ちょいとした所用があってマスターの部屋へと赴いた。思えばそれが罠だったのだ。
ダヴィンチに頼まれたアイテムを手にドアを開ければ見たことのないふわふわもこもこの着ぐるみのようなうさぎパジャマを着ているマスターがいた。耳もしっぽも完備の大変愛らしい白にふんわりピンクを含んだふわふわの塊だ。
「マスターってばまた随分と可愛らしくなっちゃって」
「なんかダヴィンチちゃんがくれたんだ。疲労回復効果があるんだって」
「それはそれは」
騙されてません?
即座に浮かんだ言葉をヘクトールはぐっと抑えた。
本人が喜んでいるのだし思い込み効果というのは馬鹿にならない。これで何かと忙しいマスターが少しでもはつらつとしてくれるのならば万々歳だ。それにダヴィンチのことなのだ。ちょっとしたお遊びだったとしても効果は全く何もなしというわけでもないだろう。……多分。きっと。
何より大変可愛らしくよく似合っている。下手なことを言って拗ねられて脱がれてしまってはもったいない。是非疲労回復を信じたままずっと愛用してほしいものだ。ずっとふわふわのマスターでいてほしいものだ。
「これで疲れが取れるならヘクトールや皆の分もあればいいのにな。皆で可愛くなれて二度最高」
「うーん、オジサンは……いいかなあ」
「ええ……?」
ややテンションが高めの彼とは逆に悩ましそうな渋い顔を浮かべるヘクトールに彼は疑問符ばかりの首を傾げる。せっかくのお揃いもこもこチャンスだというのに残念でならないという顔は気付かないふりを決め込む。
しかしやはり見る分にはいいものだ。うむうむと目の前で眼福に満足げに頷いているヘクトールを前に当人もまた得意げで
「抱きしめてみるかい?」
「え」
両手いっぱいに広げて誘う姿にヘクトールの思考と動きが一瞬固まる。
た、確かに。このふわもこは抱きしめたら気持ちよさそうだ。当たり前だ。かのダヴィンチ製だ。効果は抜群であろう。見た目もちろん手触りだって最上最高に違いない。
その心地よさのまま満たされ癒され抱き枕にしたままふたりで朝までぐっすりは確定であろう。
何より役得にも程がある。
明日それについて全員に詰められ追われ吊るされ焼かれたとしても十分にお釣りがくる大特価だ。
どうする。
いくか。
しかし。
しかし。
しかし。
「えっ…………んりょ、しておきます」
「えー?残念」
果たして本当に自分はその最上級のふわもこだけで満足出来るのだろうか我慢出来るのだろうか……!それに関する己への信用は一切ない……!
寸でのところで波立つ誘惑をなんとか叩き潰して踏み留まるヘクトールの姿に何も分からぬその子供は「相変わらずつれない人ですこと」とただただ不服と唇を尖らせていた。