オタク魔王は愛されたい   作:やーなん

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儀式しちゃうぞ☆

 

 

 

「魔王様、家臣たちにこの国の運営状況を資料にまとめさせました」

 

 玉座でマンガを読んでいた魔王はハウザーをほんの少しだけ一瞥した。

 

「ハウザー、それを見て問う思った?」

「はっ。当たり障りのない内容かと」

「そんなの見るまでも無いじゃない。

 どうせ不正と専横が蔓延って、貴族たちは利権を独占してるに決まってるでしょ」

 

 魔王はマンガを閉じて、肘置きに置いた。

 

「私は口出しをしない、と言ったわ。

 国家の運営なんて彼らのやりたいようにすればいいじゃない」

「そうは申されましても……」

 

「魔王様」

 

 女王用の玉座に座って魔王と同じくマンガを読んでいたペスカ姫が視線を横に向けた。

 

「国家の運営に口に出さないことと、不正や横行を見逃すのはまた別の事なのでは?」

「まあ、確かにね」

「例えば横領は国家の金銭を盗むこと。

 それを断罪すれば、魔王様の求心力が上昇すると思われますが」

「なるほど……」

 

 魔王はニヤニヤと笑いながらペスカ姫をみやった。

 

「姫君の策に乗ってやろう。

 ハウザー、メアリース様の端末を借りるぞ。

 とりあえず、王城内から不心得者を一掃するわよ」

「御意のままに」

 

 ハウザーが頭を下げた。

 

 そして程なくして、準備が出来たと報告が来た。

 魔王はペスカ姫を伴って中庭へやってきた。

 

「良い夜ね。召喚魔法を使うには雰囲気だわ」

 

 勿論、雰囲気で魔法を使うわけではない。

 

「ババ様たち、補助装置の準備は良いか?」

「ひひひ、勿論じゃよ」

 

 中庭の中心には、タートルマンの呪術師らしき老婆が魔法陣とその周囲に結晶型の演算機を設置していた。

 

「では、始めよう」

 

 儀式の始まりを遠巻きに見ている城内の人間達を見まわし、魔王は上機嫌に微笑んだ。

 

「──まず初めに、天空から一条の雷火ありき」

 

 詠唱が始まる。

 結晶型の演算装置が光り始める。

 

「我ら人類は、夜の闇に怯え、獣に怯え、洞窟に隠れ生きていた。

 天から齎された稲妻は、閃きの萌芽なり」

 

 膨大な魔王の魔力が、次元を無理やりこじ開けようと唸りを上げる。

 

「そして我ら人類は火を手にし、闇を払い、獣を退け、洞窟を光りで照らした」

 

 魔法陣が輝き、光の柱となって夜天を貫いた。

 

「今こそ、我らは弓矢で獣を狩り、鉄を鍛え、霊長の頂点へと至る!!」

 

 次元の扉が開き、その奥から人影が現れる。

 

「我らを形作り、知恵を与えたもうた至高の御方よ!! 

 その現身を、この地に遣わせたまえ!!」

 

 そうして、肉を持った女神の化身が召喚された。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ご用向きは何でしょう。魔王様」

 

 その女は、人間そっくりなのに、人間味の無い表情をしていた。

 ただ機械的に、召喚主に問う。

 

「この城内の不正の一掃を頼むわ」

「了解しました」

 

 彼女はぺこりと一礼して、何事も無かったかのように立ち去った。

 

「あの、魔王様。あの御方は誰なのですか?」

 

 大規模な魔法行使なんて始めてみたらしいペスカ姫が驚愕の表情を張り付けたまま問うた。

 

「神の使徒、よ。この私と同じでね」

 

 魔王はそう答えた。

 その意味を、彼女は翌日には思い知った。

 

 

 

「魔王様、こちらがこの城内の上層部の人間と不正のリストでございます」

 

 次の日、玉座の間でマンガを読んでいた魔王に、無表情の顔が報告にやってきた。

 

「あー、そう。じゃあ上位十人くらいを見せしめに処刑しておいて」

 

 魔王は報告書に視線さえ送らず、マンガのページを捲ってそう言った。

 

「承りました」

 

 その指示に、彼女は人形のように機械的に行動を移した。

 

 

「これなるは、王城にて不正を働き、国民の血税を貪り贅を貪って来た豚どもだ」

 

 即日、城下町の広場で、公開処刑が執り行われることとなった。

 

「お前たちの納めた税金も、農民たちが汗水流して納めた農作物も、裏で流して私服を肥やしていたのだ!!」

 

 最初は処刑を取り仕切っていたハウザー達タートルマンに怯えていた民衆だったが、彼らの言葉を聞いて民衆たちは怯えから怒りの表情に変わっていた。

 

「これがその証拠である!! 

