両手で鉢植えを包むように抱えれば青い淡い光を放ちながら苗が育っていく。みるみるうちに果実が膨らんでいく。その光景を見るのが彼はとても好きだった。
「今日使わないエネルギーを貯めておけるって大変素晴らしい革命だと思う」
「どう考えてもブラックに悪用される未来しか見えんのだがね」
「ヘクトールはそういうの考えるのが仕事の人だものな」
「それだとちょっと人聞きが……」
眉を寄せて肩を落とすヘクトールに構わず彼はゆっくりと青く膨らんでいく実りを眺めてぼんやりと思考を巡らせる。
自身の使わぬ体力を外部に保存出来るアイテム。
今この瞬間に無茶をしてでも体力を振り絞って頑張らなくてはならない人。
ギブアンドテイクで成立する売買。
発生する仲介者。
出来上がっていくマーケット。
求められる安定供給に出現してくるたとえ安価であれそれ以外に金銭を得られぬ人々。
人間工場。
それによって永遠に過酷な場所で稼働を強制される人々。
弱者だけで成り立つサイクル。それによって何もせずとも得をする一握りの者たち。
比較的平和に過ごしてきた自分ですらこれくらいのことは容易く想像出来るのだ。ヘクトールならば更に深部を細かに色濃く想像出来るのではないだろうか。もしかしたらこちらが想像もつかない角度での悪用も考えついているのかもしれない。それを事前に察知して取り締まるのも仕事の人なのだから。その先回りのためにいくらでももっと悪辣で巧妙な利用方法など思い浮かべられよう。
最悪、状況によってはそれを利用しなければならない立場の人でもあるのだから。
「溜まった夏休みの宿題の追いこみのためにあったら便利だね、くらいの世の中であればいいのにな」
「マスターは宿題溜めるタイプじゃないでしょ」
「いつでもそうあれるほどちゃんとした人間でもないさ」
実際りんごを育てている暇があるなら訓練や勉強をすればいいというのに楽しいというだけでりんご作りに勤しんでいるわけだし。
3個目の成果と疲労感に彼は満足そうに笑みを浮かべる。金や銀になれないいまいち美味しそうさを感じない青銅であるが、それでも自分で作れたものたちはなんだか嬉しい。いつか食べるのがもったいないくらいだ。
その煌々とした達成感のまま彼は次にヘクトールへと顔を向ける。
「じゃあ今日はどうしようか。明日まで全部空いてるから、あとはふたりで、」
「寝たら?」
「え?」
へらりとした笑顔でぱたりと腰かけているベッドに倒される。
「もう今日の分の体力使いきったんだろ?なら無理は禁物」
「ええ……」
有無を言わす気はないという気迫すらあるヘクトールに、彼は何も返せないまま大人しく布団をかぶせられた。
自分は今日酷くもったいないことをした。
分かっていても今しがた絞りきったばかりの体力では抗うことは出来ず、布団の暖かさに包まれヘクトールの暖かな眼差しに見守れながらすぐさま眠りに落ちてしまった。