オタク魔王は愛されたい   作:やーなん

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オタク魔王は愛されたい

 

 

 

 ここは世界の果て。

 それは何の比喩でもなく、この“世界”の構造的に最奥の端っこに位置する未開の地。

 

 人類の文明の及ばぬそこに、ぽつんと立派な城砦が建っていた。

 

「姫よ。他人に愛されるにはどうすれば良いと思う?」

 

 その城主が虜囚となった姫君に問う。

 

「少なくとも、他人をかどわかす者に齎されるものではないだろう。

 貴様とは無縁のモノだ」

 

 灯りの無い薄暗い室内では、人間たる姫君には相手の顔色を伺い知れない。

 

「それは違うな」

 

 姫君には、暗がりの奥の異形の城主が笑ったような気がした。

 

「真に愛されるとは、記憶に残り続けるということだ。

 人から人への伝聞、書物などの記録への媒体。

 或いは、誇張された創作物でも同じだ」

 

「……人間同士が愛し合うことは、真の愛では無いと?」

「そうは言わない」

 

 異形は姫の言葉を否定しなかった。

 

「だが、愛のカタチとは主観と客観によって変わるモノだ。

 当人同士では深く愛し合っていても、他人から見れば歪な共依存かもしれない。

 次代や背景、或いは性別。それによって事細かく変わるものだ。

 ────姫よ、お前にはそう言う相手は居るかな?」

「………………」

 

 暗闇の主の言葉に、姫は答えなかった。

 

「私はね、この目でそれを見てみたいのだ。

 心行くまで堪能したいんだよ」

「悪趣味な」

「君にも好きな童話や英雄譚くらいあるだろう? 

 所詮それも他人の人生。それらを読んで心沸き立ったことの無い者のみだよ、それを言えるのは」

 

 最果ての地を覆う暗雲を切り裂くように落雷が落ちる。

 窓から一瞬入った光によって、異形の城主の口元に笑みが浮かんでいるのが見えた。

 

「そしてその為に、姫よ。君を誘拐したのだ」

「意味が、分からない……」

「理解を求めようとは思わない。

 これは個人的嗜好、延いてはお前たちの為なのだ」

 

 異形が指を鳴らす。

 雷鳴が轟き、かの存在の邪悪な笑みが浮かび上がった。

 

 

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 人間にはあらざる部位を備えた、異形の魔人。

 彼女を形容する言葉は、一つしかない。

 

 ────即ち、魔王、と。

 

 

 姫はその威圧から息を呑んだ。

 

「姫を客室へ通せ」

「はッ!!」

 

 異形の王に相応しい、異形の部下が姫を連れ立つ。

 

「やめろ、触るな!!」

「大人しくしろ」

 

 屈強な部下たちに連行されていく姫君。

 その後ろ姿を嘲るように、魔王の口から愉悦の声が漏れた。

 

「くくくッ、くははは、あははははは!!」

 

 その笑い声は、この世界に混沌を齎す邪悪の産声であった。

 

 

 

 §§§

 

 

「我が部下、ハウザーよ」

 

 玉座に腰かけ、退屈そうにしている魔王が部下を呼んだ。

 

「は、魔王様。ここに」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 現れたのは、厳つい表情の人外だった。

 爬虫類の肌と、亀の甲羅を鎧のように纏ったリザードマンの亜種である。

 

「なぜこの私が、姫君を誘拐したか分かるか?」

「残念ながら、拙者のような武骨者には魔王様の深謀遠慮は想像にも及ばず……」

「はあぁ」

 

 魔王はあからさまに溜息を吐いた。

 

「本当に分からないの?」

「申し訳ございません」

 

 魔王は部下の応対に露骨に失望の表情を見せた。

 

「どうしてわからないの? 

 この世で最も偉大な悪役(ヴィラン)にそっくり名前してるカメ人のくせに」

「拙者の名前が某配管工のライバルの名前をあやかって付けられたのは承知しております。

 しかし拙者は火を吐いたり巨大化したりは出来ませぬ」

 

 魔王はチッと舌打ちをした。

 

「せっかくこの私が、少数部族だというお前たちを取り立ててあげたのに。がっかりだわ!!」

 

 魔王の失望にもなんのその、緑顔の部下は表情を崩さない。

 

「我が一族を取り立てて頂いたご恩は忘れません。

 我ら一族、魔王一族ではなく魔王アキバ様にのみ忠節を誓う所存でございます」

「あー……忠誠とかそんなのどうでもいいから」

「…………」

「で、なんで私は姫を誘拐したと思う?」

「さて。拙者の浅学の身にはとてもとても」

 

 魔王は数分の間の会話で何度目かの溜息を吐いた。

 

「我が母は邪悪の女神リェーサセッタ。

 勿論知っているわよね?」

「そこまで耄碌してはおりませぬ!!」

 

 ハウザーは慌てて首を振った。

 

