ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

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「ランサー」

 ダヴィンチちゃんは意地悪だ。

 彼女(もしくは彼)に対する感情は好意のほうに大きく寄っているものの、深々とそう思ってしまう時はある。まあそれがマイナス評価に繋がるかと言われれば全くないと言い切れるのだけれども。

 たとえば

 「ところでマスターに「ランサー」と呼ばれて一番最初に来てくれるのは誰なんだい?」

 なんてイタズラ心のみで言い出すのだから。

 言われた3人、プロトクー・フーリンとヘクトールとカルナは「はて?」と目を丸める。質問の意図も読めなければそんなこと知ってどうなんだという困惑しかない顔でそれぞれを見合わせた。

 マスターの彼とドクターのロマニは揃って「まーたよく分からないことを」と呆れの混じった困り顔でそれを眺めている。楽しいのはひとりだけだ。

 「そりゃヘクトールだろ」

 「プロトでしょ」

 「愚問だな。マスターが真に求めるランサーが誰であるかなど、このカルデアにいて分からぬ者などいはしないだろう」

 ほぼ同時に出された解答にプロトクー・フーリンとヘクトールは再度顔を見合わせ、カルナはこれ以上の言葉は不要と口を閉じた。

 「そこは初の召喚サーヴァントとしての矜持を誇らしくかざしてくださいよ」

 「テメエこそマスターが分かってねえのをいいことにいつまでも都合よく見えてない振りしてんじゃねえよ」

 ピリとおかしな緊張が走る。

 それにロマニは「うわ」とわずかに柔らかな笑みが引きつりダヴィンチは野次馬心を満面に浮かべ彼は伏せられた揉めている理由が見えずに眉が寄る。おそらく自分に関わることで重要なことなのだとは分かる。が、自分のことでふたりがいがみ合う理由に心当たりがない。戦場に立たせる旗を倒さない方法について小さく揉めることはまあ、なくもないけれど。

 彼がふたりに向ける信頼の形が違うのは確かだ。ふたりはそれぞれ違う人間なのだからそれで当然だろう。そしてそれは安易に優劣をつけていいものではない。それはふたりも分かっているのだろう。そんな不毛な議題でわざわざ揉めるふたりではないだろう。

では他に、ふたりは自分の一体何に、

 「藤丸君は誰が来ると思ってるんだい?」

 「んー?」

 見えない話の分析に顔が険しくなりつつある彼はロマニに話をふられ考える。彼が決めてしまえば誰も文句はないだろうという配慮だろうか。

 それならばと仮想の任務地を想定する。おそらく「ランサー」と呼ぶ時はそういう時だ。平時でカルデアであるなら普通に名で呼べばいいのだから。

 三人でどこかに赴き緊急かつ名を伏せた状態で呼ばねばならない場合があるとして…………。

 「ややこしくなる役職呼びで混乱が生じて事故が起きる可能性があるなら、事前に別のコードネームを決めておいた方が良くないか?」

 「…………ごもっとも」

 もちろんそういう話をしていたわけではないのだが。全員の肩が一気に落ちる。彼がおそらく今まで所持してこなかった範囲の話なので仕方ない。

 「うん。いいなコードネーム。スパイ映画みたいでとてもかっこいい」

 「そうかい?」

 「ドクターに「マスター藤丸」って呼ばれるのも実は気に入ってる。気が引き締まってとてもいい」

 「それは嬉しいな!じゃあそう呼ぶ時はこっちもばっちり気を引き締めなきゃね!」

 「クーが猟犬でヘクトールが守護者でカルナが太陽でどうだろう。安直すぎてすぐにバレてしまうかな。もっとヒネるとするなら……」

 「確かに真名がバレてどうってメンバーじゃないけど分かりやすすぎちゃ意味がねえ」

 完全にクラス呼びよりコードネームに興味が傾ききっている。これ幸いとロマニもそちらに話を広げる。楽しそうに花咲きオーラを浮かべている彼に話は終わりだと3名は息をついて踵を返す。

 なんだか無駄に疲れたな。

 言わずとも共通の重みを漂わせていた時

 

 「ランサー」

 

 ふいに呼ばれた声に3人は同時に肩を揺らす。

 そしてクツクツと響くダヴィンチの笑いに恨みがましく睨みつつもバツの悪そうな3人の姿に、ダヴィンチちゃんは意地悪だなあ。とその意地悪な耳打ちに躊躇わずに乗った自分もまた人のことは言えないとしかと念じながらも思ってしまうのだ。

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