そのふわふわと舞う蝶々は昼間だというのに淡く光る不思議な蝶々だった。
「…………」
視界の隅がわずかに捉えたその光に咄嗟に彼は振り返る。美しいと思った。目が離せなくなった。
光る蝶が存在する。なんて話は彼は知らない。元より昆虫には詳しくないため調べればそういう種もいるのかもしれない。レイシフト中の今では調べようもない。
もしかしたら魔術業界的にはよくいる種でわざわざ目を向けるほどでもないのかもしれない。尋ねたらあっさり解説してもらえるかもしれない。
けれど彼が尋ねるという行為をすることはなかった。光る蝶々の美しさに目を奪われ心が離せなくなってしまった。そんなものに気を取られている事態ではないと、分かっているはずなのに。
こんな街中でどうしてこんな蝶々がいるのだろう。どこに行くのだろう。どこに帰るのだろう。
光を追って目がふわつく。見失いたくないと足が動く。周りのことなどもう考えられない。景色なんて見えやしない。全てがまっさらで、ぼやけているようで、輝いているようで。
ただ淡く舞い行くそれだけしか自分の中には存在しなくなり
「マスター!」
掴まれた腕と怒鳴るに近い大声に、意識が戻る。
「あ…………、え…………?」
呆れた顔で厳しい顔をしたヘクトールがそこにいた。
「駄目ですよマスター。仕事中に余所見しちゃ」
「駄目なやつだった?」
「駄目なやつだった」
「申し訳、ありません」
我に帰っていくうちに理解していく。あれは違う世界への誘いだったのだ。疑似餌のようなものだったのだ。見てはならないものだったのだ。
魅入られた名残りと失態への呆然に固まる彼の手をヘクトールはいつものペナルティとして強く握って道を戻る。きっと皆と合流してこの姿を見られたら「またか」という顔をするのだろう。恥ずかしい。申し訳無い。
けれどやはり、それ以上に安心と嬉しいもまた同じくらい大きくて。どうも自分は自分が思う以上に精神性が幼いらしい。それ含めて反省すべきと分かっているのだけど。
「ありがとうヘクトール」
「どうしようもないものをどうにかしろなんて言いませんよ。まあもう少し気を付けてほしいですがね」
「はい」
たとえ自分が寿命を全て使い切ったとしてもこの人に見合う存在にはなれないのだろう。それに対して痛む心はもちろんある。それでも一緒にいる間は出来る限り背伸びをしたいと思ってはいる。
だけど、ああだけど、やはり、この状態がヘクトールと共にいる人間として相応しくないと分かっていても。たとえ自分がどこへも行かずともこうしてずっと繋がっていたいと強く握る手を握り返してくれるヘクトールが胸が締めつけられるほど嬉しくて。世界の状況もヘクトールの心境も分かっているつもりでも懲りもせず、反省もしているのだが、ずっとこうしていてほしいと願ってしまうのだ。