ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

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反動

 まるで激しい乱気流の外側で振り回されているかのような戦闘であった。

 吹き飛ばされぬように踏ん張ってしがみついているだけで精一杯で、まともに指示なんて出来るような状態ではなかった。

 それでもなんとか勝利を掴み帰還となれたのは他ならぬ仲間たちのおかげと言い切れる。毎度ながら感謝してもしきれないものである。

 そして自室までの廊下にて

 「あ、あれ、」

 電池切れは突然やってくる。

 膝に身体を支えるだけの力が急激になくなり床に伏す。起き上がろうと手をついても肘にも力がなくまた崩れる。次第に指先が、身体中が震えはじめて呼吸が乱れ始める。心の奥に奥に潰していた恐怖が膨れて弾けて暴動のように騒ぎ出す。目の前にちかちかと先程までの光景が嵐のように吹き荒ぶ。ここがカルデアであると強く意識しなければ引っ張られてしまう。動けない。違う違う自分はもう戻ってきているのだ。何も恐れることなどないのだ。でも、ああ、でも、抑えがきかない。視界が揺れる。心拍が跳ねる。息が苦しい。

 おかしい。こうなるにしてもいつも部屋に戻ってからなのに。

 予想外の状態に完全に混乱に陥りながら起き上がろうとしては崩れ伏すを繰り返す。

 疲労というより精神の影響の方が強いだろうと分かっていても一度破裂した気を鎮めるのも難しい。緊急事態を前にしていればまた違ったかもしれない。だがホームに戻り安心感を得てしまった状態でそれをするのは今の彼にはまだ難しい。どうにかしなければと思うほどまた心は乱れていく。

 せめてこんなところで倒れているのをやめなくては。こんな姿を誰かに見られたらなんて思われるか。ただでさえ不安要素しかない存在に世界を託さねばならない事態である不安を更に煽るような真似を晒すなど。皆の懸命な尽力に泥を被せ失意させてしまうような失態など、あってはならないのだ。何ひとつ失点がない人たちの努力をたったひとつの汚点で潰してはならないのだ。

 せめて、部屋にいなくては。休んでいれば治まってくれるはずなのだから。

 再度強く思って身体に力を入れようとした時

 「マスターは馬鹿だなあ」

 「!?」

 言葉と共に身体が浮き上がった。

 「へくとっ!?」

 「こういう時は、助けてって言うの。司令官殿ー?マスター確保しましたよー?」

 『了解。こっちもすぐに検査出来るようにしとくから医務室に連れてきて』

 「りょーかい」

 「ドクター!?」

 『いやーびっくりしたよ藤丸君。バイタルが警報出してるから慌てて確認したら廊下で倒れてるんだもん』

 「ぅぁ……」

 なんという赤っ恥。

 たったひとりの秘密の奮闘気取りが全て筒抜けだったとは。抜かりのない人たちはそんなことだって見落とすわけがないのだから。改めて己の不甲斐なさが重くのしかかる。

 「もっ、申し訳ありませっ、わたっ、自分は、そんなつもりでは、」

 『分かってる。ただの反動だよ。よくあることさ。謝ることもない。検査はただの念のため』

 「そうそう。よくあることで誰にでもあること。今回は特に酷かったからねえ。なーんにも気にすることじゃありませんよ」

 「しかしっ、」

 「いいから。ね?」

 「…………」

 皆の安心させるためのその柔らかな優しさが、どうしようもなく心苦しいのだが。いっそ怒られた方が楽なのだが。伝わっているのだろうか。伝わっているからこそ「慣れなさい」と更に手厚くされているらしいが。それでもなお「慣れていいものではない」と心が全力で抵抗を示すのだが。どう折り合いをつければいいのだろうか。そのあたりに関してはいつも懇切丁寧な皆も教えてはくれない。

 抵抗出来る力も気力も元々ない。ないからこその現状だ。何もかも諦めて極力揺らさぬように運んでくれるヘクトールに身を任せて彼は思う。

 ああだけど、そういえば、思い出す。このぬくもりと安心感があったからこそ自分は何も恐くなかったのだと。

 この絶対安全圏に身を委ねていたからこそあの荒れ狂う戦場の中でしかと自分で、マスターであれたのだと。

 分かったところでするりと気は抜け緊張からくる震えも吹き荒ぶ残響も徐々に消え去っていく。彼を抱きかかえるヘクトールが医務室に到着する頃には正常なバイタルのもと幼くも安らかな顔で寝息をたてていた。

 

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