魅了ハーレムクソ勇者に目を付けられたけどTS転生した元男の自分には効かなかったので張り倒して逃げました   作:pantra

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どちらかというと猫派

 

 わたしたちが主戦場としているラバル近郊のダンジョンに陽光の間と呼ばれる場所がある。

 一度六階層まで降り、その後に特定のルートに沿って三階層上まで戻らなければ辿り着けない、光溢れる大空間だ。

 そこが今回の依頼の目的地である。

 

 依頼にはいくつか達成目標がある。

 大目標としては陽光の間を縄張りにして久しいダイアウルフの群れを殲滅すること。

 そしてオプションの小目標が二つ。

 陽光の間で産する陽光石の結晶採取と、ダイアウルフの素材採取。

 ダイアウルフの素材で価値があるものといえば主に毛皮だが、当然美品であることが求められる。

 こういうのは簡単そうに見えて意外に難易度が高い。

 探索者の腕の見せ所というわけだ。

 

 

 

 

 

「この回廊を抜ければ陽光の間に着く。光量が急に変わるから魔力視の調節を忘れるなよ」

 

「練習してきたから大丈夫」

 

 ランタンを掲げて先頭を歩くわたしの警告を聞き、すぐ後ろを歩くテオドールが頼もしい返事をした。

 魔力視というのは口で説明するのが難しいのだが、簡単に言うとすごくよく物が見えるようになる技術だ。

 暗い場所でもある程度見えやすくなるし、動体視力も向上する。

 といっても天然の光源がない限り基本真っ暗闇のダンジョン内部ではやはりランタンがないと不便だし、動体視力の向上にも限度はある。

 探索者にとっては必須技術だが、言うほど大したものではない。

 

「そろそろランタンを消す。ブルーノ、先頭に」

 

 回廊の終点から光が差し込んでいるのが見えてきたので、わたしは仲間の一人に指示を出した。

 

「ああ」

 

 返事をして前に出てきたのはくすんだ金の長髪を一つ結びにした、背丈が2m近くある大男だ。

 同じく大男のロルフと比べると細身だが、それでも全身鋼のような筋肉に覆われていることが装備の上からでも分かる。

 地味な顔立ちをしたブルーノは寡黙な男だが、わたしが誰より信頼する戦士の一人でもある。

 

 ブルーノはその手に弓を携えていた。

 ダンジョンの中なので大きさは小ぶりだが、かなりの強弓なので威力に不足はない。

 腰の後ろに括りつけた矢筒から二本の矢を取り出し、一本を手に持ったままもう一本を軽く番える。

 

「草の匂いがしますな。それに厚みのある土。冷たい岩。清らかな湧き水。もちろん獣の体臭とかぐわしい糞の匂いも。非常に興味深い」

 

「バルタザール。今は詩の発表会じゃない。必要なことだけ報告しろ」

 

 しょぼくれた魔法使いは長い舌で自分の指を舐め、濡れた指先を最初まっすぐ頭の上に突きあげ、次いで屈みこんで地面を指差した。

 

「足元ですな。陽光の間へ向けて空気が流れています。そして狼は鼻がいい」

 

「さぞや我々の匂いはそそるだろうな?」

 

「蒸れたブーツの香りに涎が止まらんでしょう」

 

 バルタザールの下らない冗談に思わずといった感じでテオドールが噴き出したが、すぐに口を押さえて『僕じゃないよ』という風に首を横に振った。

 後でお説教だ。 

 

「ブルーノ」

 

「先行する」

 

 足音を殺し、じりじりとブルーノが前へ進んでいく。

 今わたしたちは陽光の間という巨大空洞へ通じる横穴にいる。

 過去の探索者の情報によれば、横穴と空洞がつながる場所は切り立った岸壁の根元付近、地面から5,6mほどの高さらしい。

 永遠にも思われる時間をかけてわずかな距離を縮め、ついに回廊の開口部へ辿り着く。

 わたしは背後を歩くテオドールの姿を一度目視で確認し、彼の体を背で庇うような位置取りをした。

 

