ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

4 / 39
毎晩用意しています

 何だか腹がすいてきているかもしれない。

 自室でキーボードを打つ彼がぼんやりと天井を見上げる。

 時間は深夜。朝はまだ遠い。ふと覚えた空腹感は我慢出来るといったら我慢出来る。しかし一度意識してしまったら気になってしまうもので集中力が……。どうしたものか。

 キッチンに向かい冷蔵庫を開ければ食べられるものはいくつかあるだろう。しかしそれが食べていいものかどうかが分からない。この家のキッチンの主はヘクトールであるためにどれが朝のための材料なのかが彼には分からない。

 カルデアでも時折あったものだ。酒盛りのつまみが欲しいと厨房に忍び込み「朝食の仕込みを食べるんじゃない」と朝からお叱り騒動に発展していたりしたのだ。

 それはとても良くない。

 ヘクトールはきっと許してくれるだろうけども。

 その優しさが大変居たたまれない。

 具なしみそ汁の納豆ご飯朝食には耐えられてもそちらには耐えられない。

 それならヘクトールに直接聞くのもありかもしれない。

 しかし小腹がすいたというだけで既にお休み中のヘクトールを揺り起こして腰をあげさせるのは申し訳ない。下手すると「なんなら作りましょうか?」という流れになってしまうかもしれない。大変申し訳ない。間違いなく美味しくてありがたいしだから好きなわけだけど。やはり、やはり、やはり……、現在の場合は申し訳なさと手を煩わせてしまっている自分への嫌悪でどうしようもなくなってしまう……!

 しかし気になってしまった空腹は気になってしまうものだ。どうしようもない。画面に向かう集中が完全に切れてしまった。これは何かを口にせねば収まるまい。厄介だ。

 己の不甲斐なさに猛省をしつつも仕方なしに立ち上がりキッチンへと向かう。どうかタイミング良く鉢合わせませんようにと音を殺して足を進める。朝食になるかもしれない食材に手をつけるのは憚られるが牛乳一杯くらいなら問題ないはずだ。

 そう思って、冷蔵庫前まで着き、

 

 『青い蓋のタッパーのは食べていいですよ』

 

 貼られたメモに思わず「oh」と声が漏れる。

 「人を駄目にするヘクトール……」

 その気回りの良さに何度助けられたかなど数えきれないしその倍以上気付いてすらいないものもあるのだろう。感謝してもしきれない。

 しかしそのどこまでも先を行くフォロー力の高さに恐ろしさを感じることもあり…………。間違いなくこれはこの時間であるなら自分はヘクトールを頼ることを躊躇うと分かっている上での対処ではなかろうか……。自分はどこまでこの人の掌の上なのだろう。自立すべきひとりの人間として既に大人となっている年齢である者として今現在大変よろしくない状態なのではないだろうか。

 ……まあ、まあとにかく、今はやるべきことがあるのだ。感謝だけは明日伝えるまで胸に留めて他は考えないでおこう。集中先を間違えてはならない。

 「ありがとうございます。いただきます」

 冷蔵庫に貼られたメモとヘクトールが休む部屋にそれぞれ手を合わせてお辞儀をし、青い蓋のタッパーをありがたく取り出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。