「文明の女神メアリース様に並び立つ、人類の管理者。

 偉大なる御二柱の下でその名と偉業を知らぬほど、白痴ではありませぬ!!」

「そう、そして私はその二柱の神々からこの世界の管理を任された」

 

 魔王にとって、この世界は赴任先の外国の辺境に過ぎない。

 先ほどの姫君も、魔王にとっては発展途上国の村の長の家族程度にすぎなかった。

 

「どうせならもっとネット環境が充実した文明社会に派遣されたかったわ」

「胸中察し申し上げます」

 

 人類とは程遠いハウザーも、女神メアリースの庇護下で人権を得た魔族であり、その扱いは普通の人間と同じだった。

 だから彼は小学校にも通っていたし、普通自動車免許も持っている。

 人並みにインターネットの便利さも知っているし、この世界のように中世ヨーロッパ並みの文化レベルの世界に派遣されると知って不便に思うくらいには文明の利器にどっぷり浸かっていた。

 

「私は母と、そしてメアリース様に見出されて魔王一族の一員になった。

 その最初の仕事がこれなわけよ。

 ハウザー、もしかして私って冷遇されてない?」

「まさか、そんなことは……」

 

 ハウザーは即座に否定したが、神々の判断を推し量るなんて不敬だと思ったので、深くは考えなかった。

 

「……私は邪悪の女神の娘。

 どう足掻いたって悪役。なら、みんなに愛される悪役に成りたいと思うのは自然な事じゃない?」

「はあ……」

 

 ハウザーはこの突拍子も無い話をする上司に適当に相槌を打った。

 

「人類の進歩は、模倣より始まるわけ。

 だから私も、マネから始めてみることにしたのよ!!」

「それで、誘拐ですか」

「お姫様の誘拐は、ギネスにも載った悪役の常套手段でしょ!! 

 あの赤い配管工と言わずとも、姫を助け出さんとする勇者が現れてくれるに違いないわ」

「……」

 

 ハウザーは敢えて何も言わなかった。

 

「そうやって、この世界には魔王の脅威が有ると知らしめ、それに立ち向かう人間の尊さと美しさでこの世界は平和が齎されるのよ」

「素晴らしいお仕事だと存じます」

 

 魔王の管理とは、脅威として統治。

 人間を最も殺した生物は何か? 

 

 一説に寄ると、それは蚊である。

 では次は? そう、人間だ。

 

 人間はすぐにお互いを疎み、妬み、憎み合う。

 愚かで、愚鈍で、学ばない。

 

 故に、魔王が君臨する。

 

 人間同士が憎み合い、殺し合うなんて暇を与えないように。

 誰にとっても共通の敵と言う、都合の良い悪役を用意するのだ。

 

 それが一番合理的であると、人類の造物主は判断した。

 だから魔王が遣わされる。

 

 それが魔王アキバに与えられた任務だった。

 

「御二柱にとって不要な世界を滅ぼす、“伐採”の仕事よりはよほど」

「……まあ、そうよね。

 皆殺しにする仕事だったら、愛されるどころじゃないもの」

 

 人類の存在する世界は膨大で、その“維持コスト”の削減もまた魔王の仕事だった。

 尤も、その仕事が現場で歓迎されているわけではないのは、ハウザーの物言いから明らかだった。

 

「この世界の管理は私に一任されているけど、魔王軍を呼び出して人類を疲弊させる手は取りたくないのよ」

「愛されなくなる、からですか?」

「犠牲は少ない方が良いでしょ?」

 

 この管理のスタンダートなやり方は、魔王が人類の脅威としてあり続けることだ。

 つまり、人類全体をほどほどに攻撃して、国力を消耗させる方法である。

 

「崇高なご意思であると思われます」

「でしょう? 

 それで、姫君誘拐国家わからせ作戦なわけよ。

 こっちから一切攻撃をしない。各国の要人を誘拐して、その奪還に注力をさせ、国同士の争いを無くすわけ」

「そう上手く行くでしょうか」

 

 武人肌のハウザーにもガバガバと分かる作戦だったが、彼は恩人たる魔王に具体的な代案を出せるほど賢くは無かった。

 

「大丈夫、大丈夫。全部上手く行くって!! 

 そうすれば余裕で平和になるって」

 

 そして、無邪気にそんなことを信じている魔王に、彼は何も言えなかった。

 

 

 そして、半年後。

 

 

「……なんで誰も来ないわけぇぇぇえええ!?」

 

 魔王の叫び声が、魔王城に響き渡った。

 

 

「姫よ、どうして誰もお前を助けに来ない?」

「魔王様は御自分の行いをお忘れですか?」

 

 魔王の私室、そこで魔王は姫君とボードゲームをしていた。

 

「次は拙者の番ですな」

 

 ハウザーがルーレットを回すと、針は7の数字を示した。

 

「七マス進む……ええと、このマスは結婚していれば子供が増えるですな」

「ゲームでも子だくさんだなハウザー」

「ははは、照れますな」

「次のターンですので給料を配布しますわ」

「ああ、ありがとう」

 

 姫君がゲーム用の通貨を全員に配布する。

 

