オタク魔王は愛されたい   作:やーなん

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対談 後編

 

 

 

 少女Bのウソに困惑する二人に、焦れた魔王は問う。

 

「そろそろ答えは出たか?」

「最後に一個だけいい?」

 

 ゼルダリは少女Bに問うた。

 

「なんで嘘を吐いたの?」

 

 それに対して、少女Bの反応は顕著だった。

 

『何を言っても、信じないくせに!!』

 

 それは侮蔑と、怒りだった。

 それで納得がいったのか、ゼルダリは頷いた。

 

「そう。わかったわ」

「なあ、いったい何がどうなんだ?」

 

「私はクイズの答えを求めているんじゃない」

 

 答えを共有しようとする二人を、魔王は遮った。

 

「お前たちがそれぞれどう感じて、どちらを信じるかを答えろ」

 

 魔王は両方の見解を問うている。

 二人の意見を統一した答えを求めているわけではなかった。

 

「まずは、勇者からだ」

 

「……私は、どちらにせよ、嘘はいけないと思う。

 真実がどうあれ、混乱させることを言うその少女ビーは信じられない」

 

「なるほど」

 

 魔王は勇者の答えに頷いて見せた。

 

「それで、そちらはどうだ?」

 

「……私は、他の誰もが彼女の味方にならないなら、私だけでも親身になってあげても良いと思う」

 

 ゼルダリの視線は少女Bに向けられていた。

 

「そうなんでしょ?」

「だから、どういうことなんだ?」

 

 勇者ファスリーはサッパリ状況が分かっていなかった。

 

「では最後の質問に移行しよう」

「いや待て、せめて答えを教えてくれ!! 

 どちらの発言が真実なんだ!!」

 

 細かいことが気になるのか、或いは思わせぶりな魔王の態度が気になるのか、彼は声を上げて尋ねた。

 

「…………前置きをすると、これはどちらを信じたところで、その是非を問うモノではない。

 間違いを選んだとしても、やーいお前のバーカ、みたいなことを言いたいわけじゃない」

 

 魔王は溜息と共に、真実を告げた。

 

「私の主観によると、──正しいのは少女Bだ」

 

「……あなたの、主観?」

 

 それは、答えを明かすのには妙な表現だった。

 魔王は頬杖をついて、こう言った。

 

「そうだ。なぜなら、少女Bとは私の事であり、これはかつて私が体験したことだからだ」

「それは……」

 

『何を言っても、信じないくせに!!』

 

 その言葉が、勇者の脳裏に過った。

 

「突然だった。放課後、私は見知らぬ金銭の貸し借りで教師に呼ばれ、誰も居ない教室で聞き取り調査をされた。

 当然、私は身に覚えがない。翌日、私に金を貸したという少女Aも交えて教師たちは聞き取りを始めた。

 当然、話は平行線だ。相手は私に金を借りたと言い、私は身に覚えも無かった。

 毎日放課後に数時間。それが二週間続いた」

「…………」

 

 絶句する勇者を見て、魔王は喉の奥を鳴らすように笑った。

 

「そして、いい加減解放されたくなって、馬鹿な小娘は一時の身の自由の為に嘘を吐いたわけだ。

 自分の家の戸棚に隠しているだなんて、我ながらもっといい嘘を吐けたとは思わないか? 

 そして、それが浅はかな行為だと、自宅に帰った私は半狂乱で家中の戸棚を漁っている母親を見て悟ったわけだ」

「それで、結局どんな風に決着がついたの?」

 

 ショックを受けている勇者に代わり、ゼルダリが問うた。

 

「うやむやになった」

「は?」

「連日の尋問に、ただの十歳ぐらいのガキには精神的に耐えられず、食事も通らなくなった。

 それに見かねた私の当時の母親は学校に抗議した。

 それで終わり。翌日以降は何事も無かったし、誰もそのことを蒸し返さなかった」

「ふ、ふざけてる!!」

 

 あまりにもあんまりな対応に、ファスリーは怒りで肩を震わした。

 

「私の為に怒ってくれるのか? だと嬉しいな。

 それとも、薄給で忙しいらしい教師どもの無能さに憤ったのか? 

