ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

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しゃぼん玉

 家事の作業用BGMにヘクトールは適当にラジオを流したりテレビを流したりしている。どちらを選ぶかは完全にその日の気分である。もしくはどちらも流さない無音の日もある。

 そしてどのチャンネルを選ぶかはこれまた気分次第。なので本日教育テレビが選ばれたのも全く意味がなかったりする。

 しかし教育テレビとは他のチャンネルにはない趣きがあるものだから侮れない。うっかり夢中になってしまう時もある。

 子供のための簡素で分かりやすい情報であれど、子供のための簡素で分かりやすい情報であるからこそ細部にまで丁寧で手抜きがない。集中力が未発達な子供のためのそのしっかりとした構成にヘクトールの作業の手はいつしか止まってしまい、やがて

 「……何してるんだ?」

 「楽しそうだったから。つい」

 帰ってきたら高級ビルのベランダでしゃぼん玉を吹かすオジサンという珍妙な光景と出会ってしまうこともあるのだ。

 しかも液の作成にあたってテレビで紹介されるよりも綺麗に長持ちさせられないかと、動画サイトなどで調べてから調合を始めたというこだわりっぷりだ。世の中どの道にも愛好家専門家がおり気軽に情報発信ができる現代とは恐ろしくも便利なものだ。おそらくおかげでしゃぼん玉たちはきめ細やかにあたりを滞留してくれている。綺麗なものだと彼も思う。シンプルな遊びはシンプルであるからこその趣きがあるもののようだ。

 どこか感心しているような彼の姿にヘクトールはおもむろにカメラを向ける。

 「……何?」

 「いい画だよ」

 「いい画かなあ」

 しゃぼん玉に囲まれている自分など、どこに美的なそれを感じろというのか。しゃぼん玉は綺麗であるけれど。それ故に自分が邪魔というか。

 厳しめな顔をしている彼にヘクトールは「分かってないなあ」と言わんばかりの顔をするだけだ。写真を撮る手は止まらない。

 まあ、ヘクトールが楽しいのならいいけれど。

 そう思いつつヘクトールの手から離れたしゃぼん玉の液の器とストローを手にしてそっと吹く。…………久しぶりにやってみるとなかなか楽しいものだ。細かに浮き遊ぶしゃぼん玉たちに彼もまた密やかな高揚が湧いてくる。確かにたまにやるなら楽しいかもしれない。

 そんな童心を蘇らせつつある彼の姿も良いものだとヘクトールはまた写真と動画を収めていく。何とも言えない気持ちになってそんなヘクトールに向けてしゃぼん玉を吹きつける。

 持ちのいい細やかでカラフルなしゃぼん玉たちが、ふわふわ、ふわふわ、ヘクトールの周りをふわふわわ……………………

 「ヘクトール。ひとまずちょっとスマホを下げてくれないか」

 そう言いながら彼また、おもむろにしゃぼん玉の液の器とストローを置き、カメラのレンズをヘクトールへと向けた。

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