ヘクトールとぐだ男の短編まとめ4   作:なまきいろ

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猫の街にて

 本日のレイシフト先にはとても人懐っこい猫たちがいた。

 餌もおもちゃもないのに機嫌良さそうに鳴いてすり寄ってくる。

 適当な段差を利用して肩や頭に飛び乗ってくる。そのまま眠りだす。

 もちろん人懐っこいのはほんの一部でこちらに興味なさそうにお気に入りスポットで日向ぼっこ昼寝に専念している猫もいれば一歩近付いただけであっという間に逃げていく普通の猫もいるのだが。やはりこれだけ群がられるのははじめてのことなので、異常事態である。

 しかも管制室によるとそのあたりは別に特異点とは関係ないらしい。このあたりの生活圏に住まう人々がそのような空間を築き上げただけにすぎないらしい。

 なんと素晴らしい。

 こんな天国のような世界を作り上げられる人々というのはどれほど徳の高い人々なのであろうか。どれほど心優しい人々なのだろうか。どれほど共生のために熱心に愛と気配りを重ねてきた人々なのであろうか。ひとりひとりに拝み歩きたいくらいだ。

 そしてそんな人々と猫たちの生活の中に歪みが生じつつあるなんて。許してはならない。早急に被害なく解決しなければ。

 頭や肩でくつろぐ猫をそのままに懐に飛び込んできた猫を抱えたまま決意を固め、すり寄る猫を踏まぬよう注意を払いながら道を行く。待ち合わせ場所までもう少しだ。

 その途中

 「oh」

 「いやーマスター。参っちゃった」

 携帯灰皿を片手に立ち尽くすヘクトールの姿があった。

 その頭や肩や足元にはやはり猫猫猫。

 近寄る似たような状態の彼に困ったように苦笑う。

 「すごいのこの子たち。火も煙もなんのその」

 「火傷とかしたことないんだろうか」

 最早ここまでくると心配になる警戒心のなさだ。

 本当の平和とはこういうものなのだろうか。だとしたら不安にもなってくるが、この状態でちゃんと確立されている文化形態を今しがた来たばかりの自分がとやかく言うつもりもなく。腕の中ですっかり眠りについている丸い毛玉のぬくもりはやはり幸せだ。このような無防備を極めた猫に悪さをしようとする人などいない世界は素晴らしい。世界とはこうあるべきなのでは。猫に集られて煙草が吸えずに困っているヘクトールが見れるのもなかなかに幸せであるわけだし。

 だからここはそれでいいのだろう。

 彼はひとり内心で何度も頷く。

 「そろそろ行こうか。あまり遅れちゃいけない」

 「了解」

 言葉と共にふたりは肩や頭に猫を乗せたまま、足元の猫たちを踏まぬようにしながら並んでもうすぐ先の待ち合わせ場所へと角を曲がれば

 「マスターーーーー。どうしよーーーーーーー」

 公園のベンチに座り彼やヘクトールと同じく肩や頭に、そして膝にベンチの空きスペースにと猫に詰められて困惑を極めているシャルルマーニュの姿があり、ふたりは同時に「おやまあ」と目を丸め声をこぼした。

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