 少なくとも連中が忙しいのは大嘘だろう。一人の少女を毎日寄ってたかって無意味な尋問する余裕があるんだからな」

 

 そう言えば、と魔王はニヤリと笑う。

 

「女神チョコルも、生前は教職だったらしいな」

「チョコル様は関係ない!!」

「そうだな。私が、年上と言うだけの教師と言う肩書を付けた連中に失望したのと、女神チョコルは関係はない」

 

 魔王は勇者の反応を一通り楽しむと、話題を断ち切るようにこう言った。

 

「さて、最後の問いかけだ」

 

 魔王の最後の問いかけ、それは。

 

 

「お前たちにとって、最も大事なモノを奪った相手に、復讐をするか否かを答えろ」

 

 

「……復讐、だと」

「調和を重んじるチョコル教の教典には、復讐は厳罰に処すると書かれているらしいな。

 だが、私はお前たちの意見を聞きたい。答えろ」

 

 主神を小馬鹿にされ、乱れていた精神を落ち着かせるとファスリーは答えた。

 

「当然、復讐は全体の調和を乱す。

 復讐は復讐を呼び、秩序が崩壊する。

 復讐する相手が悪なら、それは法によって罰せられるべきだ」

「じゃあ、例えばその相手がチョコル教の頂点、法王が相手だったらどうする?」

「なに?」

「お前の復讐の相手が、お前の所属する組織のトップだ。

 当然、お前の大切なモノを失った一連の出来事はもみ消されたし、誰もが知らんぷりをする。

 お前は泣き寝入りするほかない。お前は調和を重んじ、それで納得するか?」

 

 つまり、この質問の本質はこうだ。

 

「お前の犠牲による調和か、自身の納得の為に行動を起こすか」

 

 その回答は、ファスリーの脳内にはインプットされていなかった。

 彼にとって自身の正義に矛盾する内容は、考えもしたことがなかったのだ。

 

 彼は、思わずゼルダリに縋るように視線を向けた。

 

「私はそもそも、ここに来た時点で答えは出てるわ」

 

 ゼルダリは何も変わらず、言い切った。

 そもそも、調和を求めるなら彼女はここに来てはいけなかった。

 今まさに、彼女の故郷の村に魔物が現れ被害が出ているかもしれないのだから。

 

「私はあなたが気に入らない。

 こんな無意味な問答を含めてね」

 

 彼女のその答えに、魔王はパンとと手を打った。

 

「面白い、推せる!!」

 

 この上なく魔王を敵視する発言を、他でもない魔王は喜んでいた。

 

「それで勇者、お前は?」

「……」

 

 嬉々として問いかける魔王に、勇者は深く息を吐いてこう言った。

 

「今、ここに居ることこそ、私が調和の為に身を捧げたと言う証。

 私にとって一番大事なのは、お前を倒すことだ」

「うーん、なるほどなるほど」

 

 全ての問答を終え、魔王は己に結論を見出した。

 

「ねえ、私がこの世で一番嫌いなモノって、何かわかる?」

 

 唐突な話題の転換。

 問いかけられている二人には、話についていけなかった。

 それにも関わらず、魔王は話を続ける。

 

「私が一番嫌いなモノ、それは、────テンプレだ」

「てんぷれ?」

「物語にあるでしょ? 王道モノのストーリーとか。

 所謂、型通りの鉄板な展開よ」

 

 それは二人にも理解できた。

 だけど、なぜそれが彼女は気に食わないのか。

 

「別に王道を否定しているわけじゃない。

 この世の全ての物語なんて、大昔から変わっていない。

 だけど、物事には限度がある。

 一年を通して似たような設定のアニメが垂れ流されたり、それを喜んでる連中を見ていると虫唾が走る」

 

 だから、と魔王は勇者を見やる。

 

「だから勇者、お前は推せない。

 お前にはもっと勇者たる精神的設定(バックホーン)が足りない」

「なにが、言いたい!!」

「お前はからっぽで、薄っぺらいって言ってるんだ」

 

 魔王はほむべぇからメモ用紙を受け取ると、さらさらとそこに文字を記した。

 

「もしお前が、もっと勇者らしい設定を備えて私の前に現れたのなら、その時は今度こそ、殺し合いをしてあげるよ」

 

 メモ用紙で紙飛行機を折ると、すっと魔王は二人に向かって投げつけた。

 