 人々よ、見るがいい。これが正当な処刑であると、知るがいい!! 

 これが魔王アキバ様のご意思である!! 

 邪悪は赦す、されど、醜悪は赦されん!!」

 

 大量に印刷された不正の証拠が断頭台の上から民衆にバラまかれる。

 

「彼らは今生の罪を、来世にて償うだろう。

 或いは、邪悪の主リェーサセッタ様の御前にて地獄へ送られる。

 この処刑は、罪科の清算の前触れである」

 

 やれ、とハウザーが命じると、元々王城に居た人間の処刑人が、断頭台に設置されたギロチンの刃を引き上げた。

 

 猿轡をされた、肥え太った家臣が豚のようにもがくが、何の意味も無かった。

 

 ひとつ、首が飛ぶ。

 それがこの日、十度繰り返された。

 

 

「処刑は終わりました。

 残りはどういたしましょう」

 

 処刑を終えたハウザーはその帰りに魔王に報告をした。

 

「不正に応じた財産没収で許してやれば? 

 全員殺したところで立ちいかなくなるでしょ」

「御意に」

 

 ハウザーはホッとした。

 不正の調査リストには、大なり小なり殆どの貴族や家臣が不正を行っていたのだから。

 そららは慣例であったり、暗黙の了解で見逃されていたのも多数あった。

 それらを全部駆逐すると言われたら、城内に役人は消え失せるところだった。

 

 しかし、その翌日であった。

 

「魔王様、役人どもが夜逃げしました」

 

 見せしめがよほど効いたのか、城内の貴族や家臣が半分ほど消えたとハウザーは報告した。

 

「逃げられると良いわね……」

 

 魔王は読んでいたマンガを下ろして、皮肉気に笑った。

 

「王都周辺は魔王様の敷いた結界にて進入路は限られております。

 唯一の出入り口は城砦となっておりますので、そこで拘束されるか野垂れ死にするでしょう」

 

 説明の必要も無いのにハウザーは事務的に答えた。

 

「ああ、でも、どのみち役人は減っちゃったな。

 適当に文官を登用でもしておいて」

「それでしたら魔王様。

 我が祖国から文官を呼び寄せてはいかがでしょう」

 

 ゆっくりと、魔王の視線が真横でマンガを読んでいるペスカ姫に向けられた。

 

「ついでに属国にでもしてしまえばよろしいかと」

「まあ、いいか。新しく文官として育てるのも面倒でしょ? 

 ハウザー、ペスカ姫の言う通りにして」

「……御意に」

 

 彼は魔王の命令に何も言わず従った。

 

 

 

 §§§

 

 

「あっあの、魔王様に上奏したき儀が」

「建前は良いから早く用件を言ってよ」

 

 玉座の間に、謁見を願った大臣のひとりが平伏しながら言った。

 魔王はマンガから視線を向けさえしない。

 

「わ、わたくしめは各地の教会や神聖王国との折衷を担当しておりますが、こっこのままでは我が国は破門され、我が国は周辺諸国から集中攻撃を!!」

「最初に言わなかったっけ?」

 

 マンガ越しに、魔王は目を細める。

 

「私に仕えることに、何の不安があるのかって。

 そんなことはお前が気にすることじゃない」

「しっしかし、魔王様がいらして以来、城下町の信徒たちは教会を頼りにし、ぶ、武装蜂起の準備をしているとの噂が!!」

「なるほど」

 

 ぱたん、と魔王はマンガを閉じた。

 

「じゃあ実際にどうなっているのか、見てきてあげるわ」

「魔王様、危険です」

「危険? 何を言っているの、ハウザー」

 

 魔王の側に控えるハウザーに、彼女は心底不思議そうに首を傾げた。

 

「この世界の安全そのものであるこの私に、なにが危険だと言うのよ」

「……いえ、失礼仕りました」

「丁度、ネタを仕入れに取材に行こうと思ってたのよ。

 この世界の事を描くんだから、この世界の風俗の解像度を上げるべきよね」

「はぁ……」

 

 こうして、魔王は城下町にある教会へ向かうことにした。

 

 

 

「これが、教会?」

 

 その建物を見上げ、魔王は首を傾げた。

 

「大教会の間違いじゃない?」

 

 その建造物は、教会の権威を示すように王城の次にこの王都では大きな建物であった。

 