「次は魔王様の番ですぞ」

「わかった。……それで、なぜ誰も姫を助けに来ない」

 

 魔王がルーレットを回す。

 

「拙者が思うに、魔王様が姫君を誘拐した際の騒動が原因では」

「何がよ」

「思い出してくださいませ」

 

 ハウザーは当時の事を語る。

 

 

 魔王アキバがこの世界に赴任した直後の事である。

 

「ハハハハハ!!!」

 

 彼女は最寄りの国の王都を襲撃した。

 

「我、魔王なり」

 

 魔王に従う少数部族のリザードマン──タートルマン達を従え、城下町の門を正面から破壊して凱旋するかの如く城まで練り歩いた。

 

「魔物どもを城へ行かせるな!!」

 

 当然、武装した衛兵たちが押し寄せてくる。

 それに、魔王の趣味でハンマーで武装したタートルマンの親衛隊が前に出ようとしたが。

 

「お前たち、その必要は無い」

 

 魔王が部下たちを制した。

 

「人間、忠節大義である」

 

 魔王は微笑んで、衛兵たちを労った。

 

「その無謀さに免じて、命は助けてやろう」

 

 彼女がその手を翳すと、暗黒の波動が衛兵たちを襲った。

 それを浴びた衛兵たちは悶絶しながら苦しみ始めた。

 

「うがあああ!!」

「か、体が、体がああぁぁぁ!!」

「だれか、たすけ」

 

 そして恐怖は巻き起こる。

 衛兵たちの身体が見る見る崩れていき、変貌したのだ。

 

「ひ、ひえええ!!」

 

 その有様を辛うじて呪いを受けなかった衛兵は間近で見てしまった。

 

「んごー」

「んごごー!!」

 

 衛兵たちはキノコ人間、マタンゴに変えられてしまったのだ!! 

 知性を失い散っていくマタンゴたちに、住人たちは悲鳴を上げる。

 

 そして魔王の一団は城門へと辿り着いた。

 

「開けたまえ。この世界の管理者のお出ましだ」

 

 当然ながら反応は無い。

 

「まったく」

 

 魔王はおもむろに城門に歩み寄ると。

 

「ふん!!」

 

 蹴り破った。

 両面開きの門は、まるで張りぼてのように倒れた。

 

 立ち塞がる近衛兵をマタンゴに変えながら、魔王たちは城内を練り歩く。

 

「魔物め、何が目的ですか!!」

 

 魔王は目的を果たそうと、部下に命じて王族を探させた。

 そうして見つけたのが彼女だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ふーむ、採用!!」

 

 この紅いドレスの姫君を舐めまわすように見ると、人質として誘拐することに決めた。

 

「よく聞け、王族ども。

 我は魔王。魔王アキバなり。

 この姫君は預かろう。返してほしくば取り返しに来い。

 それが出来なくば、お前たちはこの私に屈したと言うことだ。あははははは!!!」

 

 残りの集めた王族の前で、魔王はそう宣言した。

 そうして、話は冒頭に戻る。

 

 

「……我が国は数ある国家の中でも弱小の部類。

 近年各国間の緊張は高まりつつあります。私を助け出そうとする余力は無いでしょう」

 

 ハウザーの回想に姫君が締めくくった。

 

「ましてや、このわたくしは隣国との婚姻によって同盟をする手筈でした。

 それがご破算になったと思えば、我が祖国は今頃滅びていてもおかしくはありません」

「お前の国は、自分の国の姫よりも自国の存亡が大事だと?」

「それが普通ですわ」

「……」

 

 魔王はマスを進める。

 止まったマスは、銀行の大暴落。手持ちの全ての資金を失うだった。

 

「……どうやら、私が間違っていたようだわ」

 

 魔王は結局そのままリカバリーできず、最下位でゲームは終わった。

 

「では、魔王軍を編成して戦争なんて出来ないくらい各国を消耗させる方向にしますか?」

 

 ハウザーが魔王に問うと、彼女は首を横に振った。

 

「恐怖で支配はスマートではないじゃない。

 それにメアリース様は人類の文化的発展をお望みだし。

 ここで有能さを示して、お母さんにも褒められたいし」

「ではどうなさりますか?」

「……よし、決めたわ」

 

 魔王は次なる一手を示した。

 

「全ての国々の姫君を誘拐しよう」

「…………御意」

 

 こうして、ハウザーたちの次の仕事が決まった。

 

 

 

 

 

 





今作は「オタク魔王は推しに殺されたい」のリメイク版でもあります。
あちらは方向性がちょっと思った方にいかなかったので、後でこっちに組み込むかもしれません。

昔から二次創作とか書いていますが、挿絵を入れるのが夢でした。
私はキャラクターの服飾とか見た目を表現するのが苦手で、イメージを形にできるAIイラストは技術の進歩に感動すらしました。長年の夢が叶ったのです!!
とりあえずメインキャラの登場時だけにしますので、あしからず。

それでは、また。
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