「しばらく神社の手伝いボランティアに参加することにしたから」
その言葉に、ヘクトールの心身が一瞬強烈に硬直した。
「期間は短期、だと思うんだがな?近くの神社の神主が怪我をしてしまったらしく。この年末に向けて忙しい時期だ。せめて雑務だけでも代行してほしいと募集をかけていたんだ」
「……それで、ほっとけなく、」
「そう。こういう時はってやつ」
困っている人が放っておけなく己の身を切ることに躊躇いがなく苦でもない。大変彼らしい。それが真っ先に出てくる感想だ。
しかし、と、身勝手ながらに思ってしまう。我ながら弁えのないいい身分になったものだとつくづく思う。
「バイトのスーパーも年末は書き入れで手は抜けないから少し申し訳ないくらい家の中でもせわしないかも。だから今のうちに言っておこうかと。まあ忙しいと言っても倒れるほどではないだろう。そのあたりの心配はしなくていい。……あ、そういえばヘクトールのほうの予定は?」
「あー……、マスターほどではないが少々。お父上の方から年内に片付けておきたいと詰め込まれたのが何件かと、いやもしかしたら緊急でもう少し増えるかも~?内職の方も駆け込みで数件多めに。だから日によってはお忙しいマスターをほっといて留守にしてる可能性もあり、」
「それはたいへ、ん?えっ!?もしかして家事の当てにされてた!?だとしたら相談もなしに申し訳なく、いや、どう……、いや、夜にまとめてやればまあうん!」
「いやいや!個々に動いてるんだからそういう時もあるさ。家事なんてちょっとくらい溜めてても問題ない」
虫が涌いただとかどこか何かが腐ったとかない限り。
軽い気持ちで決めた独断専行に恐縮を溢れさせる彼にヘクトールも慌てて首を振る。
それが彼の心身の無理のない範囲であればいいのだ。彼が彼の善性で行動し充実した日々を送ってくれているならそれでいい。そこにこちらの都合を挟んで不自由を強いることの方が許されない。
ただこのどこまでも自由であれる穏やかな日々の中で肥大した自意識がちりちりと、呻くもので、
「ね、年末はあんまりマスターと一緒いられないんだなあって」
「……ぅぇっ?………………ぅおっ、おお……」
そういうことを考えたり言ったりする人なのか。
そういうことを考えたり言ったりする人になったのか。
彼には判別がつかない。
けれどそういう要望を口にするようになったヘクトールには大いなる感動を覚えてしまう。
そうか。ヘクトールは自分と過ごしたいのか。自分と過ごせない日々を悲しいとか寂しいとか思ってくれているのか。
ヘクトールが。
そうか。
ヘクトールが。
ヘクトールが。
自分と、一緒にいたいと、
「じゃ、じゃあお互い時間が出来たらふたりで、ちゃんとゆっくりしような」
「……はい」
動揺の抜けない彼のぎこちない提案に消えたいほどにバツの悪いヘクトールはひたすらに縮こまっているしか出来なかった。