魅了ハーレムクソ勇者に目を付けられたけどTS転生した元男の自分には効かなかったので張り倒して逃げました   作:pantra

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テオドールの決意

 

 この世界にはいわゆる魔物と呼ばれる怪物どもがいる。

 魔物どもは世界中のどこにでもいるが、特にダンジョンと呼ばれる一種の魔力結界に覆われた構造体の内部をねぐらとすることを好む。

 

 一説にはダンジョンはかつて神々が魔物どもを封じるために作り出したと言われる。

 また別の学説では、ダンジョンとは世界という一つの生物の鼻腔であり口腔であり膣であり、魔物どもはそれらを守る免疫機能のようなものだとされている。

 

 真偽はともかく、ダンジョンには魔物がいる。

 それはもう、わんさかといる。

 にもかかわらず、人類はダンジョンに潜り続ける。

 

 なぜならダンジョンというのはこの世界の人類文明にとって欠かすことのできない資源の集積所だからだ。

 貴重な鉱物。植物。動物。

 そして魔物。

 

 他では得ることが難しいそれら資源を求めて、人類は危険なダンジョンへ人を送り込む。

 ダンジョンに潜ることを生業とする者たちが、俗にダンジョン探索者と呼ばれる破落戸どもである。

 そして、わたしもまたそんな破落戸の内の一人だ。

 

 

 

 

 ダンジョンから帰還したわたしは、拠点にて傷の治療を受けていた。

 治療してくれているのはクラリッサという名の治癒魔法使いで、祖国から行動を共にしてきたわたしの仲間だ。

 

 今わたしは治療用のベッドの上に全裸で横たわっていた。

 別に好き好んで全裸になったわけではない。

 自らの負傷を申告しない悪癖があるわたしに業を煮やしたクラリッサに厳命され、治療の際はいつも裸に剥かれてしまうのだ。「傷痕が残ったらどうするんです」とはクラリッサの言葉だが、後遺症がなければ痕が残ろうがどうでもいいと考えているわたしとは見解の相違がある。

 

 ともあれ、体中をくまなく調べ上げられたわたしは、その一つ一つに入念な治癒魔法を施されていた。

 ワームのブレスによって焼け爛れて膿み始めていた皮膚もすっかり元通りシミ一つない姿に戻っている。

 ひどいチートもあったもんだ。

 

「姫様」

 

「姫様はやめろといつも言っているのに皆無視をする……」

 

 わたしをうつ伏せにさせ、ダンジョンの壁に叩きつけられた背中へクラリッサが手をかざす。

 治癒魔法の波動は最初じんわりとした温もりのような形で伝わり、やがてそれはちくちくとした痛みとも痒みともつかない感覚へ変わる。

 治癒魔法は細胞を急速に修復するため、程度によって強い痛みを発する。

 ちなみにこれまでの人生でわたしは治癒魔法を受けて失神が五回、失禁は三回ほど経験がある。

 なお今回の焼け爛れた皮膚の治療は悶絶する程度で済んだので、内心ほっとしていた。

 

「再三申し上げていますが、どうかご自愛を。治癒魔法で表面上の傷は治せたとしても、代償として寿命を削ります。あなた様はあまりにもご自身を軽んじすぎる」

 

「魔物相手だ。怪我の一つや二つするだろう」

 

「姫様が矢面に立たずともよいでしょう」

 

「だがわたしが一番強い」

 

「それは……」

 

 クラリッサの治癒魔法が背中から尻に移行する。

 あまり他の仲間へ大きな声では言えないが、治癒魔法は皮膚の炎症、つまりかぶれや爛れも外傷として修復してくれるので実に重宝している。

 何といってもダンジョンでのトイレ事情は劣悪かつ不衛生を極めるのだ。

 最初にクラリッサに申し出た時は死ぬほど恥ずかしかったが……。

 

「わたしがあの変態クソ勇者に目を付けられたばかりに、お前たちを巻き込んでしまった。だというのに皆文句も言わず、祖国での栄達を捨ててまでわたしについて来てくれている。その大恩には必ず報いるし、この身がどうなろうと厭いはしない」

 

 脚を開いて股座の治療を受けている最中に言っても格好がつかないのは承知しているが、これは紛れもない本心だ。

 今の仲間たちは正真正銘わたしの家族だ。

 血の繋がりも身分も、そして前世も関係ない。

 家族のためならばこの命など少しも惜しくはない。

 

「だからクラリッサ。お前が案じてくれる気持ちはありがたく受け取るが、これからもわたしは皆の先頭で剣を取るぞ」

 

 わたしの言葉を聞いたクラリッサはしばらく沈黙した後、諦めたようにため息を吐き出してからわたしの尻たぶをぺチンと叩いた。

 

「あなた様が強情なのは今に始まったことではありませんものね。でも姫様、淑女がクソなどという汚い言葉を使ってはなりませんよ」

 

「クソとしか言いようがない相手なのだから仕方あるまい。それにわたしは淑女じゃない」

 

