもいい。埃とダニだけには注意してやらなくては。
「……………………マスター。ちょっといい?」
「んんぅ?」
滅多に触れることはないサイズのぬいぐるみを抱き思考する彼にこれまた何か思案していたかのような面持ちのヘクトールがちょいと彼を床に座らせる。
そしてテキパキとその周辺にぬいぐるみを並べてまわり
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
「れ、連射?」
突然の奇行に彼も流石に戸惑いを見せるもヘクトールは非常に真顔で、それでいて満足げで。
「とてもいいと思う」
「そ、そうなんだ……?」
まあそれでも、ヘクトールが楽しいのならそれでいいかなあ。
何ひとつ動きのない面白味はなさそうな連写画像にひたすら頷いているヘクトールに奇妙さを感じつつも特につつくこともなくぬいぐるみを抱えて埋もれていた。