その特異点は酷く霧の強い街だった。
少し歩いただけでカルデア支給の合羽がずぶ濡れになるほどの量だった。もはや霧ではなく雨が停滞していると思ったほうが間違いではなさそうなくらいだった。
『藤丸君?聞こえるかい?合羽は外で脱いじゃ駄目だよ?霧には微量ではあるが魔力が含まれている。君には毒耐性があるけどそれでも油断は禁物だ。毒でなくても身体に影響を与える成分である可能性もありえる。十二分に気を付けて調査をしてくれよ』
「了解」
そういえば前に、毒ではない単純な魔力雨に打たれて単純な魔力暴走を起こして死にかけたこともあったっけなあ。
苦い思い出というより恥の強い思い出として彼は神妙に目を伏せる。あれは大変良くない、本当に良くないやらかしだった。何せその体内暴走で死にかけた上にヘクトールに強制吸引措置を施してもらってなんとかなったという非常に情けない具合だったのだから。魔力雨のおかげであんな恥ずかしい光景はカルデアに知られなかったのは不幸中の幸いであった。であったが、二度もやらかしていい失態ではない。今度こそ記録されてしまっても困る。強く強く警戒をしなくては。
「んん?でも」
改めて強く意を固めたところでふと思う。
「ヘクトール……、んん、サーヴァントは平気なの?」
「んん〜?」
隣で濃霧の通りにぐっしょりと濡れているヘクトールが呑気に声を漏らし
「今のところ特に何ともありませんが、まあ念の為仕切り直し回し続けてりゃいいでしょ。それで弾けないならそんとき報告しますよ」
「そう?」
それはそれで大変そうだなあ。
合羽がサーヴァント分も用意出来る余裕があったら良かったのになあ。
なんなら今すぐ脱いで貸したいくらいだ。
けれど一番魔力に耐性がなく一番防備をしっかりしていなければならないのは自分なのだ。先にも反省したとおりそれで恥を重ねるのは自分なのだから。
出かける言葉を寸でのところで閉ざして何でもないように黙する彼にヘクトールはやわく笑って頭を撫でる。「気持ちだけでありがたい」とか「よくできました」なんて言わんばかりに。
それはそれで、馬鹿にされてるような。
少々口を尖らせている様子の彼にヘクトールも気付いたらしい。やわい笑みに少しばかりいじわるさが混ざっていく。撫でる手も少しいたずらっぽい雑さになっていく。
以心伝心も場合によっては考えものだな!
出せぬ不服を再び飲み込み「もういらない」と子供っぽく拗ねたように撫でる手を払い、再び調査のために霧の濃い街の奥へと身を沈めていった。