 ブルーノの足が回廊の縁にかかり、わずかに身を乗り出すような格好になる。

 

 静寂。

 押し殺した息遣い。

 そして、猛烈な獣臭。

 

 開口部の上部から天地逆さまの格好でこちらを覗き込んでいたのは、頭のデカさだけでもブルーノの胴体と同じくらいありそうな巨大な狼、ダイアウルフだった。

 

 テオドールがふいごのような音を立てて息を吸い込むのと、一瞬で最大まで弓を引き絞ったブルーノが自身の頭上から涎を垂らすダイアウルフの顔面に矢をぶち込んだのは、ほぼ同時の出来事であった。

 

 惨めったらしい悲鳴を漏らしながら矢をぶち込まれたダイアウルフが滑り落ちていった直後、恐ろしい勢いで二頭目のダイアウルフが回廊の内部へ躍り込んでくる。

 体長が5m以上はあろうかという巨大な狼はブルーノの脇をすり抜け、一直線に後方にいるわたしたち三人に襲い掛かってきた。

 

「二人とも壁側に避けろ!」

 

 剣を鞘から抜き放ち、噛み砕こうとしてくるダイアウルフの顎を間一髪でかわすと同時、すれ違いざまに脚の一本を斬り裂く。

 こちらも勢いに押されて転がされるが、脚を斬られたダイアウルフもそれは同じだった。

 跳ねるように立ち上がったわたしは牙や爪の届かぬ背中から飛び掛かり、目玉を突き刺してやった。

 そのまま脳みそをかき回すとビクンと痙攣した後すぐに動かなくなる。

 

 ダイアウルフの死骸から剣を抜いたわたしは、回廊に入り込んできていた二頭目を協力して仕留めたテオドールとバルタザールの脇を通り抜け、開口部前に陣取って凄まじい勢いで矢を連射し続けているブルーノの加勢に向かった。

 ちょうど足元から噛みつこうとしている一頭の鼻面を蹴り砕き、もう一頭の顎を縦に斬り裂いて崖下へ突き落してから、ブルーノの腕を引いて後方まで素早く下がる。

 

「バルタザール! やれ!」

 

「あいあい、姫様!」

 

 先頭へ進み出たバルタザールが大仰に魔法杖を振り回してから、石突を地面に力いっぱい叩きつけた。

 

「氷嵐招来!」

 

 杖の先端から猛烈な冷気が噴出した。

 それはすぐに無数の物理的な氷の形を成し、文字通り嵐となって回廊から陽光の間へ向けて吹き荒れた。

 

 ひょろ長い魔法使いが立ち塞がる背後でブルーノが弓の弦を張り直し、わたしも血と脳で汚れた剣身を拭い清める。テオドールもわたし同様に剣身を拭ってから手首をスナップさせて握りを確かめていた。

 

 十数秒ほどだろうか。

 氷嵐が止むと、ひんやりと引き締まった空気と共に静寂が訪れた。

 

「いい露払いだった」

 

「どういたしまして、姫様」

 

「姫様と呼ぶな」

 

 もじゃもじゃの髪の毛に霜が降りたバルタザールの肩に手を置いて労い、わたしは剣先を下げたままの格好で悠々と歩みを進めた。

 

 開口部の縁から陽光の間を見渡し、周囲に動くものがいないことを確かめるとそのまま下へ飛び降りる。

 この世界の強化された人間にとって5mくらいの高さは何ということはない。

 膝のクッションを効かせて静かに着地すると、すぐ後に続いたテオドールとブルーノ、そしてバルタザールの三人の仲間たちを軽く振り返り、わたしはくちびるの端を吊り上げると高らかに宣言した。

 

「さあ、狩りを始めるぞ」

 

 

 

 

 

 




ちょっと短いですが、内容的に切りがよかったのと何か閲覧数とかが面白いことになっているので感謝の突発投稿します。
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