「素晴らしいですね、我が祖国にもこれほど立派な教会はありませんでした」

 

 と、なぜか魔王に同行しているペスカ姫が感嘆の声を上げた。

 

「魔王様に楯突くのならば、皆殺しになさりますか?」

「必要無いから、親衛隊は下げて良いわ」

 

 心配性なんだから、と魔王はハウザーにぼやいた。

 

「そうはいきません。

 魔王様の行くところに護衛無くば、示しがつきません」

「今日はプライベートなのに」

 

 彼女はそんな不満を漏らしつつ、教会の扉を開けた。

 

 中はさながら野営地だった。

 魔王に支配された王都で、教会にしか寄る辺を持たない民衆たちが毛布一つだけ纏って寄り添うように身を寄せていた。

 

 魔王が王都にやってきて、まだ一週間と経たないのに彼らは憔悴しきっていた。

 

「まッ、魔王だ!!」

「か、神よ、お助けください!!」

 

 ぱちん、と指が鳴る。

 魔王は騒ぎ出した民衆のざわめきを、静寂の魔法でかき消したのだ。

 

「ハウザー、タブレットを」

「はい、こちらに」

 

 魔王はエメラルド製のタブレット端末を受け取ると、内部の様子を撮影始めた。

 

「なるほど、中はこうなっているのか」

「魔王様、正面を」

 

 彼女が天井辺りを撮影していると、ハウザーの声で視線を前に向けた。

 そこには、教会のシスターらしき若い女性が不揃いな装備の男女数名に守られていた。

 

 彼女は何やら鬼気迫る表情で叫んでいたが、静寂の魔法の効果はまだ続いている。

 憐れに思ったのか、魔王は魔法を解いた。

 

「ここは神の家です、立ち去りなさい、魔王!!」

 

「あなたがここの責任者か? 

 若いのにこんな大きな教会を預かるとは感心だ」

「……神官長さまは、お役目に耐えきれずこの地を去りました」

「つまり、逃げたのか。かわいそうに」

 

 魔王が鼻で笑うと、シスターは悔しそうな表情で拳を握り締めた。

 

「ここは調和の女神の御許、あなたのような者が来るところではありません、立ち去りなさい!!」

「憐れね」

 

 シスターは恐怖で震えているし、彼女の護衛達は武器に手を掛けているがそれを振るう機会が無いように心の底から祈るような表情をしていた。

 

「宗教なんて、所詮人心をまとめるだけのツール。

 居もしない神に縋るなんて、ホント人間って生き物は──」

「魔王様」

 

 心底矮小な生き物を見下す視線を向けていた魔王に、今までそこに居なかった無表情の女が現れた。

 

「この世界の宗教に関する資料です。

 詳しい資料をお望みでしたので、お持ちしました」

「ああ、ありがとう」

 

 魔王は資料を受け取ると、ぺらりとページを捲った。

 

「……なんだ。そうだったの!!」

 

 彼女は資料をハウザーに預けると、笑みを浮かべたままシスターに歩み寄り始めた。

 

「こ、この場所は好きにはさせません!!」

 

 彼女もメイスを持ち出し、護衛達も武器を抜いた。

 

「ねえ、一つ答えて。

 あなた達の戦う理由を教えなさい。

 信仰心ゆえに、目の前の悪を排する為?」

「……これを見て、分からねえのか!!」

 

 若い護衛の一人が、周囲を怯える人々に目を向け叫んだ。

 

「この王都は今、あんたの所為でみんなが怯えながら暮らしているだ!! 

 昨日だって、広場で十人も処刑して晒し者にした!! 

 これ以上俺たちを苦しめてどうするつもりだ!!」

「苦しめる? 私がいつお前たちを苦しめた?」

「今まさに、だ!!」

 

 魔王は心底不思議そうに小首を傾げた。

 

「……調和こそが、教会の教え。

 調和を維持することが平穏に繋がる、と。

 そして、それを乱す敵と戦うことも、また仕方なき事……」

 

 シスターも護衛達も、覚悟を決めて武器を構えた。

 

「っふ、ふふふ」

「何が可笑しい!!」

「いや、いやいや。お前たちは二つ、勘違いしている」

 

 魔王は肩を竦めてみせた。

 

「ひとつは、お前たちから奪って、私を満足させるものは何一つとして無いと言う事だ」

 

 彼女はこの国の王の後見人だが、それはそもそも無報酬で、彼女の部下たちは私兵なので彼女が雇っている。

 魔王たちからすれば、こんな文明後進世界の住人から財産を奪う必要など無かった。

 

