特異点最後の夜に彼はぽつりぽつりと浜辺を歩く。ひとり分の足跡がつけられていく。
今回も頑張ってくれた皆の開放感からくるどんちゃん騒ぎが誰もいない海にもかすかに響いている。遮るものがないからよく通っている。その余韻が彼には大変心地よかった。本当に、ありがたい限りだ。
「明日にはなくなる特異点でごみ拾いとは物好きですなあ」
「こういうのは意識的に習慣にしてないとね」
とはいえ仲間たちにゴミを海岸に捨てる人なんていないしこのあたりに住人はいないようだからゴミなんてほとんどないのだけれど。念のため。
あと夜の静けさを堪能したくて。空のゴミ袋をお供に最後の祭りを抜け出したのだ。他に付き添いがいるならそれも結構だ。それがヘクトールであるならなおさらに。
「けど黙ってひとりでいなくなるのはいただけないな。驚異はなくなったとはいえ危険はどこにあるのか分からないんだから」
「ヘクトールなら来てくれると思って」
「……」
いつも自分を見ていてくれる人だから。自分がふらと消えても追ってきてくれる気がして。実際こうしてきてくれたし。
そういうとこ好きだなあ。嬉しいなあ。そう幸福そうに微笑む彼とは裏腹にヘクトールの口はへの字に曲がっていた。
「それを習慣にされたら困るな」
「う?」
「信頼しているのは結構。確かにオジサンたちはマスターがどこにいるか何をしているのかを常に視界に入れて置いてますがね、それでもミスは起きる時は起きるんですよ」
「…………」
「次からはオジサンでなくてちゃんと声をかけるように」
「………………はい。すみません」
これは茶化しなく本当に怒られているやつだ。
確かに自分の周りにいるのはプロフェッショナル中のプロフェッショナルが揃っているからと甘えて慢心していたらそれだけ危険性は上がるのだ。余計な手間が増えてしまうのだ。
いくら特異点の驚異は除けてあとは消えるだけでも特異点であることは変わりない。場を離れるならば誰か、せめて管制にでも一言かけるべきだったのだ。守られる側には守られる側の振る舞いがあるということを忘れてはならない。
そしてヘクトール側も「どこで覚えたそんな殺し文句付き駆け引き」と思ったとしても、黙っていても来てくれた自分に嬉しそうにしてくれていることにどれほど喜びを感じたとしても、絶対に表に出してはならないのだ。
「ま、反省したならこれ以上の説教は無用ですな。どこまで行く予定で?」
「……ぅぇ?ぇっと、向こうの岩場まで行って帰ってこようかなって」
「ならオジサンひとりで十分だな。行こうか」
「……」
「それとも、オジサン以外の人がご希望で?」
「……!いいや!ヘクトールがいい!ヘクトールと行こう!」
戦場での厳しめの顔からカルデアに帰還したかのような柔らかな笑みへ。移り変わりの速さに戸惑いつつも振りかぶるように共にあることを願う彼の姿にヘクトールはまた満足そうな笑みを浮かべる。
最後の祭りが広くかすかに響く静かな海辺に、ぽつりぽつりとふたり分の足跡がに並べられた。