「そこに、私と戦えるようになる条件を書いておいた。

 ぜひ、各国に周知しておくことだ。

 私はいつでも、“本物”の勇者を待っている」

 

 魔王が手を振る。

 その直後、無数のカメ族が入り口から雪崩れ込んできた。

 

「御客人、魔王様はお疲れだ。お帰り願おうか」

 

 入口への道を残して、ハウザーが威圧的に言った。

 

「……今日は帰りましょう」

「…………」

 

 両手を握り締めて震えているファスリーの肩を叩いて、ゼルダリは彼を伴って退出する。

 

 こうして、魔王と勇者の初めての邂逅は終わった。

 

 程なくして、押し殺すような笑い声が玉座の間に響いた。

 

「……魔王様?」

 

 振り返ると、魔王は自嘲気味に昏い笑みを浮かべていた。

 

「からっぽで、薄っぺらい、か……」

 

 

 

 §§§

 

 

「これからどうしようかしら……」

 

 ゼルダリは紙飛行機を崩して、メモの内容を読んだ。

 魔王の固有スキルは四段階に分かれている。

 そして皮肉なことに、第一段階はもう既にクリアしていた。

 

 固有スキル第一段階、“魔王の顔見世”。

 それは、魔王と直接対峙すること。

 

 事実上、一度戦って負けなければいけないわけである。

 

「……私は、一度本国に戻って報告をしようと思う」

「まあ、それが無難かもね」

 

 魔王と戦うには、個人だけでは限界がある。

 それに、この情報を本国に伝えるべきだと、ファスリーは判断した。

 

「君はどうするんだい?」

「私はまだ目的を果たしていないもの。

 しばらくは協力しましょう」

「それは、願っても無いことだけど」

 

『それはやめた方が良いと思いますよ』

 

「チョコル様?」

 

 しばらく黙っていた内なる女神が、言葉を発した。

 

『今本国に戻ったところで、貴方は殺されるでしょう』

「そんな、馬鹿な!! なぜ!?」

『私は忠告しましたからね』

 

 それっきり、女神は彼に答えなかった。

 

「戻ったら死ぬ? 一体なぜ?」

「どうしたの? チョコル様はなんて言っているの?」

「いや、何でもない……」

 

 ファスリーはかぶりを振った。

 

「とにかく、この情報を本国に伝えないと」

「ねえ、ファスリー。一つだけ聞いていい?」

「なんだい?」

「この情報が、嘘だったらどうするの?」

 

 ゼルダリの指摘に、ファスリーは固まった。

 

「まさか、魔王が寄越した自分の弱点を、鵜呑みにするの? 

 あの、嘘吐きの言葉を」

 

 そう、魔王は嘘吐きだった。

 しかも、その場しのぎの安易な嘘をする人間だった。

 

「じゃあ、どうすれば良いんだ!!」

 

 彼は、声を荒げる他なかった。

 

「私はこのままだと魔王に相手にされず、おめおめと本国に戻るほかないじゃないか!! 

 何の成果も無いよりはマシじゃないか!!」

「なるほど、魔王の言う通りだったわけね」

 

 逆上した彼に、ゼルダリは冷や水を浴びせるようにこう言った。

 

「あなたは、勇者として必要とされないことを恐れている。

 勇者じゃないと、あなたはからっぽだから」

「違う!!」

「何を勘違いしているの、あなたは!!」

 

 ゼルダリが彼に向き直る。

 

「人間は誰だって初めはからっぽよ。

 今の時点でからっぽでなによ!! 

 それとも、あなたは自分の中身をその卑屈さで占めるつもり?」

「そんなわけじゃ」

「ならいつまでもウジウジしてないの!!」

 

 彼女はそれだけ言うと、先に歩いていってしまった。

 

「ま、待ってくれ!!」

 

 慌ててファスリーは彼女を追いかける。

 

 こうして、二人の道連れは続いて行く。

 まだまだ長い、苦難の道を。

 

 

 

 

 





対談はこれにて終了。
魔王の体験談は、作者のほぼ実話になっています。
もう二十年以上前の話なので、もう気にしてはいませんが。

次回は急展開になる予定です。

高評価や感想を下さると、作者のモチベーションと更新速度がアップします!!
それでは、また次回!!

あなたはどちらを信じてくれますか?

  • 少女A
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