「そしてもうひとつ」

 

 魔王は意地悪そうな笑みを浮かべて、こう言った。

 

「我が母なる女神リェーサセッタと、調和の女神チョコルは旧知の仲らしい」

 

「……え?」

「他の世界には、居もしない神の威光を笠に着て、自分たちの都合の良い道具として宗教を使い人心を操り、人命を消費するクズどもが溢れている。

 お前たちは違うようだし、王の後見人として改めてお前たちの宗教活動を全面的に認めよう。

 お前をこの王都の臨時の神官長に任命する。これからも主神と教義の為に励むといい」

 

 魔王は呆気に取られているシスターの肩をぽんぽんと叩いてから、踵を返した。

 

「帰るわよ、良い収穫があった」

「御意に」

 

 こうして、魔王たちは教会を後にした。

 

 

 

 §§§

 

 

「意外でしたわ」

 

 城に戻った魔王は、自室として占拠した一室で机に向かっていた。

 そんな彼女の背中に、マンガを広げているペスカ姫が言った。

 

「貴女様は教会勢力を排除すると思いましたのに。

 彼らが団結し、反旗を翻したらどうするのです?」

「あいつらが必要だと思ったのなら良いんじゃない?」

 

 魔王はペンを走らせ、A4紙にラフ画を描いていた。

 荘厳な教会と、一人のシスターの絵だった。

 

「それが、魔王様の崇める母君の教義ですか?」

「メアリース様とお母さんは宗教はやってないから、そういうのはないよ。

 ああいうのって、寄る辺の無い人間が縋るモノでしょ? 

 我らの主上は、ちゃんと実在して恩寵を与えてくれる存在だから。宗教なんて記録としての価値しかないの」

 

 魔王はそう語ったが、この世界で生まれ育ったペスカ姫には理解しがたい価値観だった。

 

「よく、わかりませんわ」

「あなたも目の当たりにしてるじゃない」

 

 ねえ、と魔王が呼びかけると、不愛想で無表情な従者が現れた。

 

「私がお母さんの、こっちがメアリースの化身。

 目に見える神の恩寵そのもの。肉体の無い神々の産み出した、人間社会に介入する為の端末」

 

 それが私達だと、魔王は言った。

 

「そう言えば、あなたって名前とかあるの?」

「製造番号でよければ、ホムンクルスβ型ver4.45621‐beyond master of ────」

 

 そう言って、文明神の化身は長ったらしい製造番号をそらんじた。

 

「長い。略してほむべぇで」

「了解しました。呼び名にこだわりはありませんので」

 

 とか言いつつも、ペスカ姫には彼女がものすごく物申したそうに見えた。

 

「ところで、魔王様。

 先日はあのように召喚の手順を踏まれなくても、本体に連絡を下されば私どもの誰かが派遣された筈ですが」

「そんな分かりきったこと聞く? 

 見た目人間そっくりな貴女に私が城の連中に紹介して誰が命令を聞くっていうの。

 特別な演出が必要だったの」

 

 私もやってみたかったし、と魔王はほむべぇに質問に答えた。

 

「わかりました。

 では、私は他国の侵攻に備えて魔王軍を編成しておきます」

「ちょっと待って。勝手なことをしないで」

 

 退出しようとした彼女に、魔王はペンを置いて視線を投げかけた。

 

「あなたは国内の掌握をお願い。

 この国、コンプラ違反の塊だから」

「……魔王様のご随意に」

 

 ほむべぇは変わらぬ無表情のまま頷いた。

 そして、そのまま魔王に頭を下げた。

 

「我らの主上メアリース様は魔王様の発想に期待しております。

 願わくば、この世界が主上の望む楽園の雛形とならんことを」

 

 

 

 §§§

 

 

 同時刻、ショウロ王国大聖堂。

 

「儀式は成功した」

 

 荘厳な雰囲気の中で、司祭たちが祈りの姿勢のままいるなか、位の高い神官が感嘆の息を漏らす。

 

「女神様の加護が、選ばれし勇者に与えられたのだ!!」

 

 儀式の中心で祈りを捧げていた少年は目を開けた。

 その片目は、人間にあり得ざる輝きを放っていた。

 

「勇者様、どうか魔王を倒してください!!」

 

「はい、それが役目ですから」

 

 少年はその重責に臆することなく、柔和に微笑んだ。

 

 

 





役者はそろいつつあります。
そろそろ物語を動かしたいですね!!

それではまた次回!!
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