 どうやら治療が終わったようなので上体を起こしてクラリッサと正面から向き直った。

 剣を振り回すしか能がなく、男であった前世の記憶があるせいか今世でも男を恋愛対象としてまったく見ることができない女がこのわたしである。

 淑女というのはわたしではなくクラリッサのような女性を言うのだろう。

 流れるような金髪を緩い三つ編みにして垂らし、慈母のような優しい表情を浮かべるクラリッサ。

 着用しているのは町娘風の質素なドレスだが、いささかも彼女の美しさを曇らせてはいない。

 タウヌスの聖女と謳われた治癒魔法の名手。

 

「わたくしたちにとっては、いついかなる時もあなた様は淑女ですよ、姫様」

 

「姫様はやめろ」

 

「はいはい。治療は終わりましたのでお召し物を」

 

「よい。もう貴族の娘じゃないんだから自分で着るさ」 

 

 

 

 

 

 わたしたちが拠点を構えている街はラバルという。

 近郊にダンジョンがあるため、探索者でにぎわう街だ。

 国の名はスルバラン自由王国。

 王侯貴族のいる封建国家ではあるのだが、気風としては商人を中心とした自由民と呼ばれる階層の力が強く、前世の影響で封建制が肌に合わないわたしにとっては比較的居心地の良い国である。

 ちなみにわたしたちの祖国の名前はヒューベンタール神聖帝国。

 どこら辺が神聖なのかは知らんが、今上帝は公明正大なお方ではあった。

 その今上帝が任じた勇者は肥溜めの中に燦然と輝くクソオブクソだったけどな。

 

 命がけの戦いを制して獲得したワームの鱗八枚と牙十本は金貨三百枚程で売却できた。

 卸した先がダンジョン探索管理協会、通称ギルドだったので多少買い叩かれた感はあるが、貴重なダンジョン資源を持ち込んでくれる探索者として名を売ることも重要だ。

 何しろ今のわたしたちには一切後ろ盾がないし、何なら祖国では犯罪者に近い扱いを受けている。

 だからこそいざという時には日頃の信頼が物を言う。

 自画自賛するようだが、わたしたちのクランは今ではラバルでもそれなりに名が知られる存在となっていた。

 

 ワームの鱗と牙、その他のダンジョン資源並びに探索報告書をギルドに納め、代わりに金貨三百枚相当の兌換券を受け取ったわたしは、同行させていたテオドールを伴って協会会館の外へ出た。

 ちなみにギルドへの売却は一定額までなら現金で支払ってくれるが、今回のように額が大きくなってしまうと代わりに兌換券が発行され、後から自分でそれを国家認定の金融商人の元へ持参して金を引き出すことになる。

 金貨でパンパンに膨らんだズタ袋を背負って街中をうろうろするわけにも行かないし、身の安全のことを考えても理に叶ったやり方だと思う。

 

「さて、テオドール。用事も済んだことだし、甘いものでも食べて行こうか」

 

「いいんですか?」

 

 上目遣いにこちらを窺うテオドールが絶妙に可愛い。

 彼の年齢は十五歳。

 本来であれば祖国で騎士見習いをしているはずだったが、紆余曲折あってというか、わたしが巻き込んでしまったせいでこんなところで探索者稼業に身をやつしている。

 顔立ちは素朴で、まだ髭も生えていないためどちらかというと女性的な童顔をしている。

 背丈もまだわたしより少し低い。

 栗色の巻き毛は素晴らしい柔らかさで、何かにつけてついつい彼の頭を撫でくり回したくなってしまうのはそのせいだ。

 もっともテオドール自身は子ども扱いされることに反発も覚えているようだが。

 しかし、わたしからすれば彼はまだまだ庇護すべき子ども。

 前世の記憶もあり年齢に比して老成しているわたしにとって、テオドールは弟か息子のようなものだ。

 

「ワーム討伐ではテオも素晴らしい働きをしたからな。そのご褒美だ」

 

「ありがとうございます。でもエルと比べたら……」

 

 テオドールは十五歳にしてはかなりの使い手だが、周りにいるのがわたしをはじめとした歴戦の戦士ばかりなので、どうも自分を卑下する傾向がある。

 しかしテオドールの素質があれば、五年もすれば今のわたし以上の戦士になれるだろう。

 そこまで彼を導くのが庇護者たるわたしの役目だ。

 

「テオはもっと自信を持った方がいいな。同世代の子がそばにいれば少しは違うだろうか」

 

「……よく分かりません」

 

 悩ましい問題だ。

 祖国を追われている関係上、あまり軽率に新しい仲間を増やすことはできない。

 だが周りを大人ばかりに囲まれていては年頃らしい遊びも恋もままならないだろう。

 やはりロルフやクラリッサと相談すべきか。

 

「あの、エル?」

 

「何だ?」

 

「ぼくを頼りにしてくれますか?」

 

 質問の意図が分からず、わたしは目をぱちぱちさせた。

 

「もちろん頼りにしている」

 

 よく分からないなりに真摯に答える。

 頼りにしているのは紛れもない事実だ。テオドールがいない日々など考えられない。

 

「じゃあ頑張ります。もっともっと頼りにしてもらえる男になれるよう」

 

「……ああ。頑張れ」

 

 何やら決意を新たにしているらしいテオドールの横顔を眺めつつ、わたしは痒くもない頬を指先で引っかいた。

 まあ、やる気があるのはいいことだ。

 後でロルフと話してテオドールの訓練内容を見直すとするか。

 

 

 

 

 

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