ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

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好奇心が旅を助けることもある

 そこは奇跡のような場所だとダヴィンチが幼い声を弾ませていた。

 複雑に交錯する複数の霊脈の狭間で結界のように作用が生まれ出来上がった聖域のような森、らしい。

 ……。本当はもっと詳しく説明してくれていたのだが、あまりの専門用語が飛び交う高速詠唱っぷりにほとんどが右から左へと流れていってしまった。言葉や単語は確かに認識出来ていたが脳が理解出来るものではなかった。隣のシオンが苦笑いぎみに適当なところで「とにかく極めて清涼で安全な場所ということです」と遮ってくれたくらいだ。

 言われてみれば確かにここの空気はとても澄んでいて心地良い。魔力や魔術的なものは相変わらずとんと分からぬままであるが踏んだ場数だけならちょっとは重ねていると思う。だから深呼吸した際の身体への空気の通りの違いくらいなら分かる。ここの空気の良さが珍しいくらいなのはなんとなくだが分かる。ここで悪事を働くためには余程の悪意の強さがなければならないのではと思うくらいだ。管制室の皆にも体感してほしいくらいの清涼さだ。

 しかしそれだけの天然聖域となると陣を敷くのも一苦労らしい。うっかり少し魔力の流れを阻害しただけで一帯のバランスが崩壊し神聖さすら感じるこの地の清涼さが消え失せてしまうかもしれないらしい。由々しき事態だ。

 故に現在は管制室とキャスターたちが陣を敷くための調整探査中待機状態だ。時間潰しの話し相手になってくれないかとジークに声をかけようとしたら残念心近しい友人は頼もしいキャスターでもあったのだった。既にアヴィケブロンと難しい顔で話し合っていた。

 ちょっとした寂しさで肩を落としかけた瞬間に「まあまあ役立たず同士オジサンと仲良くしましょうや。散歩していい場所なら聞いておきましたから」とヘクトールに肩を叩かれる。ヘクトールの場合は役立たずというより適材適所という風に思えるのだが。向けられる笑みの安心感に言葉を失ってしまった。彼は何度か頷いて地図に目を向けた。

 木々に覆われた道なき道であるなら湿気って鬱蒼としていてもおかしくないのだが、この清涼感しかない森にはそういうものは微塵もない。射し込む木漏れ日でどこもキラキラと輝いていて足元をぬとつく苔や腐葉土もない。ここまでくると森の生体としてどうなんだ?と思わなくもないが、こうしてこの通り息づいているのだから部外者がとやかく言う問題はないのだろう。こうしてヘクトールと綺麗な場所で穏やかな時間を過ごしてもらっているのだから文句の言いようもない。ありがたく享受するだけだ。

 そんな気分の良さに身を任せて地図を見ながら歩きやすい場所を行く。ふと目についた己の身丈ほどは伸びている茂みに突っ込む。「自由だねえ」という声が聞こえたが止めることなくついてきているから問題ないだろう。子供じみた高揚感であるから恥ずかしいところもあるのだが、やはりこういう探検感というのは心躍るものなのだ。

 そして

 「……おお、ご神木を見つけてしまった」

 茂みを抜けた先にあったやや開けた場所に大木があった。4桁くらいはこの地に根差して静かに暮らしていたのだろうとすら思える貫禄だ。

 優しい日差しを浴びて悠々とそびえるその姿に後ろに控えるヘクトールもまた「これはこれは」と感嘆の声をあげている。

 しかしこの巨木が本当はなんなのかは分からない。自分には神々しく見えているがこの森にとってはなんでもなく、もう少し探索をしたらこのような、もしくはもっと大きな木が数本生えているのかもしれない。

 管制室に尋ねれば……、と思ったが、陣敷きの邪魔は出来ない。今が大詰め、という時に暇人からの雑談が割り込まれて集中を欠かしてはいけない。

 「ヘクトール、何かお供え出来るものある?食べても毒にならなくてちゃんと土に還るやつ」

 「んん?まあマスターの携帯食が少しありますが、いいんですかこういうので」

 「気持ちだからね」

 ポケットから取り出される携帯食を受け取り破って取り出す。日向を渡り根元供え手を合わせる。

 「しばらくお世話になります」と。

 この地の宗教の形態が分からないのでとりあえず日本式で。粗相になってないならいいけれど。

 こわごわなところもありつつ静かに祈ること1分足らず、

 「………………おお?」

 令呪と礼装と回路と。ふわと何かが通った感触が走った。

 『ナイスだ藤丸君!森の核から許可が下りなきゃ陣が敷けないって探してたところだったんだ!』

 『こちらからの観測では何も見えてなかったんです。現場の勘ってやつですか?』

 「えっとぉ……」

 地図を見る。確かに地図上ではここは確かに一面茂みの森であった。そういえばそれが面白そうで突入したのであった。カルデアの技術であっても見抜けなかった隠れ蓑を魔術師でもない子供に見つけられるとはなんという……。むしろ何も持っていない自分だから通してもらえたのだろうか。

 一言も止めなかった供のヘクトールは何か気付いていたかと振り返る。「何も知りませんよ」と首を振り「マスターの日頃の賜物ですよ」と頭を撫でてくる。

 その大きくて優しい手つきが恥ずかしさもあるけど嬉しくて。顔にまで熱を昇らせながらもずっと身を委ねていたくなる。が、今は作戦中だ。そうもいかない。これでようやくスタートラインに立ったも同然なのだから。探検散歩気分からマスターへと己を切り替え立ち上がる。

 「じゃあ今戻るから今後の予定について教えてもらえるかな」

 『いいよ。詳しくは皆と合流してから話すけど、とりあえず軽く振り返ると……』

 まるで人格丸ごと変わったかのような凛々しさでこの森の核と呼ばれた大木に一礼し再び茂みに潜っていく。その彼の後ろに控えるヘクトールは何も変わず、たゆたうようなゆるさのままその背に付いていった。

 大木は何も変わらない。ただ黙したまま迷い続ける旅人たちの背を見送った。

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