ヘクトールは甘いものが特別好きなわけではないが特別苦手としているわけでもない。
あれば食べるし口に合えばおかわりもする。脳の労働が極まれば自ら求めることもある。マスターが喜んでくれたらと自分で作ることもある(マスターの彼には大変好評であるが他からは「悩ましい味」と微妙な判定が下りる)し、会議が煮詰まれば「お腹すいたなー。ちょっと休みたいなー。お菓子でも食べないー?」と休憩要請として用いることもある。
しかし気が向かなければ一月以上口にしなくても気にならない。「そういえば最近食べていないな?」と気付くか否かも微妙なところ。
そんなヘクトールに「お菓子は好きか?」と尋ねれば「うん。まあ、普通?美味しいと思いますよ?」と返ってくる。この男にとってお菓子とはそういうものなのである。
そんなヘクトールがレイシフト先でお菓子を買って食べている。しかもそこらのコンビニに入って目についただけのものを衝動的に。これは大変珍しいことだ。仲間たちが見かけたら半数以上は目を丸めるのではないだろうか。
お菓子は何の変哲もない棒状のビスケットにチョコレートがコーティングされた昔ながらの定番お菓子だ。こんな贅沢品が子供のお小遣いで買える時代とは。その時代なりの問題も確かに山積みなのであろうがいい時代であるとしみじみ思う。
「食べます?」
「!」
そしていつの間にやら隣にいたマスターの少年に一本差し出す。「随分と珍しいこともあるのだな?」と丸めていた目が驚きに変わり一緒に開いた口にそのまま突っ込んだ。
口にしたのだから食べなくてはならない。
反射と義務感混じりのこりこりとした咀嚼が小気味よく響く。物は言わずとも美味に喜び周囲に花が舞っているかの様子がまるで小動物のようで非常に微笑ましい光景であった。
ヘクトールにとって菓子への好感度は普通程度であるが、彼にとっては並の子供と同じく大好きの領域なのである。
子供サーヴァントたちと食堂等で目を輝かせて頬張る姿も珍しくない。それにキッチン班や保護者気取りたちに食べすぎ注意と釘を差されているのも珍しくない。それにかんして彼をからかったら「た、たしかにスナック菓子系はあまり食べてきてなかったからこう……、つい物珍しく喜んでしまうが、別に両親が偏った思想のもとに与えていなかったとかそういう話ではないからな!?」と誰も思いもしてなかったフォローか慌てて始まって反応に困ったこともあった。彼の言葉を信じはするが、何やら複雑な事情もありそうだ。彼の過敏さを思うと家庭事情には触れないほうが吉でありそうだ。変につついて変にメンタルを崩されても困る。それが任務にかかわることでもなさそうだし。そうカルデアに住まう者たち各々が語り合わずともうっすら感じて触れないようにしているが、まあそれは、世界が燃えている現状であるならどのみち誰にもどうしようもないことだ。モヤつきはあれど口を塞いでいるしかない。とりあえず目の前にあることだ。
「はいはいマスター。もう一本。もう一本」
「んっ、んっ、んっ」
食べる彼の姿を見る楽しさに任せて隙間なく菓子を与え続ける。自分が食べるよりもこちらの方がよほど楽しい。食べ物を粗末に出来ない、口に食べ物がある状態で口を開くことは出来ない。そんな育ちのいい少年はただされるがままに食すしかない。抗議したげな音が漏れているが聞こえないふりだ。自分の甘味欲求分は十分摂取したのであとは全部彼に食べてもらい楽しませてもらおう。彼との交流ならばいくらあっても心は満ちるし要求は尽きることはないのだから。
そう思って残りいくつもない菓子を袋から取り出し彼の口に突っ込んでいた時
「何公衆ど真ん中で餌付けしてんだよ」
大層苦い顔をしたプロトクー・フーリンが大層呆れた声で救助の声を差し入れた。